ホワイトデー企画 唯一無二のその華の名は 後編
「……おい、ラムセ」
いつもの声より遥かに低くなった私の声を聞いてないのか、彼の笑いは止まる事をしらない。
何がそんなに彼のツボに入ったのか、今度はむせりはじめてしまっている。
ラムセがやっと落ち着いたのは数秒後のことで、ややっとひと笑いつき、涙を拭きながら「はぁ~」と深く息を吐いた。
いくら名前負けしているからって、そこまで笑うことかっ!?
自分でもそう思うけど、普通ならこの場から立ち去るだろうが。
せっかくの良い感じの空気なんだからさ~。
「お前って、薔薇って言うよりニルギィスだよな」
「ニルギィスって何だよ?ニルギィスって」
「は?お前知らねぇのかよ」
「どうせ、魔界のその辺に大量に生えている野草でしょ?」
「なんだよ。知ってんなら聞くな」
「知らねぇし」
知らないけど、推測だっうの。
ほらな、こいつらの私に対する印象って所詮そんなもんだ。
「たしかに、この薔薇は華やかで可憐だが美咲は間逆だ」
「ちょっと、魔王空気読んでよ!!あのさ、薔薇の花束渡してくれたの魔王だよね!?名前にぴったりだからくれたんじゃないの?じゃあ、なんでわざわざこの花私にくれたんですかって話になるよね!?」
「どうして美咲は怒っておるのじゃ……?余はまた何か美咲を怒らせるような事したのか?」
魔王は私のカットソーの腰部分を掴みながら、眉を下げて首を傾げる。
それは他から見れば、私が悪いように見えるぐらい悲壮感ただよう雰囲気だ。
「いいえ!!魔王様が心をお痛めになるような事はありません。ひとえに、この女神補欠の器が小さいせいです」
しゅんと肩を落とす魔王に、ラムセはそう力説した。
器小さくて悪かったな。結構自分では大きいって思うんだけど?
お前らのようなデリカシーのない連中と一年以上一緒にいるぐらいだし。
まぁ、そのおかげでたまに口悪くなっちゃったけどさー。
これ、人間が魔界で暮らす事の弊害だよね。
「どうせ私はこの花のように、気品溢れないし華がないですよ。えぇ、その辺りに咲いている雑草のように地味でぱっとしませんよ」
「なぜそのような投げ捨てるような言い方をするのじゃ?」
魔王は花を潰さないように慎重に私を軽く抱きしめると、わがままな子供をあやすかのように優しくゆっくりとそう囁く。
こんなことぐらいで私の機嫌がなおるとでも思っているのか!!
これで機嫌なおっても、さっきのいちゃらぶモードになるわけないだろうが!!
「怒るに決まってるでしょ?だって魔王そういう風に私の事思ってるんだし」
「そうじゃが……それが?」
それがって、おい。
そこは、「そんなことはない。美咲はこの薔薇の名と同じで可憐で華やかだ」とか嘘でもいいから言って欲しいんですって。
あ~、なんでいつもいつもこうなんのよ!?普通のホワイトデーがおくりたいのに~っ。
あぁ、なんか去年の方がいいような気がするわ……
去年のホワイトデーに、私は魔王の等身大のマシュマロをお返しに貰った。
そのマシュマロを包丁でバラバラに切ようとしたら、「どうして余を解体するのだ!?」とうっとおしく泣かれてしまったのよ。
いや、切らないと食えないしと思いながら、マシュマロを切るため魔王を3時間説得したのがマシに思えてくる。
「――地味でぱっとしないのがどうしたのだ?中も外もぱっとこれだというものが出て来なくても、余はそのような美咲を大切な唯一無二の華だと思う。そんな美咲が余の宝物じゃ」
その言葉を聞いて、ばっと反射的に顔を上げて魔王を見上げてしまった。
魔族は基本的にあまり嘘やオブラートに包んだ物の言い方はしない。
そのため、デリカシーがなさ過ぎて私がいらっとするんだけど。
全て、口に出すことは全部素直な言葉ばかり。
だから、この言葉はきっと――
ホワイトデーも悪くないなって思った。
魔王のあの言葉も聞けたから。
……まぁ、相変わらず余計な言葉の方が多かったけど。
それに、この綺麗な薔薇貰えたしね。