クリスマス企画 本物はどれ?
蒼依の作品を読んで下さっている方にお礼小説です。
ちょっと早いですけど、メリークリスマス!!
「一番左が美咲ではありませんか? しぐさが美咲っぽいですわ。なんだか男らしくて」
……いや、男らしいって私は女だし。
「いや、シリウス。美咲は一番中央でチラシを配っている者じゃ。一見みな変わりないように感じるが、
纏っている空気が違う。平凡の中の平凡こそ美咲。ある種の持って生まれた才能じゃ。それは隠せぬ。
それに余の海より深い愛がそう言っておる」
……んなの才能でもなんでもねぇし。
「さすがです、魔王様。魔王様のように輝かしい存在ならばすぐにわかりますが、あの平凡オーラの塊のような女を一発で見抜けるなんて。目が肥えてらっしゃる。俺にはとてもできません。砂金の中から米粒を探すようなものですから」
……コメの中から砂金探すなんて簡単だろ。光るからな。というか、どんな例えだ?それ。
普通砂粒の中から砂金だろ。
しかしまぁ、こいつらはいつもいつも好き放題にしゃべってくれているな。
私が後方に居ることを知らずに――
十二月に入り町はすっかりクリスマスムードに包まれている。
駅前でのチラシ配りの人達も、サンタのコスプレや着ぐるみを着用しての仕事に切り替わった。
私もついさっきまでここでサンタのコスプレでチラシを配っていたが、思いの外早く配り終わりバイト先に戻ったんだけど、そこで魔王達が来ている事を知らされた。
幸いにもチラシを配ればバイト上がれたので、急いで着替えてついさっきここに着いたばかり。
あいつらは無駄に目立つからすぐに見つかったんだが、耳に届いてきた言葉に声を掛けるのを忘れてしまっていたわけ。
私達がいる駅前には、サンタの着ぐるみを着た人達五~六人いる。
私が配っていた時には、コスプレの人達も居たけど今は全くいない。
どうやら魔王達はその着ぐるみのサンタの中に私がいると思っているらしく、どれが私なのか探している
状況らしい。
まるでそういうゲームをしているのかのように声は弾んで楽しそうだ。
――残念だが、どこにもいないんですけど?
「おっ!!やはりあれが美咲じゃ。見よ!!」
……は? 見よって、私後ろにいるんだけどさー。
魔王が視線で指したのは、私だと思っている着ぐるみ。
そいつは腰をかがめて子供に風船をあげていた。
「余は気づいたのじゃが、美咲は子供が好きじゃろ? あのように子供と同じような目線に立つのは
美咲じゃ。こちらの世界の言葉でなんと言ったかのぅ? たしか、ロリコンじゃったか?」
「あら、ショタコンって言うんじゃありませんでしたの?」
私が我慢出来たのは、魔王につられて首を傾げるシリウスを見るまでだった。
さすがにロリコンだのショタコンだのは、子供好きと言葉のニュアンスが違いまくる!!
「――言っておくけど、その中に私は居ないからな。あと、あの人達に謝れ。平凡だのなんだのと好き勝手に言って」
「美咲っ!?」
三人の声が重なり、振り返ったあいつらと目があった。
「なぜ美咲がここにおるのじゃ!?では、あちらは偽物っ!?」
「偽物とか本物とか関係ないから」
「おかしい。たしかに美咲だと思ったのじゃが……余の愛が足りぬのか。
こうなったら、今夜は夜を徹して美咲に愛を注ぐぞ」
そう言って魔王は私に向かって手を伸ばし、ぎゅっと指先に触れた。
目じりを下げ、「冷たいのぅ。余が温めてあげるぞ」と今度は両手を包み込むように手を覆う。
愛を注げはキグルミの中から本物を探せるようになるのか?など様々な事が思い浮かんでは
消えていく中で、たった一つだけ残ったものがある。
手袋付けてなくてよかったなという、なんとも乙女的な思考だけ。
どうやら町のクリスマスムードにやられたらしい。
そんな私を駅前に飾られたモミの木が笑っていた。