4 後悔はすぐ傍まで
城の廊下は天気がすぐれないためいつもより薄暗く、まだ昼を少し過ぎたばかりだというのに蝋燭が灯されている。
最初ここに住んだ頃からずっと思うけど、なんで城の廊下ってこうも長ったらしいんだろう。
大広間や謁見の間なんかの広い部屋の他に、いろいろな部屋があるから仕方ないっていうのはわかってる。でもこうも広いと疲れるよ。
魔王とかは魔法で使って移動しているから疲れないけど、私は人間のため魔力ゼロ。
そのため体力の消耗が激しい。
最初チャリでも持ってこようって思ったんだけど、廊下に敷かれている赤い絨毯が上等すぎて歩くたび靴が沈むぐらいなのでそれはちょっと無理なので辞めた。
それに危ないし。
「あ~。私も魔法使いたい!!」
誰に言うでもなく独り言を言うと、向かい側からでっかい毛玉がすごい勢いでこっちに向かってくるのが見え足を止めた。
「もふもふ!!」
私はそれに向け手を上げ大きく振ると、その軽自動車一台分はあろう大きさのその毛玉は私の声に動きを止めたが、勢い付け過ぎたのか、私を少し過ぎたあたりで急停止してしまう。
ぱっと見その毛玉はクリーム色をしていて、申し訳ない程度に羊のような顔が覗いている。
前足や後足もちゃんとあるが、かろうじて先端が見える程度だ。
「女神補欠様っ!!」
「どうしたの?珍しいね、城の中で会うの」
私はその毛玉――もふもふに触りながら訊ねた。
この人。いや、この魔族・もふもふ事、本名・ロダ。
お仕事は、門番や城外の警備などの主に城外でのお仕事。
だから、こうして城の中で会うのは珍しい。
「それにしても、相変わらずふかふかだね~」
この毛刈ったら何人分のセーターが作れるんだろう。
いや、それより布団にしたい。
初めてもふもふに会った時、あまりの衝撃に「毛玉っ!?」って叫んでしまった。
隣りにいた魔王が説明してくれた話では、そういう種族らしい。
だからロダのような人は他にもいっぱいいる。
ただ、なんていう種族か忘れちゃったけど。
私はロダと仲が良いから、そのままもふもふっていう愛称で呼んでいる。
穏やかな性格で時々背中に乗せてくれたりするんだけど、すっげぇふかふか。
太陽の下なら最高に爆睡出来る。
「た、大変です。さっき茨の扉の前を通ったら、人影が見えたんですよ!!」
「え?」
大変なのか?というテンポと口調で話すもふもふに、私は彼を撫でている手を休め顔を上げた。
茨の扉っていうのは、魔界とこっちの世界の人間界を繋ぐ扉のこと。
扉って呼ばれているけど、見た目は茨のアーチ。
でも、もちろん扉っていうぐらいだからあっちの世界とはもちろん繋がっている。
通常は空間を歪ませ、あっちの世界とこっちの世界を行ったり来たりするそう。
ただ、今はあの女神のせいでその扉は魔王により封印されている。
――……はずなんだけど。
「今、魔王様の魔力が不安定なので、もしもの可能性もありまして」
「ん~。じゃあ、私ちょっと見て来るよ。もふもふは、一応グレイルやシリウス達に知らせて来て」
「えぇっ!?危険ですっ!!」
「平気、平気」
あっちの世界からこっちの世界には来る事は不可能に近い事って前に聞いた事がある。
逆なら問題ないけど。
なんでも魔獣が放たれていて、許可のない人間は食べられちゃうんだってさ。
だからもし、もふもふが見たのがあっちの人達であってもこっちの世界には来れない。
来たら喰われる事知ってるしね。
*
*
*
「何にもないじゃん」
チャリにまたぎながら私は茨の扉を眺めていた。
城外の森にあるためか、人がおらず辺りは鳥の鳴き声と魔獣の鳴き声が響いている。
茨は城門ぐらいの大きさの丸いアーチを作っていて、その向こう側に見えるのはどんよりとした雲に無限に広がる木々。いつも通り異常なしの光景だ。
もふもふの見間違えじゃないのかな~?
私は首を傾げ、扉の上から下をゆっくりと見るが何も異常な点は見当たらない。
念のため、もう少し近づいて見てみるか。
私はチャリを停め扉のすぐ傍まで近づく。
すると何か目の前の景色が歪んだように見えた。
「えっ!?」
慌てて遠ざかろうとしたんだけど、時すでに遅く、私は扉から現れた何者かの手により引きずりこまれてしまった。