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16 漆黒のドレスで隠して

「この者達の数々のご無礼をお許し下さい、美咲様」

カラス色のドレスを着たその人は、跪いたまま深く頭を下げ私にそう謝罪の言葉を告げた。

それにつられるように、その人の後ろに控えていたマッスル達にも謝罪が同様に波のように広がっていく。


一体これは……?

そのマッスル軍団の中にはあの王子の姿もあるため、首を傾げずにはいられない。

いや、違うな。あれは王子じゃない。

王子なら、この人達の先頭にいるはずでしょ?

そうこの黒ドレスの人のように…――


「ちょっと待て!!お前、男なのか!?」

ラムセの雄叫びにも似た声が空気を震わせ聞こえてきた。

なぜ彼が珍しくそんな声を出したかと言うと、数秒前に私達の耳に届いて来た謝罪の言葉が、その風貌からは想像できないぐらい低い声音だったからだ。

私はその事に関しては町で彼を抱きとめた時に「あれ?」と疑問に思ったことがあったので、

むしろ「あぁ、やっぱり」って思う方が早かった。


ただ、ラムセ達は違ったみたい。

最初黒ドレスの人が声の主だと思わず、その後ろの男達を見ていた。

そしてやがてだんだん理解したのか、目を大きく見開いて口をぽかんと開けて固まっちゃったんだよね。


いや~、しかしラムセのアホヅラかなり見ものだ。

あの瞬間をカメラに抑えて、本人に見せて嘲笑ってやりたいぐらいだったよ。

もし撮れてたら、いざという時の弱みに出来たんだけどなぁ……

この場にデジカメや携帯カメラがないのが、残念で仕方がないや。


「やっぱり貴方、男だったんだね?」

「えぇ。美咲様はやはりあの時にお気づきに?」

「さすがにバレるでしょ、触ったんだから」

私は町で『彼女』――いや、『彼』を抱きとめた時に一つの疑惑があった。

でもすぐにあの追いかけっこがあったから、すっかり忘却の彼方へ消えうせてしまっていたんだ。


それぐらいそれは些細な出来事。

それがまさか、こんな形で関わって来るなんて。


あの時感じた違和感。

それは見た目は貧乳仲間だったけど、感触が男の人の体だったということ。

骨ばった体つきや広めの肩などは、女性的より男性的な感じだったし。

シルエットはドレスや手袋、それにベールで隠せていたけど、いざ触れてみると違いがわかる。


「騙すような形になってしまって申し訳ありません。町に出るときは、こうして女装するもので……」

「ということは、貴方がライズ王子ですか?」

私の言葉にライズ王子が漆黒のベールに手をかけ、それをぐっと引き下げる。

はらはらとカラスの羽根のようにそれが舞い、地面へと吸い寄せられていく。

それが地面に触れる前に、彼はすぐに帽子に手をかけた。


「はい。俺がライズです」

ダークグリーンの瞳で力強く彼は名乗りながら、こちらを再度見つめた。


王族と言えば、美形・美人と相場が決まっているのか?

ライズ王子もその系統だったみたい。

ダークグリーンの瞳で薄い茶色の耳より短めな髪に、中世的な整った顔立ちは魔界に居ても違和感のない容姿。

ベールで顏など隠さなずとも、ドレスを着用していれば違和感ない。


――あれだけ「自分持ってる!!」「異世界オプション」って騒いで結局持ってなかったな~。

持ってたのセーラさんだったじゃんか。

王子とぶつかって転ばないと探しまくらなきゃならなかったし。

あー、やっぱ私何も異世界召喚オプション持ってないわ。


「そして、この者達は俺の友人達です。俺は母上が亡くなるまで城下町に住んでいましたので、その縁で」

「俺達とライズは、ガキの頃から一緒に過ごしてきた仲間なんですよ」

ライズ王子の言葉に、私達が王子だと思っていた男が口を開く。

だったら、もう少し早く言って欲しかったんですけど。

というか、そもそもなぜ逃げたんですか?


「ここに来る途中にセーラという娘達にかいつまんで話は聞きました。すでに村へ偵察隊は派遣していますので、ご安心下さいませ」

「こんな短時間に適切かつ迅速な対応……すばらしいです。ライズ王子は、人の話も碌に聞かずに俺たちを牢に閉じ込めた、どこぞの第一王子とは違いますね」

キースは王子の言葉に感嘆の声を上げるが、その後半の言葉には何処か棘が含まれてあるように感じる。

いや、実際に含まれているだろう。

キースが嫌そうな顔をしながらしゃべっていたのだから。


まぁ、キースが根に持つのもわかるわ。

第一王子が駄目すぎるから余計秀でて見えるんだよね。


ライズ王子に比べてあの第一皇子め。マジで爪の垢でも煎じて何十杯でも飲ませてやりてぇ。

セーラさんの村が大変なのに女神様の方にばかり囚われやがって。

民からの税金で食ってんだからちゃんと仕事しろよ。仕事。


「兄上がご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。兄上も悪い人ではないのですが……」

「お兄さんの事を悪く言いたいわけじゃないんですけど、悪い人じゃないんだけどって言っている時点で周りに迷惑をかけている人間ってことですよね?女神様を寵愛するのは良いけど、自分のしなければならないことはちゃんとしなきゃ。あのバ……じゃなくて、第一王子を放置するのは少し考えた方がいいと思いますよ?」

「――そうなんだよ!!さすが魔王様の婚約者様!!」

「は?」

大人数の男たちの賛同する声に、体がびくっと大きく揺れた。

な、なんなんだ?急に。


「ライズ!!だからお前が次の国王になれよ!!あの第一王子、あいつじゃ駄目だ。女に現をぬかしやがって。

民のために何もしてくれてないじゃないか。いつも影で動いていたのは、ライズだろ。あいつが一体何をしてくれていた?何もしてないだろ?現に今回の事もまた何もしていない。また今回も動いたのはライズだ!!

しかもお前が収めた事件はいつもあの馬鹿王子の手柄になってんだろ?力量もあるし、俺たち庶民の気持ちもわかってくれている。ライズ、俺達はお前を国王にしたいんだ」

「そうだよ、ライズ!!俺たちはお前のためだったらなんでもするぜ。国王様に直訴して、第一王子の王位継承権を廃止して貰おう!!なぁ!!」

「あぁ、必要とあらばクーデターも辞さない。ライズに第一王位継承権を」

男たちは立ちあがり、拳を高く天へと伸ばしていく。


――なんか、雲行きが。

でも、鬱憤が溜まるのは理解できる。あの第一王子も少しは考えてくれればなぁ。

まぁ、とりあえずセーラさんの村の事については動いてくれているから一安心かも。


……なんてそう安堵したのもつかの間でほんの数秒間だけだった。












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