ハロウィン企画 仮装コンテストで頑張って。 その7
なんだかんだで楽しい時間というのは、早く過ぎてしまうものだ。
あっという間にイベント終了し、私と魔王は寝室にいた。
部屋の中央にでかでかとその存在をアピールしている大きなベッド。
人が十五人は寝ても余裕のあるぐらい無駄に大きいその上に私と魔王は座っている。
「ハロウィン楽しかったのぅ」
そう口を開いたのは魔王。
あぐらをかく私を、後ろから腰に手を回さし肩に顎をのせるようにしていた。
「まあね。いろいろあったけど、結果的には楽しかったかな」
「美咲の仮装に子供達は泣き叫び、なぜかグレイルは大喜びだったのぅ」
あの後グレイルとばったり遭遇したんだけど、なぜかアイドルにでも遭遇したかのようなテンションだった。
カメラ片手にフラッシュ焚きまくりに、ナマハゲについて質問されまくり。
こういう異文化好きそうだなぁと思ってたけど、まさかここまで変貌するとはねぇ~。
「おおっと大変じゃ美咲。ハロウィンが終わってしまうぞ!」
「あー、ほんとだ」
魔王の視線の先を追うとその先にあったのは、壁に掛けられている大時計。
それは、もうすぐ十二時を回ろうとしていた。
「ハロウィン終わってもまだイベントあるわよ」
ハロウィンが終わると今度はクリスマス。そして正月。
なんだかんだで今年1年早かったな。
やたらと慌てる魔王を尻目に、私はもうすでにバイトのシフトの事を考えていた。
イベント時期だと、彼氏彼女とデートだったり、実家帰る子でバイトの人数が極端に減る。
そのため、そこが稼ぎ時なのよね。
「違うのじゃ!今日でなければならぬ。これを着るのじゃ!」
「はぁ?」
ぽんと目の前に現れたのは、何かの包み。
ピンク色の布でラッピングがされ、赤いリボンが結ばれている。
――……なんだ?これ。
ふよふよと浮くそれを取り中身を確認した瞬間、私は呆れ返った。
中身はシリウスが着ていたバニーちゃんセット。
またこいつはエロ系か。
「まさかシリウスに借りてきたわけ?」
私は体に纏っている魔王の手を無理矢理ほどくと振り返った。
「違うぞ。シリウスのモノでは胸の部分が美咲では余ってしまうから、ちゃんと美咲サイズになっておる。余がそのような事をぬかるわずない」
「……お前はほんと、いつも一言多いよな」
「なぜじゃ!? なぜそのような表情をしておる!!まるでコンテスト会場で美咲がつけていた面のようではないか!」
魔王は私が何で怒っているかわからないらしく、おどおどと私の顔色をうかがっている。
なぜ胸が余ると思っているんだ!!失礼な!!
たしかに余るが。
「着ないから」
「なぜ!? ウサギは嫌いか?」
「そういう問題じゃないだろうが。なぜそんな発想が浮かぶ?」
ウサギは好きだ。というか、ふわふわ系みんな好きです。
しかもこれ別にハロウィンじゃなくても着れるじゃん。いや着るか着ないかって聞かれたら、絶対に着ないけど。
あー。もう今日は風呂入って寝るか。なんかどっと疲れが襲ってきたし。
私は魔王を放置し風呂に行こうと立ち上がった時、ふと頭に浮かんできた。
あぁ、あの言葉言ってなかったっけ。
あのハロウィン定番の台詞を。
「――魔王」
ベッドの上にてしゅんと項垂れる魔王を見下ろし、私は口を開く。
「Trick or Treat?」
「え」
魔王はきょとんとした表情で私を見ていたが、ごそごそと衣服を漁りポケットから飴を一つ取り出して、おずおずと私へと差し出してきた。
やっぱ持っているか。今日はハロウィンだもんね。
いつもは持って無くても今日はさすがに持っているみたい。
ルル達を始め、城にいる子供達にあげてたから。
「残念。いたずら出来ないわね」
私は飴を受け取ると、包装を取りそれを口に入れる。
懐かしいイチゴミルクの味。
幼稚園の時よく舐めてたっけ。
「いっ、悪戯!?」
魔王のうわずった声に、私は眉を顰める。
なぜそんなに過剰反応を?
「よいぞ。余はその甘い悪戯を受けよう。さぁ、致すが良い」
魔王は頬を染めベッドへと寝転がった。
「……は?」
またエロ思考か。
そういうセクシー系は私ではなく、シリウス担当だと何度言えばいいんだ。
そもそもキャラじゃないって。
それにお菓子貰ったっつうの。
私はそんな魔王を放置し、無言のまま扉を開け自室へと入った。
寝室の猫足のバスタブもあるが、今日は1階にある城の大浴場の気分なのでタオルとパジャマを取るために。
扉が閉まる直前「ほぅ。余をじらすのか。それはそれでありじゃのぅ」というわけのわからない言葉が耳に届いてきたけど、それは聞かなかった事にする。
なんとかハロウィン企画これにて完結です。
ここまでお読みいただきありがとうございました<(_ _)>
では、また。