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ハロウィン企画 仮装コンテストで頑張って。その4

「久しぶりだね。元気?」

「えぇ。美咲様に置かれましてもお変わりありませぬようで」

テーブル越しに耳に届いたその台詞。

それに対し私は笑みを浮かべ、もたれ掛かっていたソファの背もたれから体を起こした。

そしてテーブルの上にセッティングされている紅茶セットへと手を伸ばし、ティーカップに手をかければ、ゆらゆらと揺れる紅茶から林檎の香りが漂ってくる。

その紅茶を喉へ流し込むと、自分と反対側に座っている彼らに視線を移す。


彼らというのはハロウィンを観光に来たキース達。

みな、人間界で起こった女神様騒動で顔見知りになった騎士達だ。


「聞いたよ。昨夜から場所取りのため並んでいたんだって? まさかそこまでシリウスに入れ込んでいるなんて思っても無かったわよ。大体、仕事はどうしたの?」

「シリウス様のため、三日間休みをもぎ取りました。騎士団長達に渋られましたが、美咲様に招待を受けているという旨を伝えれば、即座に許可が下りましたよ。美咲様は魔王様の伴侶。それを無碍にできませんからね」

「なんか私、良いように使われてない? たしかに手紙は出しだわ。でも仕事が休みならばって書いたじゃん」

「いいじゃないですか、そんな細かいこと。シリウス様の優勝のため、我らが応援せねばならないのです。そのためなら、多少は仕方ありません」

そう高らかに宣言したキース達は、この世界にそのような文化があったのか「シリウス様」と書かれたハチマキを額に巻かれている。

その上、今私達がいる応接室のテーブルには、彼らがお土産などを購入し手に入れたと思われる応募用紙の束。

しかも札束かってぐらいに厚みがあるのが、四つ。

もう、それだけで彼らの意気込みがうかがえる。


おそらく目当ては抽選で1名様に当たる、お茶会。

こんなにお金使って大丈夫なのか尋ねれば、「女神様騒動で美咲様にお仕えしたときに、国より特別給金として頂いたお金があるので」と返事が返ってきた。


「この日のために横断幕なども作り、もう準備は完璧ですよ。コンテストまであと一時間が待ち遠しいです」

「……横断幕まで作ったのか。本気だな」

「もちろんです。他のエントリーされている方達の各親衛隊も作成してますよ。というか、会場に美咲様の横断幕もあったじゃないですか。ほら、刺繍や風船でデコレーションされているやたら手の込んだやつ」

「はぁ!?」

予想もしなかった巻き込まれ方に、危うく紅茶を零す所だった。


私はまだ会場の方へ足を踏み入れてない。

コンテスト開始が三時からなので、三十分前に行けばいいかなって思ってたから。

場所変更になって、会場近くなったし。


本来ならば会場は城下町にある劇場予定だったんだけど、あまりの人数に建物内に入りきらず、急遽第二会場と第三会場を設置しての開催になった。

そのため子供の部は当初の予定通り劇場で行い、男子の部と女子の部は城近くの野外第二・第三会場で行うみたい。

三地点はそれぞれ魔法による立体映像で繋ぐため、三会場に居れば子供の部と男子の部、それから女子の部が見られるようになるんだって。

状況を見てそれでも足りないようならば、城と城下町にも設置するってリヴァが言っていた。


「ご存知なかったんですか?」

「知らないわよっ!! 一体誰が!? まさか、私を密かに思う親衛隊が……?」

それはそれでアリだ。

そう言えば、異世界召喚のテンプレの一つにもあるわよね。

たしか、異世界から現れた少女をそっと影ながら見守っている騎士や魔術師の存在が。


「美咲様の親衛隊ですか? そんなマニアックなの聞いた事ありませんよー。まぁ、好みがありますから全く居ないとは言いきれませんけど。ほら、何でも少数派というのは常にいますしね」

「そんなのわからないじゃないか!! 密かにいるかもしれないだろ」

なぜ私は、毎回突っ込みを入れなければならないのだろうか。

たしかに好みは人によって違う。だが、あえてそれを言う必要は何処にある?

久しぶりに会ったというのに、本当に変わってない奴だ。


「えー。ないですよ。だって今回のはあのお方ですから」

「誰よ?」

「それはおそらく……――」

キースがいよいよ確信に触れようとした瞬間、応接室の扉がノックも無しにキィと開かれた。

そして扉が完全に開き、姿を現した人物に私は固まってしまう。


「美咲の横断幕を作ったのは、もちろん余に決まっておる。あんなに愛溢れる作品は余以外作れぬ」

そうドヤ顔を決めて入室してきたのは、魔王。

キース達はその姿に、すぐさま立ち上がり礼を取った。


「とてもすばらしい作品でした。あの生地のグラデーションも魔王様が?」

「そうじゃ。余が布を染め、刺繍を施した。美咲が寝ている傍らでここ数日夜鍋して作りし自信作じゃ」

「なんてすばらしい!!美咲様のためにわざわざ寝る間を惜しんでとは!!さすが魔王様です。

あのカピバラという美咲様に似ている動物の刺繍は、今にも動き出しそうでした。

魔王様にこのように手をかけて頂けるとは、美咲様は世界一幸福な女性でしょう」

「キース達、なんで何事もなく会話してんのよ? まず最初にツッコむ所が多々あるでしょうが。特に魔王の格好とかさ」

この場には普通の感性を持った者は居ないの?

ライズ王子とかまともな人はいるんだけどなー。

コンテストまでには来るって言ってたけど、まだ来てないから中立誰も居ないんだよね。

なぜか私の周りに集まるのは、個性豊かな人間ばかりなのだろうか。


「魔王。なに?その恰好」

眉を顰めて魔王を見れば、彼の服装が不自然。

いつもの衣装ではなく、なぜか警察官の制服姿だ。


「ん? これは警察官だ。美咲の世界の物だが、知らぬのか?」

魔王は首を傾げながらこっちを見てきた。


「知っているわよ。私が言いたいのは、なんで着ているのかって事」

「今日はハロウィンだからな」

ハロウィンは知っている。だが、なぜ警察官のコスプレをしているんですか?って話なんだってば。

っうか、こっちの世界に警察居ないわよね。ということは、私の世界で買ってきたか、作ったって事か。


……まぁ、ムカツクことに似合いすぎているけど。

一瞬、うっかり胸がときめいてしまったじゃないか。


「田中美咲。おぬしを現行犯逮捕するぞ」

そう言って魔王は私の隣へと腰を落とした後、右手首を掴んできた。

何をするのかとただ黙って見つめていたら、ガシャンと機械じみた音と共に冷たい感触が肌を走った。

もう大体わかるだろう。魔王が私の手首に手錠を嵌めたのだ。


「なんで私が捕まらなきゃならないわけ? 罪状は?」

「最も重い罪じゃ。余の心を奪った」

「……んな罪状あるか」

「無い。だが、作ろうと思えば作れるぞ」

「やめろ。魔界の法改正を私利私欲に使うな」

「その罪、責任とって貰わねば」

はにかまれながら言われても……。

「そんな罪状ないじゃん」と冷静に思ってしまっているような私じゃ、このノリにのれない。

キース達は「美咲様も罪作りですねー」なんて調子だけどさ。


「逮捕ってことは、私は冷たい鉄格子の中に入らなきゃいけないの?」

「案ずるな」

ガシャンとまた何か堅い物同士をぶつけるような音が耳に届く。

もう、こっからは言わずもがな。

魔王が今度は自分へと手錠をかけたのだ。

したがって、私の右手首と魔王の左手首は鎖に繋がれたまま。


「ちょっと!! なんて事をするのよっ!?」

こんな事されてしまえば、自由が効かなくなってしまう。

しかも、鍵が無くなったとかそういうパターンも考えられるじゃん。

これからコンテストだっていうのに、こんな格好のままならばリヴァに文句言われちゃう。


「鍵あるんでしょうね?」

「もちろんあるぞ」

「ならいい」

「美咲。手錠というものは実にすばらしいと思わぬか? 赤い糸だと簡単に切れてしまう。じゃがこれは鉄じゃ。なかなか切れぬぞ」

何を暢気なことを。

元々犯罪者を捕えておくためだから、頑丈に決まっているじゃん。

全く、この暴走魔王様は毎度毎度……

執務の他に今日はハロウィンイベントで魔王も忙しいのに、こんな事やっている時間あるわけ?


「それに美咲が閉じ込められるのは、冷たい格子の中ではないぞ。そんな所へ余が愛する美咲を閉じ込めるわけない」

「じゃあ、何処よ?」

「余の腕の中じゃ」

「……」

なんだ、それ。

魔王は腕を広げ自分の胸に私をかき抱くのかと思えば、がしっと魔王が私の右腕にしがみ付き顔を緩めた。

あれ? 腕の中のはずではないのか?




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