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番外編 姿は変わろうと君は変わらない その5

『誰狙い』なんて聞かれてもそのような対象相手いないんですけど?

なかなか答えない私に苛立ちを覚えたのか、そいつは「おい。さっさと答えろ!」と私に怒号をぶつける。


たまらず溜息を吐きたくなったけど、私は表情を崩さずにその男を見上げた。

身なりの良い格好からして、どこぞの貴族か官僚か。

いかにもとっつきにくそうな真面目風な男性。

一体誰の親衛隊なのだろう? 範囲が広すぎる。

その男性の後方や左右の列ではこちらの様子を酷く気にしているらしく、ざわざわしていた。

それは波紋のように広がり、この人達の興味を私へと知らせてくれるバロメーター化している。


――さて、なんて答えればいいわけ?


ここで私が誰かの名を挙げれば糾弾確実。

くじ引きどころではなくなってしまう。

そんな事になってしまえば、リヴァにどやされる。


でもさ、答えなかったら答えなかったで面倒になる事は目に見えているし。

さて、どうすっかな~。と数秒ほど思案したどり着いた結論は、「私には一応婚約者が居るではないか」という結果。

あれは見た目は魔界一。いや、世界一じゃん。

それは誰もが認める事実。

中身はうん……まぁ、あれだけど……

だが、魔王ならば文句を言う者はいないはず!!


「誰狙いでもないですよ。俺、婚約者いるんで。しいて言うなら、その子ですかね」

営業用の笑顔でなるべく爽やか目に見えるように言ってみた。

これは長年の接客業の成果。

だが、それを貴族風の男やその回りの連中の男達がぐっと眉間に皺を寄せてにらみ返した。


「そんな事で逃げられると思うな。ここにいる連中の中には結婚している奴もいる。

そんな理由が通るわけがない。それにレティナ様に何も感じない男などおるものかっ!!」

「あんた、レティナの親衛隊か……」

レティナとは王立図書館の司書。

クールビューティーって感じのタイプだ。

あまり笑った所を見たことがないんだよね。


最初会った時、「こんな先生居たら、きっとクラスの男子盛り上がるだろうなー。怒鳴られたい奴とかいそう」って印象だった。

新緑のストレートヘアを一つに束ね、猫目をより引き立たせる黒フレーム眼鏡を装着。

黒い細身のワンピースは体のラインを浮き彫りにさせていた。

あれで教鞭でも持てば完璧。

でも、本人は先生ではなく司書だけどね。


魔界の王立図書館勤務のため、シリウス達と違い比較的親衛隊が会いやすい。

王立図書館は城下町にある上に、魔界の人だけでなく人間にも使用許可が下りているから。

だからマナーの守らない親衛隊が来て大変だった時期があった。


そんな奴らをレティナは、騒ぐ連中を片っ端から雷を落としていく。

だがなぜか怒鳴られた側は反省の色を浮かべず恍惚の表情を浮かべているので、そいつらはレティナの神経を逆なでしてしまい図書館からおいだされてしまう。

そして二度と図書館へと入る許可を下さない。


「ちゃんと様つけぬか! あの聖女のようなレティナ様を呼び捨てにするとは!」

くわっと瞳孔を開き腕を掴まれ左右に揺すられる中、私は思った。

レティナって聖女タイプじゃないじゃんかと。

どう見てもSなお姉さん……人によってとらえ方違うんだなぁ~。


「すみません、以後気をつけます。とにかく私……俺は興味ありません」

「嘘つくな!!」

「ついてませんってば」

しつこいなぁ。

これはもう誰かの名を言っておかなければならないのか?


「誰だ。言え。聞いたぞ。お前、美咲様の親戚なんだって? 言え。コネを使ってまで誰狙いでスタッフに入った!?」

もうこれは誰かの名を出さなければならない状況らしい。

シリウスにしようかと思ったけど、それはそれで大騒動だし。

かと言って他の人の名も出せない。


しようがないな。ここは――


「しいていうなら、美咲ですかねぇ」

えぇ、自分の名を出しました。

その方が揉めないと思うので。

一応魔王の婚約者という身分ですし。


私がそう口にすれば、あの貴族風の男やこちらの話に意識を集中していた奴らは口をぽかんと開けた。

かと思えば、半笑いの表情を浮かべる。


「お前、美咲様って……いくら親戚だからってそれはないだろ」

「そうだぜ。お前それ親戚のよしみだからだろ? 美咲様だぞ。美咲様」

それぞれ思うように口にする男達に、私のコメカミは脈打っている。


――なんだ!! その言い方は!?


「魔王様は慈悲深く、我ら人間が考えられぬぐらいのお考えを持っておられる。

それだからあえて美咲様を選ばれたのだ。お前は従兄だからそう思うのだろ?

それは身内のフィルターだ。フィルター」

「そうそう。美咲様とこのくじになっている他の方達とはレベルが違う。レベルが」

「だよなー。だってあの方普通だし。全然町に溶け込んでるって。最初魔王様とバルコニーから

手を振っているのを見た時、あれ? と一瞬首捻ったぐらいだし」

「なー。我らがシリウス様と美咲様じゃ、次元が違うしな」

「あぁ」

そんな言葉を耳に入れ、私はこいつら全員入国禁止にしてやる! と叫びたかった。

なんでこんなに私が落とされなければならないっ!?

私だってシリウス達に勝ってると思ってないよ。

でも誰かの名前を言わなきゃならない状況だったから言ったまでじゃん!!

一応仮にも魔王の婚約者なんだし?

それなのにこれかよ!?


痙攣する唇をなんとか落ち着かせようとするが、静まらない。

心頭滅却。心頭滅却。

落ち着け。ここは流せ。流すんだ!!


「と、とにかく俺は興味ないです。今日は風邪を引いて寝込んでいる美咲の代わりで仕方なく

代理として働いているだけです。俺の婚約者は世界一なんで、他には目移りなんてしません。

あいつ、すっげぇ可愛いんですよ? 生き物か? って疑問に思うぐらいに綺麗なんです。

声も姿も。おそらく、可愛いって言葉はきっと俺の婚約者の為にあるんですって。

離れていてもあいつに夢中でしようがないんですよ。ハマって仕事も碌に手につかないぐらいで少し困っているんです」

なんて、ちょっと大袈裟に婚約者命って言ってみた。

さすがにここまで言えば充分だろ。

これで「誰狙いだ」なんて事を言わないだろうと思った瞬間、ガサッと何かが地面に落ちる音が

耳に届く。

それは私から数メートル離れた先。


――なんだ?


訝しげにそちらを見れば、この世で一番美しい女が頬を染めこちらを潤んだ瞳で見つめていた。

足元にバスケットを落としつつ。

それを目にした男たちはまるで呼吸を忘れてしまったかのように静まりかえる。


あぁ、なんだか沈静化しなさそう……







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