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交流試合 喧嘩というものは・・・

「歳さん、次は任せましたよ」

このような山倉の言葉がきこえてはいるが次の対戦相手、

仏生寺弥助を横目で見ながら土方は面を付けていた。


そして、山南の方へ向き直りと、ぼそり、と嫌なことを言う。

「さぁ〜て、どうだろうな」と答えてはいるが、山南の方が向いておらず、

土方の目は黙って仏生寺だけを見つめていた。


だから気になっている山南までもが、仏生寺の事を見ている。

一方の、仏生寺はというと、大将の渡邊昇に何か言われているようだったが、

上の空のように、ただ何度も頷くばかりで、仏生寺の瞳は土方だけを見ていた。

そして微かに笑みを浮かべていた。


「副将前へ!」斉藤弥九郎の声が道場内へ響くや、両道場からの応援合戦が繰り広げられている。

立ち上がった土方に向けて、沖田宗次郎は声援を送る。

「歳さん!頑張ってください!」

「歳さん!あの方は、ただ者じゃない、気をつけてくださいよ」と山南は言う。

「歳さん!アイツは出来るぞ、気をつけろ」とは源さん。

「歳!後の事は気にするな、好きにやってこい」と最後に勇はそういって送り出す。


「揃いも揃って、好き放題いいやがって、俺がやられるわけがなかろう・・・」

そういって土方は竹刀を握りしめると開始線へと歩を進める。


一方の練兵館側では、一風変わった応援が行われていた。

まずは、高杉晋作がいった。

「俺はお前が日本一の剣豪だと思っている。良いかこれは試合ではなく、真剣勝負だと思って、一度は本気で勝負してみろ」

そして、渡邊昇が続けるようにいった。

「良いか、お前は強い・・・強いが、これは試合なのだ。無茶だけはしないでくれ・・・頼むんだぞ」

後に残された永倉と品川は、何も話しかけず、ただ仏生寺を見つめているだけだった。


そんな応援にたいして、仏生寺は片手で突き放す仕草を見せる。

その姿は、まるで俺に助言など無用である。とでも言いたげである。


「あいつ・・・また何か、やらかさなければ良いが・・・」一抹の不安を覚える渡邊昇だったが、

皆一様に頷いているところを見ると、同じような不安を抱いているようだった。


仏生寺と土方の両者は、開始線へと進んでいく。

両者睨み合いながら歩を進めている。

お互いに礼を済ませると蹲踞をして待つ最中にも睨み合いは続いている。

そして立ち上がり開始の合図を待っているというよりかは睨み合っている。

「はじめ!」の合図に、土方は腹の底から気勢を上げた。

「きぇぇ〜!」

しかし、一方の仏生寺からは気合いの気すら感じられず、

ブラリと竹刀を下げたまま立っていた。いや、立ちすくんでいたとでも言うのだろうか、

とんだ勘違い野郎だったかと、一瞬気を抜いた土方だったが、


「こいよ、どうした?ほら、打ってこいよ。どうした、怖いのかよ!」と、試合の最中にも関わらず、

仏生寺は罵倒し続けた。その言動にはさすがに審判の斉藤弥九郎から注意が入る。

「これっ、主語は慎みなさい!」

仏生寺は微笑んだというよりかは笑った。げらげらと笑った。

そればかりか、自分の師匠でもある筈の斉藤弥九郎までも侮辱する格好をすると、

流石に渡邊昇も我慢の限界に達したのだろう。

「仏生寺!真剣にやらんか!」と一喝するが、

「うるせぇよ!俺の好きにさせてもらうぜ!」そんな言葉を仏生寺は返しながら、土方にたいして、

「えっと、土方くんだったっけ?ありゃりゃ、折角の好機を逃したよね・・・

折角隙を作って待っていたあげていたのになぁ・・・勿体ないよなぁ」

「・・・・・・・・・」

「なんだい土方くんは、しゃべれないのかい?」

「なんだおまえ?・・・・・・おまえは馬鹿か?」

「てめぇ、もう一度いって見やがれ!」仏生寺は土方に掴みかかろうとしたが、

「仏生寺!これ以上、相手を侮辱すると破門にするぞ!それでも良いか!」

今までは審判として対応をしていた斉藤弥九郎だったが、

ついに怒りをあらわにして怒鳴り散らしながら、仏生寺を土方から遠ざけると

場外の手前にて注意を行っているだろう。

再三注意された仏生寺を見ていた誰しもが、これでやっと大人しくなり

試合を観戦出来ると思っていると、そんな思いを完全に裏切られた事に二重の驚きを味わう。


斉藤弥九郎の注意が終わるやいなや、

「うるせぇよ!いま勝負してやるから、お前は大人しく審判でもして黙ってろよ!」

そういうと仏生寺は師匠である斉藤弥九郎を手で押しのける暴挙に出る。

これには、道場内全員の口が開いたままで閉じることを忘れさせていた。


そしてそのまま土方目掛けて走り出す。面と面が擦れる辺りまで近づくと、

「またせたな!」大声というより叫ぶと、土方にたいして笑いかけている。

そのままの表情から、完全に不意打ちによる胴打ちを仕掛ける。


だが、土方は柄で軽々と受け流すと、面と面を擦り付けながら負けずにいう。

「あん? なんだお前、俺に喧嘩を売ってるのかい?それともただの卑怯者かい?」

そういわれた仏生寺の面の奥の顔つきが変わる。


「はっ、だったらどうした?だったらどうしたよ?」

「あん?だったら上等だよ!一世一代の喧嘩と楽しもうかい!」土方の面の奥の顔が嬉しそうに笑っている。

「ほぉ、おもしれぇ!おもしれぇよあんた! 俺と喧嘩するってぇ事が、どういう事なのか教えてやるよ!」

仏生寺は面と面を擦り付けた状態だが、防具の付いていない箇所を狙い定めて

バシ、バシ叩き始める。


「馬鹿か、おめぇ、そんな攻撃なんぞ、痛くも痒くもねぇや、おめぇの喧嘩てぇのは、そんなものかよ!」

そういうと、土方は仏生寺にたいして思いっきり頭突きを食らわす。

一瞬仏生寺の顔が後ろへ下がるが、何事も無かったかのように戻ってくると面の下の顔は笑っている。

「おもしれぇよ!あんたおもしれぇよ!」負けじと、頭突きを食らわす仏生寺だったが、

その攻撃だけでは終わらず続けざまに、土方の横面に狙いをつけて打ってくると、

「弱ぇ!弱ぇ!あめぇ、あめぇよ!」負けじと仏生寺の攻撃を払いのける。

「おまえ、おもしれぇ! おませおもしれぇよ!」

仏生寺は右小手を狙い打ち付けるが、またしても土方はその竹刀すら跳ね返した。

跳ね返された竹刀だったが、仏生寺は手首の返しを器用に動かしただけで、

左小手に狙いを変える奇策に出る。だが、またしても攻撃そのものを跳ね返すのである。


「うむ。これが、これが試衛館の剣術か・・・俺の聞いていたのと少し違うな・・・」

「そうかい、おめぇの聞いていた剣術はどんなもんだったかい?」

「そうだなぁ、おれが聞いていた剣術はたしか・・・」

仏生寺は手に持っていた竹刀を土方に投げつけると、両手で首を締め付けに入る。

「やっぱり、喧嘩は良い。やっぱり喧嘩はこうじゃないと!」首を締めつけながら土方は言う。


土方は握りしめていた竹刀を投げ捨てると、仏生寺の左面を殴りつける。

仏生寺の顔が右に流れたが、躊躇することなく左面を殴りつけるが、

仏生寺も負けてはおらず、土方の胴へ蹴りを入れる。

両者、竹刀ではなく胴へ対しての蹴り合いをしている。


道場内は余りの出来事に静まり返る。

土方が右面を打つと、仏生寺が左面を打つ、そんな遣り取りが永遠に続いている状態に、

ここで、やっと我に返った斉藤弥九郎が両者の間に飛び込んだ。

「やめ!やめ!やめんか!」と叫んでいる。


その声にて目が覚めた両者の仲間たちが飛び出してくると両者を分ける。

しかし怒りが収まらない仏生寺は、羽交い締めにされながらも土方に毒付く事を止めようとしない。

「ほら、こいよ!まだ勝負はついてねぇよ!ほら、こいよ!」と足をばたつかせる始末で、

土方までもが羽交い締めにされながら喧嘩を売っている。

「おめぇの喧嘩もたいした事ねぇな! どうしたい、それで終わりかよ!」


そんな遣り取りの最中に、嶋崎勇は練兵館の塾頭・渡邊昇に頭を何度も下げている。

だが、渡邊昇も勇に対して何度も頭を下げ続けている。

ここで斉藤弥九郎からの一言で収拾に向かう。

「今日の交流試合は中止だ!今日の交流試合は中止である!」


仏生寺は、中止と言う言葉に対して声を荒げる。

「ふざけるな!まだ終わってねぇよ!早く続きをやらせろよ!」

一方の土方はというと、やっと自分した行為に気づくと小さく、

「大事な交流試合をすまねぇ・・・」と誤りを入れるが、

心の中では、売られた喧嘩を勝ったまでよ。そう思っていた。

しかし、これはこれ、それはそれだ。そう思った土方は、

一人一人にたいして頭を下げながら詫びてまわる。

「すまぬ宗次郎・・・俺のせいで折角の交流試合が台無しにしてしまって、本当に申し訳ない」

土方が謝っている最中にも、仏生寺は反省すらしていない様子でまだ何やら叫んでいた。


「いえ、土方さんは間違えってないです。売られた喧嘩を買わないなんて武士ではないですから」

あの頃に比べて、宗次郎の背も高くなってはいたが、小手の付いたままの手で、

土方は宗次郎の髪をグシャっと潰して撫でつける。そして、その言葉を聞いた、試衛館の連中は笑い転げた。

「まちがえねぇ」といいながら・・・・・・。


仏生寺もやっと観念したのか、諦めたのか始終俯いていた姿が印象的だった。

近藤周助と斉藤弥九郎による話し合いが行われ、何とか喧嘩両成敗としてこの場を収める事が出来た。

その結末に試衛館と練兵館の連中は胸を撫で下ろしていた。


やっと、お開きとなると、両道場生たちは道場内で残り盛り上がりをみせていたが、

永倉新八だけは違っていた。先ほど死闘を繰り広げた、試衛館の連中の前へ歩を進める。

まずは、沖田宗次郎を労い、嶋崎勇と、源さんと、山南に話しかけたが、

土方には笑いかけていた。そして近藤周助の元へ進むと、

「今まで私は、色んな道場を見て来ましたが、ここ試衛館ほど素晴らしい

剣術道場は見た事がありません。私を食客として、ここへ置いてもらえませんでしょうか・・・」

神道無念流の免許皆伝が頼み込んできているのだ、断る理由などあるわけもなく、それよりも

これほど頼もしい食客は居ない。こちらが頼みたいくらいだ、と、すぐに快諾して食客として招き入れた。


さて、交流試合が終わって数日後に、練兵館の連中と、試衛館の連中は偶然に街で出くわす。

中には当然、土方と仏生寺がいる。

連中は、街で喧嘩するのでは・・・と、冷や冷やしていたが、

一瞬、土方と仏生寺は視線を合わせたが、両者とも喧嘩をしかけることもなく笑ってすれ違う。


そんな土方に沖田宗次郎は尋ねた。

「土方さん、もう喧嘩はしないのですかい?」

「あぁ、しねぇよ、あいつは強ぇからな」


土方は右腕を上げると、仏生寺も右腕を上げていた。

まるで、お互いに認め合った相手にたして敬意を示すかのように。


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