☆逆お気に入りユーザー444お礼☆ もしも魔王が惚れ薬を飲んだら?
「シリウスっ! これなんとかしてよ!」
「でもねぇ……薬の効果が切れたら勝手に治るし」
「待てない。バイトがあるんだってば!」
私は腕にしがみついている人物を引きはがしつつ、優雅に応接セットに座っているシリウスに訴えた。
これからバイトだというのに、魔王が腕にしがみついて離れない。もうべったりだ。
カラオケ店というのは、平日の夕方もそうだけど土日が込むというのに。
何故いつもに増して魔王がこんなにも面倒になったかと言えば、惚れ薬を飲んだから。
本当は私に飲ませようとしたらしいが、一緒に自分の分の飲み物も持って来たらしく、
どちらに混ぜたのかわからなくなったらしい。
それでこの状況だ。こういう所が本当に魔王っぽい。どっちに混ぜたか覚えておけよ。
「魔王、離れろって!」
「いやじゃ。美咲のバイト先には男もおるじゃろ? 蓼食う虫も好き好きというではないか。
美咲を見初めない男がいない可能性がなきにしもあらずじゃ。余は許さんぞ」
「はぁ!? お前、今なんて言った!?」
そう怒鳴ればきょとんとした魔王がこちらを見詰めていた。
「バイト先にも……」
「違う! その後! 後だ!」
蓼食う虫もって可笑しいだろうが。しかも可能性がなきにしもあらずって言うなよ。
「どうしてじゃ? ことわざとやらの意味もあっておるはず……」
「惚れ薬飲んでるんだろ!? なら、もっと上げろよ! 持ち上げろ! 褒めろ!」
「何故、美咲はいつも怒っているのじゃ? とにかく外出は禁止じゃ」
「ぐえっ」
魔王が一瞬拘束を解いたかと思えば、今度はその胸に抱き込まれてしまう。
そのため私はすっぽりと魔王に抱きしめられた。
しかも絶対に離しません! というぐらいに力強く。
「バイトがあるんだってば!」
「駄目じゃーっ! 今日の美咲は珍しくスカート。それが馬子にも衣装で似合っておる。
なおのこと駄目じゃ」
「おい。だから可笑しいと何度も言っているだろうが!」
「だから何故そうも美咲は怒っておる?」
「もういい。離せ。バイトに遅れる」
「駄目じゃ!」
そんな攻防が繰り返される中、「ねぇ」というシリウスの妖艶な声が耳に届いてきた。
「何? 解毒剤作ってくれるの!?」
「いいえ。私がそのバイトを代わりに引き受けるわ。人間界にも興味があるもの」
そのシリウスの申し出に、私は眉を顰めた。
カラオケなんて魔界にはない。そのため、どういった事をするのかすら知らないはず。
バイト先に来たのも1・2度だけだし。
「無理だよ」
それにはすかさず即答。考えるまでもない。
「あら、問題ないわ」
そう言って髪をかき上げたシリウスに対し、私は頭を抱えたくなった。
何故そんなに自信があるのだろうか。どっから湧いて出て来るんだ……
「でも、このままならあちらも困るでしょ? 一度窺ってみて駄目そうなら戻ってくるわ」
「まぁ、たしかにそうだけどさぁ……」
結局、私はシリウスにお願いする事にした。
駄目かどうか店長が判断すると思うから、大丈夫と判断すれば問題ないだろうな。
+
+
+
「ただいま」
「シリウス! おかえり!」
ベタベタとひっついている魔王にもなんとか慣れた頃、シリウスが戻って来た。
「はい、これ。臨時のバイト代だそうよ」
そう言われ差し出されたのは銀行の封筒だった。
いつもは口座振り込みだけれども、1日だけだから店長が現金で渡してくれたのだろう。
「いいよ、シリウスが働いたんだもん。シリウスの物だよ」
「あら、でも……」
「いいから」
「そう? なら頂くわ。ねぇ、美咲の世界の物価がわからないのだけれども、十万円あればお寿司食べられるかしら?」
「……待って。なんで十万円なの!? 今日のシフトは五時間だから、その計算だと時給二万円になるんだけどっ!?」
……って、まさか。
「今日おかげでお客さんがいっぱい入ったから、お礼で弾んでおいたって言っていたわ」
店長ーっ! やっぱりか!
私、あそこで働いて長いですよね!? なのに一日でこの差かよっ!