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☆完結 お礼☆ 体で払って貰います。 後編

「魔王様、美咲様御無沙汰しておりますっ!!」

その少年は私達の前に立つと深々と頭を下げた。

彼の頭上に掲げられている猫耳がぴくぴくと動き、つい手が伸びてしまう。


さ、触りてぇ……


月のような金色の髪を耳下まで伸ばし、キラキラと夕陽のような瞳の少年。

年齢は10歳ぐらいだけど、こう見えても私よりも遥かに年上。

人間と魔族だと寿命も何もかもが違うのだ。


彼は財務大臣の義理の弟・コーデ。

リヴァの結婚相手の弟なので血は繋がってないけど、かなり仲がよくこうしてたまに城に遊びに来るの。


もうね、あの猫耳が可愛くて可愛くて。

触ると反応が可愛いのよ。敏感らしく涙目になって、「やめて下さい」なんて言われるもんだからつい。


でも、リヴァにすっげぇ冷たい目で見られるから今は触るに触れない……


「先客万歳ですよ。まだ開店前なのに、もうお客様の数がすごいんです!!さすが美咲様効果ですね」

「へー。そんなにあのグッズ人気なんだ。そんなに並んでまで買いたいのかしら?」

何気なしに口に出した私のその言葉に、コーデが首を傾げた。


「グッズ……?あぁ、もしかしてあれのことですか?」

彼が視線で指したのは、あの例のカピバラコーナー。


「美咲様のグッズも大人気ですが、今日お客様がいらっしゃったのは美咲様目当てですよ」

「は?私?」

「そうですよ。何を驚いていらっしゃるのですか?」

「驚くも何も心当たりないし」

「え……でもこれ……――」

コーデがズボンのポケットに手を入れた瞬間、あの男が動いた。

「コーデ!!」と彼の名を呼びリヴァがコーデの腕を掴みそれを阻止したのだ。

それを見て何も思わないほど鈍感じゃない。

すぐさま私はコーデのポケットに手を突っ込むと、中にあったものを勝手に拝借する。


「リヴァ、お前……」

私が手にしたのは、四角に折りたたまれた紙。

もうね、これだけで嫌な予感しかしない。

その紙を折られた順序とは逆に解いていくと、だんだんとその全貌が明らか何なっていく。

それを全て見てしまった私には頭痛が襲って来た。


そこにはカピバラが一日店長というたすきを付けたイラスト、それからその付近には今日の日付。

そして、今日だけ限定のグッズ発売の予告が書かれている。


――私は客寄せパンダかよっ!!


「この守銭奴がっ!!」

「我にとって最高の褒め言葉です」

「褒めてねぇよ!!お前、人の許可得ないでまた勝手な事を!!」

「しょうがないですよ。あの小娘に大枚はたいたのをどっかの女神補欠様が止めなかったのですから」

「はぁ!?私のせいかよっ!?」

っうか、まだ根に持ってたのか。

魔王には何も言わないで、こっちに回ってくるのなんとかして欲しいんだけど。


「とりあえず、損失分とチラシの印刷代それから美咲様の特注の制服を体で払ってもらいます」

「体で払えとか変な言い方するな。誤解を招くだろうが」

「そうですか?」

「そうだよ」

「まぁ、とにかく一日店長頑張って下さい」

「お前……」

私は空いた口が塞がらなかった。

損失分だけじゃなく、私が頼んでいない印刷代と制服代それも私に稼がせるのかっ!!


なぜ私はいつもいつも魔王の婚約者として敬われないのだろうか。

いや、私を神として崇めろといいたいわけじゃない。


――ただ、毎度人使い荒くね?


魔界もこっちの人間界も物事をぶん投げてよこしすぎ。


「美咲が店長するのなら、余も一緒にする。二人で一緒にレジをするぞ。二人の愛の店じゃ」

「何をおっしゃるのですか!!高貴な魔王様にそのような事をさせるわけには参りません。

それに魔王様オマケとかつけたり、割引とかしそうですし」

「後半本音だろ、それ。っうか、私はいいのか」

「いいんです。美咲様はバイトも接客業中心。それに、同じ守銭奴仲間じゃないですか」

「いつから私が仲間になった?バイトを掛け持ちしてるのは生活のためだってば。

仕送り貰ってないから稼がなきゃならないんだよ」

「えぇ、存じてます。ですが、これは美咲様にも悪い話ではありません」

「なぜ?」

「美咲様は今子供達のヒーローなんですよ。御存じの通り魔族の子供はまだ人型になれない者も多い。

美咲様のおっしゃる『逆ハー』も体験できます。子供に絶大なる人気を誇っていらっしゃいますからね。

これを逃したら二度と逆ハーは起こる可能性はゼロですよ。どうです?もふもふとした子供達に美咲様と懐かれまくるのは」

「くっ……」

やるな、こいつ。

たしかにこのカピバラキャラの人気の恩恵を受ければ、あり得るはずだ。

このまま財務大臣にいいように使われるのは癪だが、『もふもふ帝国』には敵わぬ――


「どうしますか?」

この悪魔の声に私は頷くしかなかった。







「あー、疲れた」

私はふかふかのベットにダイブするように倒れ込んだ。

この丁度良い堅さと疲労感により、おそらく5分で眠れるだろう。

だが今ここで寝たら私は確実に起きないから、寝ることはしない。

まだ夕食を食べる時間でもないし、お風呂にも入ってないから。


しかし、あの守銭奴め。かなり人をこき使ってくれやがって。

バイト代出せとは言わないが、せめてジュースの一本ぐらい指し入れしてもバチは当たらないって思う。


「御苦労であった美咲」

そんな魔王の声が耳に届いた後ベッドの軋む音が聞こえてきて、私の足付近に座ったようだ。


ひやりと冷たい感触が私のふくらはぎに触れたかと思うと、リズミカルに上下し始めた。

立ち仕事をしていたから足をと思ったのか、どうやら魔王がマッサージを始めてくれたみたい。


「ありがとう」

「よいよい。どうじゃった?一日店長は。リヴァの報告だとかなりの繁盛だったそうじゃの」

「うん。なんか、通常の倍以上の売り上げあったみたい。財務大臣顔緩みっぱなしだったわ。

魔界だけじゃなく最近は人間界の人達も来てくれているみたい。

あ、集計はいつも通り月末にまとめて魔王に報告いくと思う」

「そうか、美咲効果だのぅ。美咲の言っていた、逆ハーもふもふ帝国とやらはどうじゃった?」

「もうね、最高。もふもふさせて頂きましたよー。子供達がすごく懐いてくれて可愛いかった。

アレで一ヶ月は癒されるわ」

あれは最初で最後の逆ハーだったかもしれない。

魔族の子供は熊のようだったり、虎のようであったり、なにかしら人以外の姿をしている。

それはまだ魔力が幼く人型になれないためらしい。

そのため、私には楽園だった。


ふかふかの毛を纏った子供達をもふもふと触りまくり抱きつきまくった。

しかも「美咲様~」とかなり慕ってくれちゃってさ。可愛いのなんのって。

私を独占しようと喧嘩をし始める子達も出ちゃって大変。


まぁ、それだけじゃなくあの財務大臣がお目付け役だから稼がされてわよ?

レジ打ちや商品補助や握手やサインなど、財務大臣に言われるままにさ。

でも、逆ハーともふもふ帝国を一度に堪能出来て楽しかった。

それに接客業好きだし。


「のぅ、美咲」

「んー」

「美咲は子供が好きか」

「うん。好き」

「そうか、余も好きじゃ」

あ。やばいなんか段々と眠気が……

もういいか。お風呂明日の朝入ればいいし、お腹空いてないから寝ちゃっても。


「今すぐとは言わぬ。将来余の子供をう――」

魔王が何か言いかけたみたいだけど、私にはそれを最後まで聞く事は出来なかった。

なぜなら睡魔にあっさりと白旗を上げてしまったからだ。



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