表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/52

番外編 姿が変わろうと君は変わらない その1

私の魔界生活は今日も今日とて実に騒々しいものだった。

もちろん、その理由が魔王様を筆頭とする魔界の連中のせいな事はいうまでもない。

……まぁ時々こちらの人間界の奴らも混ざるけど。

だが、本日のこの騒動の発端に関しては100%魔王のせいだ。


せっかくの優雅な休日だというのに、本当にこいつは……――


「本当になんて事をしてくれたんだ!」

私の怒鳴り声が寝室へと響き渡り、仁王立ちになっている私の足下にいる魔王へとぶつかった。

城なので壁は厚くある程度の防音はなっているが、どうやら自分でも思った以上に声が通ったらしく、

廊下よりパタパタと数人規模の足音がこちらへと近づいてくる。

デリカシーのない魔王が私を怒らせるのは悲しい事に日常茶飯事なため、普段なら誰も感心はないものだ。だが、今日は違う。

おそらくは――


「魔王様、美咲様! ご無事で……あれ?」

勢いよく扉を開けて入室してきた騎士とメイド達は、室内を見ると一斉に蝋人形のようにフリーズした。

それはそうだろう。この光景だ。

私が見ても思わず固まるし、頭を抱えるだろう。

なぜなら今の私は男の格好をしているのだから。

先にお伝えしておくが男装ではない。体付きも声もれっきとした男だ。


「すみませんが、貴方は美咲様の御親戚の方か何かですか? 美咲様にお姿が似ていらっしゃいますが……」

「いや。私。田中美咲。んで、こっちは魔王」

私はすぐ傍で正座をしている魔王を見下ろした。

これから再度落ちるであろう雷に対し、日本式に正座で反省を表しているらしい。

身を縮こませ、紫の瞳を潤ませている。


ただし――女性の姿で。しかもCGか? というどっからどう見ても綺麗なお姉さん。

そのため、つい手を伸ばしそれを確かめたくなってしまうレベルだ。

これは綺麗の領域を遙かに超えてしまっている。


「ええっ!? なぜ男性に!? そして魔王様がどうして女性に!?」

「あー、それは魔王が……」

事情を説明しようとしたら、一人の騎士の呟きが漏れた。


「これは、マッシュドガラン?」

一人の騎士が床に落ちている食べかけの果物を手に呟いたその一言。

彼の手には丸くて艶のある紫色の掌サイズな物体。

それだ。それが私達がこうなった原因。

私と魔王はその果物を食べたて、共に性別が変化した。


せっかくの優雅な休日なのに、魔王から進められなんの疑いもなく食せばこの様だ。

私、午後から売店の仕事手伝わなきゃならないのに!!


「なぜマッシュドガランを食べてそうなるんです? たしかマッシュドガランは精神を入れ替えるはず……それなのになぜ男性化と女性化に?」

「しかもこれは太古の昔に滅びたと言われている植物ですわ。これを一体どちらで?」

メイド達の言葉に、嫌な予感が止まらなかった。

太古の昔に滅びただとっ!?


「……おい。アレ何処で手に入れた?」

そう口にすれば足元にいる美女がびくりと肩をびくつかる。

そのため彼女の艶のある長いストレートの黒髪が肩からさらりと零れ落ちた。

まるでシルクのような滑らかさを持つそれは、キューティクルのダメージ? 何それ的な質。

紫色の瞳は潤んだまま、おそるおそる私を見上げた。

なんだか、無性にこちらが悪いような気分になってくる。

弱者を痛めつけているような嫌な気分だ。


「そ、倉庫掃除で不必要な物を見て欲しいと言われ、そこで箱の中にいっぱい――」

「あんたまさかそこで見つけたの!? 倉庫って、何千年と掃除してなかったあの倉庫でしょ!?

あんたそんな所にあった食べ物を食べれると思ったのか!?」

「よ、余も少しは思ったが箱に入っていたし、それにあそこには魔術が施されているから大丈夫かなと」

「お前な……」

なんでこんな風になったのだろうか。全く。

「貴方と一緒だと飽きないわ」と、この間学食で見たドラマで言っていたが、違う意味で魔王と居て飽きない。いや、魔界生活が飽きない。

むしろ私の体質なのだろうか? いろんな出来事に巻き込まれてしまうのだ。


「植物だから、シリウス呼べばなんとかなるか……?」と、ため息を吐き出したその時、部屋をノックする音が耳に届いたかと思えば扉が開いた。


「美咲様。シリウス様を呼んでまいりましたわ」

そこには一人のメイドとシリウスの姿。

さすがはメイド。仕事が出来る。

やはり植物学に通じているのは、薬学者のシリウスは適切な人材。

そんな重要な人物のシリウスは、私と魔王を見て「あらあら」と暢気な事を言っている。


「マッシュドラッドでもお食べになりましたの?」

シリウスは騎士が所持していた果物を手に取り、こちらを見た。


「マッシュドラッド? マッシュドガランじゃなくて?」

「えぇ。これはマッシュドラッドよ。マッシュドガランに名前も形も似ていて、よく間違われていたけど。ほら、これツルツルでしょ? マッシュドガランはうぶ毛のようなものが生えているの。

こちらも絶滅したはずだけど、どこでこれを?」

「倉庫」

「まぁ! もしかして種を保存するために大昔保管して忘れてしまっていたのかしら? 他にも何か別の植物が残っている可能性もあるわ。魔王様、倉庫捜索の許可を頂けますか?」

「それは構わぬ」

「ありがとうございます。これを研究し、栽培して復活させれますわ。では、さっそく私は倉庫へ」

さっそうと部屋を退出しようとしたシリウスを、私はすぐさま呼びとめた。

そこで帰られては困るって!!


「シリウス! 帰るならこれ戻してから帰って!」

「ごめんなさいね、美咲。私に出来る事はないの」

「はぁ!? じゃあ、一生このまま!?」

「いいえ。時間が経てば戻るはずよ。大丈夫。美咲は元々男らしい所があるから、違和感ないわ」

「おい」

何が大丈夫なんだ。何が。


「そもそもなんで魔王は私に、マッシュドガランを食べさせようとしたわけ?」

結局食べたのは、マッシュどラッドだけど。

「美咲はいつも余に怒るじゃろ? 魔王はデリカシーがないと。余はそれがわからなかったのじゃ。

じゃから美咲の体と余の体を入れ換わって、身も心も平凡になれば少しは美咲の気持ちをわかるかと思って……まさか、こんな事になるとは……」

徐々に言葉尻が弱まり、魔王は俯きだした。

そんな魔王に対し、周りの連中は相変わらずの対応を見せる。


「まぁ! なんて優しいのかしら」

「本当ですわ。美咲様の事を思って行動なさるなんて愛ですわ」

「相手の気持ちになる。大事な事ですが、私達は忘れてしまってますわね。さすが魔王様。すばらしいですわ」

次々に耳に入るのは魔王を称賛する声。

さすがに私は「おい」と突っ込みを入れたかった。

待て。さっきの言葉を思い出せ。『身も心も平凡になれば』と言ったんだぞ? 失礼だろうが!!


魔王は女になっても相変わらずの愛されキャラらしい。

美女で愛されキャラ。その設定、私にくれ。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ