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23 頭ではわかってても、心がついていけない時もある

緑色をしたその扉には、植物を模した彫刻が一面に施されている。

掘られている部分は金色でなぞられ、こうして離れてみてみると一つの絵画のようだ。


その扉には金色のドアノブが付けられているんだけど、それに手をかけ、

一人の王子様が目をお月様のようにしてこちらを見つめていた。

入ればいいのに、中途半端に顔だけ出している状態。

まるで、覗きこむようなその格好。


彼は数秒間動きを止めた後、再度バタンとつい今し方自ら開いたばかりの扉を閉めてしまった。

きっと彼は頭ではわかっているつもりだけど、現実を受け入れられないんだろう。

おそらく扉の外で頭を冷やし、冷静さを取り戻しているのかもしれない。


……まぁ、無理もないけどね。ついさっき挨拶にきた国王も同じ反応だったし。


はぁっとため息を吐くと、頭上で「一体どうしたのじゃ?」という声が振ってきた。


私達はあれから、倉庫から場所を城へと移動した。

理由は簡単。

女神様が立っているのに疲れたから。

でも、空き木箱の上なんかに座りたくないというので、魔王に転移魔法で連れてきて貰ったの。


魔王は女神を無視して魔界の者達も心配しているしこのまま魔界に帰ろうと言ったけど、

さすがに世話になって挨拶もなしには出来ない。

だから、猶予を貰いこちらに滞在することにしたのだ。


なので一旦場所移動し、一度ちゃんと話をしょうってなったの。

そんで案内されたのが、ここ応接の間。

諸外国から来客を招くためか、中は広々としていて五十畳以上はあると思う。

中央に長方形のテーブルを配置し、その周りを囲むように赤いベルベッド調のソファが数脚。

上座に位置する所には一人掛けソファがあり、そこには魔王が座っている。

その左右の壁際には、ラムセとシリウスが直立不動中。


あたりに花を添えるようにある装飾品もこの大国の力を現すように、

花瓶に宝石が埋め込まれたりと、売ったら高そうなものばかり。

テーブルも大理石だし。


「美咲。なぜさきほどフーガとやらは、外へ出たのだ?」

「私と魔王見たからじゃない?」

「なるほど、余と美咲のラブラブっぷりに当てられてしまったのか」

「違うって。わかってても、現実って簡単に受け入れられなかっただけなのよ」

「ほぅ。余には言っている事がよくわからぬが、美咲は実に哲学的じゃのぅ」

「いや、哲学関係ないって」

……まぁ、フーガ王子の気持ちわからないでもないけど。

こんな状況見せられたんだし?


私は今座っているんだけど、それは椅子とかじゃない。

人だ。しかも魔界の王様。そう、つまりは魔王様という人。

他の空いている椅子に座ろうとしたのに、魔王が「離れるのは寂しい」と言ってこうなった。


寂しいも何も、すぐそこの椅子なんですけど?

たしかに二週間ぶりだけどさぁ~。


そんなこんなで私は魔王を椅子代わりにしていた。

少し体を斜めにし、魔王の体に身を預けている。


たぶん、さっき入ってきたフーガ王子はこれが信じられなかったんだと思う。

だから、「知ってたけど、マジで婚約者かよ!?」的な感じで現実を受け止めきれなかったのかも。

普通に考えれば、可憐さんの方が釣り合うし。





「魔王様におかれましては――」

「堅苦しいあいさつは良い」

やっと切り替えが出来たのか、再度再び登場したフーガ王子。

彼の言葉に対し、魔王は口頭と手で挨拶を制止した。


魔王を正面にし、フーガ王子とライズ王子がテーブルを挟んで左右に。

フーガ王子の隣には女神様という座席順。


私達の前にあるテーブルの上には、各皿にフルーツタルトや焼き菓子、それからケーキなどが、

こんなに食べられないってぐらい並べられている。

それから、銀の大きなトレイにサンドウィッチやフルーツなどの軽食なんかもあった。

お茶も用意され、ティータイムといった感じだ。


「余の美咲が世話になったようだな。礼を言うぞ」

魔王は私の頭を撫でながら、フーガ王子にそう伝えた。

それに対し、フーガ王子はうつむきながら、「……いえ」というのがやっとのようだ。


――ですよね~。世話どころか、私、有無を言わさず牢に入れられましたから。


青ざめているフーガ王子に対し、魔王は「どうしたのじゃ?」

と気を配ったが、彼は「申し訳ありませんでした」と何度も繰り返すばかり。


フーガ王子。魔王その事知らないから、別に圧迫とかじゃないですよ。

なんかこの世界でわかったんだけど、魔王のことやたら美化されている気がするのよね。

それは私が魔族ではないからなのか、この世界の住人じゃないからなのか、理由はわかんないけど。


「――魔王様。ご出発はいつほど?それまでは是非こちらにてご滞在を。宴の準備も出来てますし」

そう助け船を出してくれたのは、フーガ王子の向え側に座っているライズ王子。

ナイス!!さすがこの中で一番常識ありそうな人っ!!

すぐさま入ったライズ王子の話題ぶちぎりフォローに、私は心の中で拍手を送った。


「すまぬが、余は美咲が住んでおる民家の方へ宿を構える予定なのじゃ」

「美咲様が借りていらっしゃる民家は手狭では?」

「いや。そういった体験も、余には良い経験になると思うから構わぬ。

それに久々に美咲の手料理も食べてみたいからのぅ。料理は人を表すというか、

美咲の料理は美咲と一緒で地味でぱっとしないがなかなか美味なのじゃぞ」

さわやかな笑顔で魔王はライズ王子に話しているが、お前気づいているか?

ライズ王子の顔引き攣っているぞ。


「出発の件だが、美咲が世話になった者に礼をしたいとの事なので、それが済んでからじゃ。

そうじゃのぅ~、み……――」

「帰国は一週間後よ」

魔王の声を遮ったその声に、私達が視線を集中させたのは自然なこと。

静まり返った部屋の中、ただ女神様が置いたティーカップの音だけが響いた。







予定では後二話ぐらいで終わります(*^_^*)


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