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12 一難さらずにまた一難

ちょっと長めです。

「魔王様の婚約者とは知らずに申し訳ありませんでした。兄に変わり心からお詫びいたします」

そう言いながら目の前のその青年はただひたすら頭を下げていた。

一つに束ねている綺麗な金色の長い髪がさらさらと肩から流れ落ちる。

年の頃は13~15歳ぐらいだろうか。

着用している王子様的な衣装を着ても、まだ成長途中の体は隠すことはできない。


室内に薬草の独特の香りが漂って来る中、目の前でひたすら謝罪をする彼を見て私は困惑していた。

だってこの子がしたわけじゃないし……


私達がいる白をベースとした室内には、壁際にベッドが感覚をあけて4台並べられている。

そして窓際には、机と本棚。

それからベッドのある壁とは反対側の壁には、仕切りのいっぱいある棚が一面に。

部屋の中央には椅子に座っている女性と白衣を着た老人がいて、老人は彼女の手に包帯を巻いていた。

一方の私達はと言うと、一番邪魔にならない扉付近でそれらをバックに彼の謝罪を受けている。


「ご無礼をお許し下さい、美咲様」

「いや、貴方が気にする事は何一つないよ。だから、顔あげて?」

私は彼の背に手を添え、これ以上頭を下げる必要な無いと告げる。

だが、彼はそれでも頑なに頭を上げようとはしない。

きっとこれは魔王の名の影響だろう。

私だけなら、こんな風に謝罪を受けることはないと思う。


――酷くいたたまれないよ。


この子は、私達を牢へと閉じ込めた馬鹿王子の弟。

この国では、第三王子だそうだ。

キースが見た手紙は、予想通り良くない内容だった。

それを見て慌てた看守が呼んできたのが、この子ディオ王子。

あの一番上じゃなくて助かったわ。ほんと。看守グッドジョブ。

推測だけど、あの王子来てもたぶん牢から出られなかったし。


「ねぇ、ほんといいから」

「そうですよ。美咲様もそうおっしゃっている事ですし、お気になさらずに」

キース達も私と同じ気持ちなのか、私の言葉の後に彼の謝罪を止めようと口を揃えて言ってくれた。

やっぱ居たたまれないんだろうな。キース達も。


「もう、謝罪なさらずとも結構ですよ。俺達はディオ王子に感謝をしているんです。ディオ王子は、美咲様を見て魔王様の婚約者と信じて下さったじゃありませんか。普通、なかなか最初は信じられませんから。だって、この美咲様ですよ?」

「気に病む必要はありません。美咲様はこの通り、平凡オーラ全開の御方。見た目通り普通なんです。だから、俺らもすぐに打ち解けたんですよ」

キース達よ。

打ち解ける事はいい事かもしれないが、打ち解けすぎじゃねぇか?

もうちょっと言い方あるだろうが。


この王子にもキース達みたいに軽い所が少しはあればいいんだけど……

たぶん、この子すごく律儀で真面目な性格なのかな。

さてどうするか考えていると、彼の名を呼ぶ、声少ししわがれたが耳に届いて来た。


「――ディオ王子。この娘の治療が終わりましたぞ」

私達の言葉にも頭を上げなかった彼だが、その言葉にはすぐに反応し、顔をあげ視線をその声の方向へと向けた。

彼は揺れる緑色の瞳で白衣の老人の隣りにいる女性を見ながら、唇を噛みしめている。

そして、瞼をゆっくりと閉じると大きく息を吐きだし瞼を開けた。


「……彼女の怪我の容体は?」

「幸い軽度の火傷で済みました。しかし、あの王子には困りましたのぅ」

白衣の老人は棚から何かを取りだすと、手の平サイズの茶色い紙袋へと入れ、それを亜麻色の髪の女性へ渡す。

たぶん化膿止めか何かの薬かもしれない。

彼女はそれを受け取ると「ありがとうございます」と呟きながら頭を下げた。


「セーラと言いましたね?」

ディオ王子は彼女の名前を呼びながら近づいていく。

セーラさんは、あの時牢へと連れて来られた女性。

彼女が持っていたのは、彼女の村・ランの領主による腐敗した独裁支配について書かれた村民達からの告発書だった。内容は、官人との癒着や賄賂等の内部問題など。

彼女はそれを国王陛下に知らせるべく、この城までやって来たそうだ。


「――貴方を牢へと連れてきた兵から聞きました。兄達のせいで申し訳ありません」

ディオ王子が謝罪する必要なない。

謝罪しなければならないのは、あの馬鹿王子の方だ!!

あいつ馬鹿じゃねぇの思ってたけど、本当の馬鹿だったし。

私が言っているあいつっていうのは、このディオ王子の兄で第一王子・フーガ王子。

噂の可憐様に夢中になって、人の話も聞かずに私達を牢にブチ込んだ男だ。


セーラさんは命からがら村からこの城まで長い道のりをかけて告発書をもって、国王陛下の元へとやってきた。

国王様を探していると、庭に第一王子のフーガ王子と可憐様がお茶をしていたらしい。

これぞ好機とばかりにセーラさんは駈け出すのは普通のこと。

だって、国王様に届けずとも、王子に届ければなんらか対策をして貰えると思うじゃん?

だから、彼女の行動は頷ける。


……でも、その相手があの馬鹿王子だったのが問題だったのよ。


村の事を訴えながらセーラさんが近づいていくと、やっぱり兵が邪魔をした。

その兵と揉み合いになったセーラさんが、テーブルへと転んでしまったのだそう。

もちろん、お茶会というからテーブルにはお茶の入ったポットやティーカップなどがセッティングされている。

セーラさんは、その時腕に火傷を負ってしまったのだ。


テーブルごと地面に倒れた彼女に、噂の可憐様が言った言葉は「どうしてくれるのよ!!これお気に入りのドレスなのに!!」そんで、あの馬鹿王子が言った言葉は「小汚い格好で俺達と可憐の前に現れた上にお茶会を邪魔して!!その上、可憐のドレスを汚すとは無礼だ」らしい。


それでも、彼女は村を背負って城まで来ている。

だからそれでも村の状況について必死に訴えた。

だが、それも聞いて貰えず王子の命令で牢へ。

これは彼女の話と彼女をここに連れてきた兵から聞いた話を合わせての内容だ。


「私が悪いんです!!ですから、頭を上げて下さい!!あの、村の事を助けて下さい。お願します……」

セーラさんは頭を下げた。

そんな彼女を見つめながら、なんとかしてあげたいって思う。

でも、私にはそんな力がない。


「ねぇ、ディオ王子。国王様いつ戻って来るの?さっき外交中って言ってたけど」

「いま早馬を出しておりますが、一週間ばかり様子を見て頂きたいです」

「じゃあ、他に誰かこの件に関して力になってくれそうな人いる?貴族とか官僚とか……」

たぶん私の勝手な予想かもしれないけど、第一王子は力になってくれないって思う。

ディオ王子は、まだ補助的なことしか仕事できないから力不足って言ってたし。

誰かいないのか?


「――あ、兄上がいます!!」

王子が力を込め、そう叫んだ。


「第二王子のライズ兄様が!!ザラ兄様は頭も良く武術にもすぐれてますから、きっと今回の事力になってくれるはず!!」

「じゃあ、行こう。案内して?」

「……それが、ライズ兄様はめったに城に居ないんです。兄様にとってここは居心地が悪い場所ですから」

「そうなの?」

「ライズ兄様は城下町生まれなんです。ですから、おそらく城下町のどこかに――」

「は?」

王子の言葉に私たちは言葉を失った。

どこかって何処?

しかも広いよ、城下町って――






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