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18 一応魔界のお妃さま候補(仮)

ちょっと長いです。なので、お時間ある時にでも(*^_^*)

「いや~。まさかうちの店なんかに本当に魔界の方達がいらっしゃるなんて!!娘に聞いたときは疑いましたよ」

私の横に立っている、ワンピースに白いエプロンと三角巾を着用したおばちゃんは、そう感嘆の声を上げた。おばちゃんが動くたび、くるぶしまでのワンピースの裾がひらひらと揺れている。

弾んだその声音は、まるで私達が芸能人に遭遇た時のような反応。


どうやらおばちゃんは、ラムセの事がお気に入りらしく、ラムセの方をちら見中。

そんなおばちゃんを見ながら、私は「そいつ外見だけですよ」と声をかけたい衝動に駆られてしまっている。

そんな私の視線に気づかずに、おばちゃんは仕事をこなしていく。


「こちらがディストの果実酒と、ジャニアのジュースです。どちらもこの地方の名産の果物で作られているんですよ」

おばちゃんはそう言うと、銀色のお盆に乗せて持ってきた食器類をテーブルに並べ始める。

木で出来たジョッキ二つに、オレンジ色の液体の入ったグラスが二つと、それから細いカイワレのような青野菜と黄色い豆が入った小皿四つ。これはお通しだろう。

私とキースはノンアルコールの方で、ジャニアというジュースの方だ。


「今年はジャニアが豊作で、いま人手がかなり足りないぐらいなんです」

「それって、この辺りで取れるんですか?」

「そうですね、ここから馬車で三十分ぐらい行ったところにジャニアの畑があるんですよ。もし、気になるのでしたら、ご案内致します。実家がジャニア畑を営んでいるので。今お出ししているのも、実家で取れたものなんです」

「へ~、このジュースも」

「さぁ、どんどんご自由に注文して下さいませ。全て店からのおごりです」

「え!?駄目ですよ、お金はちゃんとお支払い致します」

さすがにおばちゃんの言葉に甘えるわけにはいかない。

っうか、こいつら遠慮とか知らなそうだし。

それにちゃんと所持金も持っているし、こういうのはちゃんとしないと。


「いいんだよ、お嬢ちゃん。うちの店に魔界の方達に来て頂けるなんて箔がつくんだから」

「だとよ」

ラムセの発言に、私は眉を顰める。

やっぱ言うと思った。


「あのさ~、少しは遠慮しろって」

ラムセの言葉に、私はすかさずそう答えた。

その時だった。なぜか「え?」というおばちゃんの疑問に満ちた声が耳に届いたのは。


「どうかしましたか?」

ラムセに言ったのに、なぜかおばちゃんが固まったまま、私の顔を凝視している。


「お嬢ちゃんも魔族の方かい?」

「いえ。人間ですが」

「そうだよね……」

おばちゃんの歯切れの悪さに、私は眉をしかめた。

なんだ?もしかして私って、人間に見えない?


「――!?」


もしかして、これは「俗に言う恋をすると綺麗になる」というやつか!?

密かに私も人間に見られないぐらいバージョンアップしたのかも!!

やべぇ、ちょっと気分良い。

すみません、実はちょっとじゃなくかなりいいです。

もうね、通りを歩いている人達を招いて奢りまくりたいぐらいのテンションだ。


「美咲がどうかしたのかしら?」

「いぇ、あの……」

「いいのよ、気にしないでどうぞ」

おばちゃんはシリウスの促す言葉に対し、重い口を開いた。


「従者が主に対しての口の利き方ではないなと。その上、私達人間は魔界の恩恵を受けている身。ですから、気になってしまったのです。申し訳ございません、少々出過ぎたことを口にしました」

「……従者?」

誰が?って聞くまでもない。


――私かよっ!!


思えばずっと庶民だった。

しかも、平凡な容姿に中身という庶民の見本のようなものだ。

仮がつく婚約者様にも、「余と違い、美咲は実に風景に溶け込めるのぅ。一瞬でも美咲から目を離して舞しまえば、通常の者ならば探す事は困難だ。だが、安心するが良い。余の美咲への愛があれば探せる」と町でこの間のデート中に言われる始末。


もちろん、改めて言われるまでもない。

んなこと、自分でもわかってるっうの。


通行人Bや町人Aなどのようにアルファベットがつき台詞がつく方がまだマシ。

私は何も出ないだろう。

きっと私の存在は、通行人Bの陰に隠れて見えないぐらいなのかもしれない。

だが、私はそれに対し、今更反旗をひるがえすつもりは毛頭ないのだ。

だって、それなりの生活を歩んできたのだから。


「あ、やっぱ見えねぇか。こいつ、こんなんでも魔王様の婚約者。女神補欠だ」

「ええっ!?この人が!?」

おばちゃんは持っているお盆を落とし、口をぽかんと上げてこっちを凝視している。


ごめんね、なんか……

よくわかんないけど、私は急に謝りたくなったのは何故だろうか。


でもおばちゃんの驚きもわかるよ。

だって私が召還された理由が理由だからさ。

きっとそれを知らない人達はまさか魔王の相手だとは思わないはず。

だから、このおばちゃんの反応は実に正しいことだ。


「大変申し訳……――」

「ちょっ!?」

自分でも素早かったと思う。

地面へと座ろうとするおばちゃんを私はすぐに腕を掴んで止めた。

だって、なんか土下座でもするような勢いだったもんだから。


「そのような高貴な方とはつゆしらず、私は……罰は覚悟の上。どうか処罰を」

「ほんとすみません。私、そういうのじゃないんですよ。一応魔王の婚約者ですが、誰もそんな風に

扱ってませんし。むしろ、従者扱いと同じ待遇受けてますから。それに私はただの庶民なんです。バイトの掛け持ちもしてますし、セールや値引きという言葉に弱い学生なんですってば」

自虐ネタが入ろうが、私は必死だった。

いや、だってこういう扱いされた事ないし。


こういうのってただの大学生がいきなり、「はい、貴方今からお姫様」って言われているみたいな

ものじゃん。

自転車通学している人間が、いきなりベンツ通学に切り替わったら平常心で居られるかって話。

そんな事すんなりと受け入れられるわけがない。


「本当に気にしないで下さい。キースとか他の人も普通に接してますから」

「失礼ですが、美咲様。俺は一応敬ってますよ?」

「お前、一応ってつけている時点で敬ってないからな」

ほらな。こいつらこんなんだもん。

悲しいことに基本的にこけにされている生活を送っているので、私は敬われる扱いになれてない。

魔界でも普通に接されているし。


「すみません、なんか美咲様だからいいかってなって。それに俺は店員さんの気持ちもわかりますよ。今はシリウス様達がいらっしゃるから信じられるかもしれませんが、美咲様がピンだったら無理ですから。俺、最初半信半疑でしたもん。なんか、威厳とかないですし」

「……。」

「本来なら、あの第一王子にだって命令出来る立場なんですよ?それなのに、牢に入れらちゃうし。いいですか?本来なら美咲様のお立場は、この世界の国王様達よりも上なんです」

「全然そんな扱いされなかったんだけど?」

「うちの国では、国賓級の扱い受けたじゃないですか」

えぇ、受けました。

最初だけ。

後は問題ぶん投げられて、いってらっしゃい~で送られたじゃんか。


「――ですから、貴方様の発言権を駆使すれば、今この世界であの魔界の負の遺産――女神を追い払う事すら可能。もちろん、恋に盲目になっているあの第一王子の反発や反抗は考えられるでしょう。魔界を敵に回しても構わないと、ほざいた身の丈を知らぬ愚者ですから。人間とは実に愚かな生き物。勝算が全くないにも関わらず、口だけは達者だ」

「……え?」

なんだか、キースの様子がおかしい。

見た目も声も話方もキースなんだけど、言葉に違和感を感じる。


もしかして、これが地とか?


「ご自覚がないようなので、ご忠告しておきます。貴方様はディアス様を支え、いずれは魔界を背負う妃になられるお方。もう少し物事を見て考えて下さいませ。こちらの世界も魔界も。ただ、なんとなく生活して通り過ぎるのではなく」

キースはそう告げると、がくっと力無くテーブルへと倒れ込んでしまった。

その様子は、操り人形の糸が全て突然切れたかのようだ。


「ええっ!?」

なんなの!?一体。

酔っ払った?いや、でもこいつノンアルコールだし。


「――シリウス」

ラムセは私と一緒に見ていたキースから、視線を斜め左方向へと向けた。

反射的にそれを追うと、その先にあったものに私は釘付けになってしまう。


な、なんなの!?その可愛子ちゃんは!!

シリウスの豊満な胸に埋もれるように居たのは、ヒョウ柄の子猫ちゃん。

なんか背中にコウモリの羽のようなものが生えているけど、これは猫であっているのか?


そのふわふわとした可愛い生き物は、つぶらな瞳で空を見つめている。

その猫ちゃんの可愛さに打たれた私とは違い、シリウスとラムセはやけにシリアスモードだ。


「……駄目。気配が完全に消えたわ。一体何者?」

「わからない。魔力が微弱すぎて気づくのが遅かったから、相手までは特定不可能だ。だが、人の意識を操るなんて高度な術を使う奴は限られている。そして、その主もな」

「もしかして、あの方が監視として送ったってことかしら?」

「かもな」

そう言ってラムセは深く息を吐き出した。







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