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22 望んでいた飴はこの味?

切れないので長いです。

お時間ある時にでも^^;

彼の口によって、幾度となく降り注いでくる。

「美咲」という自分の名前が。

魔王によって強く抱きしめられているこの身と同じぐらい、それが痛く温かく心地よい。


「魔王……」

耳や頬にかかる、絹糸のような漆黒の髪。

溶け合うようにぴたりと合う、お互いの体温。

もうすでに体が覚えてしまっている、彼の感触。

たった2週間ばかり離れていたのに、なんだか無性に懐かしく感じる。


「……風邪治ったみたいだね」

私を抱きしめている魔王の背に手を伸ばし、抱きしめ返す。

すると、なぜか「美咲」と呼んでいた声がすすり泣く声に代わり、私の首筋に一つの冷たい雫が伝った。

それは、雨漏りしている天井のように、不規則に首筋や肩に落ちていく。


まったく、この魔王様は。

さっきのカッコイイ登場はどこへ行ったっていうのよ。


どうやら魔王は相変わらず泣き虫らしい。

まぁ、たかが二週間で大人になってたらこっちがびっくりだけどさ。


魔王は私よりもずっとずっと何百年、いや何千年と生きている上に、魔界を背負う身。

なのに、時々こうして子供になってしまう。

それがたまに本気でうっとおしいけど、嫌いではない。


「これがギャップ萌えっていうやつ?」なんて思いながらも苦笑いを浮かべていたが、

突然耳に届いてきた誰かの嗚咽に、意識を奪われてしまったので視線を移した。


マジですかっ!?


それは、跪いて頭を垂れているシリウスの隣にいる奴。

彼はシリウスと同じように跪いているけど、彼女とは様子が全然違う。


ラムセ、お前……


その光景は、魔王が流した再会の涙なんて消し失るぐらいのインパクト。

おそらく彼にハンカチを渡せば、数秒で湿って使い物にならなくなるだろう。

あいつ、息してるよね?

そう思わず考えてしまうぐらい、彼の嗚咽が間隔をあけずに響き渉る。


もうね、ラムセってば周りの目を気にせずむせび泣いているの。

でも、腕でごしごしと涙を擦りながら、視線は魔王を捉えて離さないという御心酔ぶり。

私、ラムセの崇拝力なめてたわ。

こりゃあ、私の事をその辺にある石ころのように扱うわけだ。


「すまぬ、美咲。余のせいで……余が風邪など引いたばかりに……

見ず知らずの世界で、美咲に辛い思いをさせてしまった……」

おっと、ラムセのせいですっかり魔王から意識がそがれていたよ。

私はすぐに視線を意識ごと魔王へと向ける。


「平気。全然辛くは無かったよ。まぁ、ムカツク事はあったけどさ。

キース達も良い奴だったし」

時々魔族か?って思う時あったけど。


「そうか……美咲は本当に強いのぅ。それに比べ余はなんとも弱い」

「弱くはないんじゃない?風邪は誰でも引くし」

「いや、弱い。熱に侵されている中、余は怖くて怖くてしょうがなかった。

美咲が無事なのか、どうしているのか。父上に美咲の件を報告受けても余は不安じゃった。

こうして、この手で確かめるまでずっと――」

魔王が、右手を伸ばし私の頬に触れた。

体はまだ魔王の左手で抱き寄せられているので、お互いの距離が近い。

すぐそこで潤んだ紫の瞳が私を見降ろしている。


「愛しい人に触れれない。会えない。それが、あのように苦しいものだとは……

余はもう二度と味わいたくない。だから、余は強くなりたい。愛しい美咲を一人にしないように」

「……魔王」

やばい。ちょっと胸キュンなんですけど!!

いいんですか!?私、こんな甘い飴を頂いちゃっても。


いつもコケにされてたので、ちょっM属性でもついちゃったのか、いざこういう雰囲気に

なっちゃうと戸惑う。

こんな気持ちになるのって、フラグがことごとく折られていった弊害だよね。

ほんと、あれ迷惑。


だが、こんな甘い飴を頂くチャンスめったにない。

はっきり言って予想外だ。


――だから、この飴頂きますっ!!


「魔王。あのさ、私魔王のこと――」

「――ちょっと!!この私の存在を無視するなんてどういうつもりよ!!ディアス」

私の台詞は、突然覆いかぶさった言葉にばっさりと切られてしまう。

その美声の持ち主は、今にも傘を振り回してしまいそうなぐらいご機嫌斜め。

美女は怒っても美女らしい。なんか、映画でも撮ってます?ってぐらい様になっている。

人間のドロドロしい感情がなく、花があるね。


「なんだ、まだ居ったのか。それに、その名をお前が呼ぶなと言ったであろう。

それに、空気を読むという事が出来ぬのか?余と美咲の蜜月を邪魔をするとは――」

魔王は私のこめかみにキスを落とし、女神様を睨んだ。


すみません。その空気を読め発言、私が常日頃魔王に言っているんですが……


「ずいぶんと強気じゃない。その女の前で格好つけたいから?私の姿を見てびくびくと逃げていたくせに。

ディアスのくせに生意気」

「逃げていたわけではない。体が危険を察知し拒絶していたのだ」

「それって、まるで私が危ない人みたいじゃない。こんなにか弱く可愛い私に対して、失礼だわ」

ふぅっと可憐さんは、頬を手をあてため息をはき出す。

それは、今にも消えてしまいそうなぐらい儚く映る。


「危ないも何も、お前が魔界にした仕打ちわかっているのか?まだ残務処理

終わってないのだぞ!?財務大臣に至っては、あれから心労で倒れ、一ヶ月ばかり

休職しておったというのに、お前は全然反省も何もないのか」

「そんなの当然の権利よ」

「なぜ、当然の権利なんだ?」

「だって、ディアス達が勝手に召還したんじゃないの。私、召還してって頼んだかしら?

あっちの世界で平和に暮らしていたのに、貴女達がそれを壊した。

だから、私は対価としてお金を使うのは当然。好き放題我が儘言うのは権利」

女神様が言ったその台詞に、私はちょっとだけ納得した。

だって、言われてみればそうじゃない?

あっちで生活していたのに、こっちの都合で勝手に召還されるって迷惑だもん。


「だから、召還三日目の段階で元の世界に戻すから帰ってくれって言ったではないか!!

元通りの生活を約束すると言ったのに、お主が拒否したのだろうが」

すみません、召還三日後って……

女神様、ちょっと最初っから飛ばしすぎじゃないですか?


「だってあっちの世界飽きてたんだもん。モデルのバイトも友達も学校も何もかもつまらなかった。

だから、こっちの世界に残ったのよ。魔界全土を手に入れるのも悪くないって思ったし。

でも、魔界ではディアスの方が権力が上。ディアスを私の魅力で懐柔させて魔界を

乗っ取ろうともなぜか旨く行かなかったわ。逃げるし。

でも、それも今日その女で理由がわかった。そりゃあ、私じゃ無理よね。

だって、ディアスってB専なんだもん」

「B専?美咲、B専とは何だ?」

魔王が首を傾げながら、私に向かって聞いてくる。


――それ、私に説明しろと?


私が答えずB専ってなんだと周りに聞かれるのも嫌だし、結局説明した。

なんだか、すっごく微妙は気分なんですけど。

説明を聞きいている最中、魔王の顔はみるみるうちに歪んでいく。


あれ?この反応って、もしかして……――

次の瞬間に魔王の口にした台詞は、私の想像通りで胸がときめいた。

今日はときめきっぱなしだ。


「美咲が不細工だと?お主、目が腐っているんじゃないか!?」

魔王っ!!

私は、魔王の頭をよしよしと撫でたい衝動に駆られた。

よくぞ言った!!これは、今回の風邪騒動のおかげかも!!

いや~。魔王が大人になったよ。


……だが、こいつは魔族。

そんな甘い物じゃないという事をすぐに思い知らされる。


「美咲は普通顔じゃ。この人物画の脇役顔を良く見るのだ!!」

そう高らかに宣言し、魔王は私の肩を両手で掴み姿を女神様の前面に押し出した。

そういう期待は裏切れよ!!

私はすぐさま魔王の手を振りほどき、後ろを振り返って魔王の胸倉を掴む。


「お前、ふざけんなよ?」

「なぜ美咲は怒っているのだ?」

「怒るだろ、普通」

「あぁ、やはり迎えが遅れのを怒っておるのだな。すまぬ、美咲。

もう余は風邪を引かぬし、美咲を離さぬ」

「違ぇよ」

なんでそうなるんだよ、この状況で。

これこそ空気読めだろうが。


「そこは美咲ほど可愛い人はこの世にいないとか、余は美咲専門じゃとか言うでしょうが」

「え?」

そんな私の台詞に、魔王は目を大きく見開いて私を見ている。

真顔で聞くな。なんだか、こっちがばつが悪くなるじゃんか。


……結局、これが私の飴か。



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