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番外編 姿は変わろうと君は変わらない その2

「結局、姿形は相変わらずのままただ男になったのか」

洗面台上にあるゴールド縁の鏡に映るのはイケメンというわけではなく、いたって普通の男性。

可もなく不可もなく。

恐らくその辺に歩いていても違和感ないだろう。なんか自分で言って悲しくなってきたけど。


魔王があんなに美女になったのだからもしかしたらと淡い期待を抱いたが、どうやらあの果物は持っている素材そのまま性別だけ変化するらしい。

どうせならイケメンという追加設定が欲しかった。

平凡な男が異世界召還されなぜか絶世の美女に性別変化して……――みたいな異世界パターンもあるはずだが起こらなかったようだ。


シリウス曰く時間が解決してくれるということなので、私達は取りあえず予定通り過ごす事にした。

魔王は執務、私は城の雑用と売店手伝い。

女性から男性に急に変わったので、歩き方一つでも違和感を覚えられ不審者扱いを受けるかと

思ったけど、以外と違和感がないらしい。廊下で数人とすれ違ったが誰にも何も言われなかった。

どうやら女性らしいしぐさというのは、私とはずっと無縁だったようだ。


「……また結局このパターンか。まぁ、私らしいえばらしいけどさ」

鏡の下に設置されている何かの動物をかたどった蛇口をひねり、手を洗う。

これまた蛇口もゴールド。魔界のトイレはやたら装飾が派手すぎる。


えーと、次の予定は売店か。今日から新商品出すから忙しくなるって言ってたっけ……

なんだろ、新商品って。男性客対象って言ってたよね。

とりあえず忙しくなる事は確実か。今日の風呂は温泉入浴剤だな。

リヴァが私に売店の仕事を頼む時は、かなり忙しい時。

レジや品出しに慣れているからと、よくイベントある時などは呼び出されてしまうのだ。


今日も頑張って稼ぎますか。タダ働きだけど……

と、御手洗いの扉に手をかけ廊下へと出ようとした時だった。

ぐいっと扉が開き、馴染みの姿を目にしたのは。

それはクリーム色のワンピースに売店のロゴが入った赤いエプロンをした女性。

城の売店スタッフのマリアンヌだ。


「あ、マリアンヌじゃん。もしかして、今日シフト入っているの? 私も入っているんだ」

手を上げてそう言えば、彼女は顔を引き攣らせながら後ろに少しずつ下がっていく。

あれ? どうしたんだろうか?

なんて思ったのもつかの間。すぐさま絹を裂くような悲鳴がその場に響き渡った。


「ちょっ!?」

驚かせた!? 扉を開けたら、人がいたらさすがに驚く。

だが、あまりにもリアクションがでかすぎる。

そのボリュームじゃ、人が集まってきちゃうじゃないか。


「ごめん。ほんとごめん。やっぱ急に――」

「いやぁぁ!! 変質者っ!!」

彼女は私を指さしとそう叫んだ。


「え? 変質者?」

ちょっと待て。私? 

いやいや、変質者に間違われるような不審行動とってないんですけど。

ただトイレから出て来た――あ。

ここではたりと気付いた。


――今、私は男だったんだっ!!


「ちょっと待って。これ誤解。マリアンヌ、話を……」

「いやぁぁ! 変態、近づかないで!! 誰か誰か!!」

一歩近づけば、数歩マリアンヌに下がられてしまった。

わかってる。これが正常な判断だという事も。

でも少しでいい。話を聞いてくれないか。


「ごめん。あのさ、なんかかなり誤解を受けているようだけど、この恰好は男だけど私は――」

事情を説明しようとしたら、数人の足音が廊下に響き渡る。

それを聞いて、私は終わったと思った。


ますます状況はややこしくなるぞ……

おそるおそるその方向を見れば、案の定警備兵達だった。


「どうした!?」

「この人が女子トイレに!!」

マリアンヌ、待って。誤解。誤解なんです。

たしかに私が悪かったです。事情を城内に広めるべきでした……

慌てて騎士に駆け寄るマリアンヌを視界にとらえながら、私はこれから起こるであろう最悪の

想像に頭を抱えてしまう。


「ちょっと待って。 私、私だってば。美咲!! たしかにこの恰好で女子トイレに入って誤解を与えたのは悪かったと思う。でもかと言って男子トイレというのも……って、聞け!!」

がしっと両腕を騎士達に捕えられ、私は免罪を訴えた。

だが彼らは聞く耳を持ってくれず、「詳しい事は取調室でな」と言って引きずっていく。

このままではマズイ。

私は息を大きく吸うと、彼女の名を叫んだ。

さっきのマリアンヌ以上の声で。


「――シリウス、シリウス、シリウスっ!!」



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