番外編 姿は変わろうと君は変わらない その3
城の売店内には、一般人が立ち入ることのできない場所がある。
それは扉に『スタッフ以外は入室を禁止とする』と注意書きがかかれた部屋だ。
そう。所謂、スタッフルームというやつ。
テーブルや椅子、それからお茶セットや雑誌なんかが置かれてあるのでいたせりつくせり。
休憩の他にも会議等も行われる。
たとえば、今のように――
ただ今、ミーティング中。
内容は後一時間後に発売される魔界くじについて。
だが、それは和やかには終わることはできない。
リヴァと私が絡んで終わるはずがないから。
――なんなのよ!? これっ!!
私は今さっき貰ったばかりの書類を見て震えていた。
何もこれは別に寒いからではない。
気温ではなく機嫌の問題。
まあ、とどのつまり怒りに震えているというやつだ。
「リヴァ!!あんたまた私の事を無許可で商品にしたわねっ!?」
本日発売の新商品・魔界くじ。
それに関する書類を、売店の責任者である財務大臣へとつきつけてやった。
それを目の前に居たあいつは眉一つ動かさず手で払うと、私の横に一列に並んでいる他のスタッフにも同じ書類を配り始める始末。
今すぐやぶり捨ててやりたいが、これはスタッフ用で事細かい注意事項が書かれているため捨てるにすてれないのが悔やまれる。
「聞け。人の話!!」
「美咲様。この後、荷物運びなどもしなければならないんです。時間がないんですよ」
「それがどうした。それよりもこれを説明しろ」
私は再度リヴァへと例の書類をかざした。
そこに書かれているのは、『本日発売! 魔界くじ。君は何等が当たる!?』
一等美咲様フィギュア 個数1
二等ツーショット写真撮影券 各種1
三等サイン入り……――とずらずらと景品の写真と文字が書かれているモノ。
「これが何か?」
「何かじゃねぇ。まず、二等以下はわかる。魔界で人気のシリウス達のサイン入り私物やグッズ。
そこまでわかる。だがなぜ一等が私なんだ!? しかもこれどうみても私じゃなくてカ――いや、もういい。その件に関しては諦めた。それよりこの魔界でも親衛隊が出来るほど人気の美女軍団の中になぜ私を入れるんだ!?」
「美咲様は魔界の妃になられるお方ではないですか。いわば魔界にいる全ての女性のトップに立たれる方。そんな尊き方を入れないわけにはいきませんよ。敬意を払おうと私なりに考えた結果です」
「敬意を払う方向性が間違えてるだろうが……」
なぜこうも魔界の連中は極端なんだ。
「いいか。シリウス達を目当てにして来ているのに、これが出てみろ? 一等だが事実上の外れくじだ」
「美咲様。時間が押されてくじ発売が遅れてしまえば、暴動が起きても不思議ではありません。ですから、そんな細かいお話は後です」
言いたい事は山ほどあったが、たしかにこいつの言う通りだ。
親衛隊を持つぐらいの人気を誇る魔界の美女軍団。
魔界で行われたハロウィンの仮装パーティーにて、そいつらを見たがすさまじかった。
もう熱気が……
これは発売延期などになったら、たしかに大事になるな。
私はそう思い、口を閉ざした。
「会場は売店だと混み合うので、野外に設置致しました。少し遠いですが、荷物はそこへ運んで下さい。
売店は二名。それ以外の人はくじ会場をお願いします。美咲様はレジ早いので必然的にくじ担当で」
「わかったわよ」
しぶしぶ納得する。
しようがない。がっぽり稼いで国の負債を減らさなければ。
「あと、それから美咲様。お気を付け下さいね。今、男性なんですから」
「わかっているわよ。もう変質者に間違われないようにするよう、気をつけて行動するってば」
あの後、シリウスにより誤解が解けた。
みんな謝ってくれたけど、あれは私にも悪い所があったし……
「いえ。そうではなく、今の姿は男性なんですよ」
「それが?」
そう問えば、リヴァはわざとらしく眉をはね上げてみせた。
「城の人間は美咲様が男性になられたのを知ってます。ですから問題ありません。ですが、城の外は違います。しかも今回はよりによって、魔界くじの発売。しかも女性編。つまり、購買層がほとんど男なんですよ」
「それで?」
「シリウス達がもし万が一にも特設会場に来たりでもすれば貴方は間違いなく嫉妬の矢に打ちまくられますよ」
「あー、そういうこと」
「美咲様、ご忠告して差し上げます。男の嫉妬を甘くみてはいけませんよ?」
そんなリヴァの忠告を軽い返事をし、私はすぐ横に退けた。
だって男の嫉妬って言ったって、女性の嫉妬とは違う。
なんて考えていたけど、やっぱり嫉妬は嫉妬だと言う事をこの身で知る羽目になる。