クリスマス番外編 似合うのはサンタコスではなくて…
煌びやかなシャンデリアの下。
サンタコスの人々やトナカイのカチューシャを付けている者等、クリスマス一色となっている。
しかも美男美女ばかりという、目の保養!
パーティーホールの中央には雪だるまやプレゼントボックスを模した小さな飾りがぶら下げられたモミの木が配置され、その周りにクロスのかけられた丸いテーブルが三十から四十ぐらいランダムに並べられている。
そして壁際には湯気のたつ美味しそうな料理の数々が。
今日はクリスマス。
勿論、魔界にはクリスマスという文化がない。けれども人間界でそれを知った魔王が、城にて「クリスマスパーティーをするのじゃ!」と勝手に盛り上がり開催が決定。
今回は初なので、参加者は城勤め限定で。
それを聞いたシリウスがサンタコスをしたいと言い出し、異文化マニアのグレイルも同意。
そして魔王も「余も!」と続いたかと思えば、それがメイドに広がり……――って、結局全員。
やるのは構わない。だが、コスプレなんてしなくていい。
だってこの次期バイトで嫌でもサンタコスをしなければならないから。
何が悲しくて仕事終わりにまたやらなければならないのだ。
そのため断った。私はやらないと。
だがしかし、今日バイトが終わって会場に着くとメイド達に強制的に着替えをされた。
どうやら魔王が用意していたらしい。
それで仕方なくそのままの格好で遅れて会場へと入れば――
「なんか違う気がするのじゃ」
「そうなのよねぇ……しっくりこないというか」
「えぇ。魔術師が騎士服を纏うように違和感があるんですよね」
魔王、シリウス、グレイルは私のサンタコスを見るなり、そんな事を漏らし始めたのだ。
いや、待てって。私だって好きで着ているわけじゃない!
しかも、それに対して周りに居る他の魔族達も頷いているし!
私が自分で着るって言ってないのに何故この扱いっ!?
「言っておくけどさ、こういうのはヴィジュアル大事なわけ。ただしイケメンに限るってやつ。だから私が似合うわけがない。典型的な日本人体型だし」
いかにもサンタの風貌をした外国人なら似合うだろう。
それか違う意味でなら、グラマラスなお姉さんによる夜のサンタとか。
それなのに、「これじゃない」って言われても困るっつうの。
「違うのよぉ~。美咲にはあれが似合うの! あれよ。あれ! 前、美咲が着ていたやつ」
「そうなんですよね。やはりあれが美咲様にしっくりきます」
「たしかにあの迫力は凄かったのぅ。でも、いつもの美咲の方が怖いが」
「待て。なんの話なのよ?」
私は飲み物を持って来てくれたメイドからグラスを受け取りながら尋ねた。
しゅわしゅわとグラスの中で弾いている泡の音のように、私の心も忙しなく動いていた。
どうせ碌な事を言わないのはわかっている。けれども、一応念のために訊いておく。
勿論、お姫様の着るようなドレス! ……なんて返答がある事を期待してはいないのは言わずもがな。
「なんて言ったかのぅ? グレイル」
「もういっその事、あれを着て下さい! クリスマスですし」
「はぁ? クリスマスって言ったらサンタじゃないの? もしかしてトナカイ?」
「違いますよ。さぁ、僕の私室にコレクションがありますので」
とグレイルに促されて、私は彼の転移魔法で強制的に移動することに。
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再びシャンデリアが輝く下にて。
私はグレイルの部屋でとある衣装に着替え、パーティーへと舞い戻って来ていた。
「これよ、これ。美咲に似合うのはやっぱりこれよねー」
「そうじゃ」
「やはり美咲様が似合うますねぇ!」
和気あいあいと話している三人を前に、私は手に握っている出刃包丁を模した紙細工へ勝手に力が込められていた。そのため、ぐしゃりと形が変化。
それなのに、三人は呑気な雰囲気を醸し出している。
まて! 近くにいる連中も何故何度も頷きながら、「これですわよねぇ」としみじみと口にしているんだ!?
「……お前らいい加減にしろよ。クリスマスだぞ? クリスマス!」
私がいま身に纏っている衣装は、藁蓑と藁沓。
そして顔には凄まじい形相の赤鬼の仮面。
……そう。ナマハゲだ。
たしかに以前のハロウィンではナマハゲをやった。
だがしかし、今日は聖夜だ。
クリスマスにナマハゲって、違うだろうが。
それよりもまず、私にナマハゲが似合うってどういう意味だ!?
あれは顔が隠れているし!
つまりイケメンだろうが、美女だろうが、私がやろうが誰がやっても同じだ。
「なんでも美咲様の世界でも異国にて、クリスマスにそのような文化があるとか」
「あれはナマハゲじゃない。クランプスだ」
……まぁ、確かに似ているが。
けどさ、あっちの方が怖くない?
なんか、魂奪われそうって感じで。
「美咲様」
突如として後方からかけられた声に、振り向くとこれまた面倒な男が佇んでいた。
「……リヴァか」
このカオスな状況を増殖させるような人物。
取りあえずバイトで疲れているんだ。少しはツッコミ役を休ませて欲しい。
リヴァはあいからずのパンク風らしく、サンタの衣装もカスタム。
上下真っ黒な衣装なのだが、所々ダメージをわざとつけている。
それから首元には首輪風のチョーカーが。
それが細いチェーンが付けられ、手首のブレスレットへと繋がれている。
――サンタに鎖って……そもそも、ブラックサンタかよっ!?
もうなんでもアリのような気がするため、ナマハゲがいてもいい気がしてきた。
「ナマハゲやるのでしたら、今度幼等科に行って下さいませんか?」
「はぁ? なんで魔界の学校に?」
「ハロウィンの仮装コンテストで美咲様がやったじゃないですか? あれ結構評判良くて。子供達がナマハゲ怖さに、玩具とか進んで片付けだしたそうなんですよ」
「それはいい事じゃん」
「えぇ。ですが、子供というのは日々新しい事に目が行くので、ナマハゲの威光が薄れて無くなってしまったんです。ですから保護者達からナマハゲ復活を望む声が。ですので、今度幼等科へ行って下さい。上手くいけばグッズとして売店で売りますので」
「守銭奴め。さすがはブラックサンタだな」
「最高の褒め言葉です。赤ってあまり好きじゃないんですよ。ほら、赤字って言葉を連想して。だから衣装も黒にしたんです」
そこまで衣装にもこだわっていたのか。
趣味じゃないのか?
「城の財政も少しずつ良くなってきているので、ここは頑張り時なんですよ」
「だから、誰かにやって貰えばいいじゃんっ! どうせ誰やっても同じだし」
「違いますよ」
「そうよ! 自信持って。美咲にぴったり」
「えぇ」
「でも、美咲の方が怖いがのぅ」
リヴァに賛同するように、グレイル達の言葉が続いていく。
本当に失礼な奴らだ!
なんでナマハゲをやりきる自信が必要なんだよ?
「顔隠れるじゃん。だから、私じゃなくてもいいでしょ?」
「それが、迫力に違いがあるんですよ。以前魔王様が衣装を着たのですが……」
「魔王がやったの!?」
驚きの声をかけながら、隣へと視線を向ければ頷かれた。
「それが以外と難しいのじゃ……美咲の負担にならないようにと、余が幼等科に出向こうとしたのじゃが、皆に止められて……」
ます、優しさはそこに注がないで欲しい。
もっと違う所があるだろうが。
……というより、本当にナマハゲやろうとしたのか。
「仕方ありませんよ。魔王様では迫力が……慈悲深くお優しいので、溢れてしまわれるのでしょう。隠しきれないのですよ。やはりここはナマハゲのような心を持つ美咲様に!」
「……おい」
どんな心だ、それ。
――サンタさん。毎年のお願いごとで恐縮ですが、魔族にデリカシーというものを授けて下さい。