これからの相談です
俺とエニスとオーラさんはギルドの中に入っていった。朝早いせいかギルド内に人は少なかった。
「どうぞ、適当なところで待っていてください。私は少し野暮用があるので」
オーラさんは奥のほうに去っていった。俺とエニスがのんびり座っていると、ケインとがやってきた。
「おはよう、ヨウイチさん」
「おはよう」
「おはようございます、ケインさん」
俺とエニスが挨拶を返すと、いきなりケインの後ろから誰かが出てきた。
「あなたが噂のヨウイチちゃんね」
なんか小さいのがいる。椅子に座ってる俺よりも身長が低くて、寝癖のついた茶色い髪をふさふささせて、黒い瞳のたぶん女の子が俺を見ていた。
「セローアちゃんじゃない」
エニスは立ち上がるとセローアに近づいて抱き上げた。
「私は子供じゃないんだからそういうのはやめて!」
セローアは抱き上げられながら足をばたつかせた。どう見ても子供だ、うん。エニスは笑顔のままでそれを下ろした。
「まったく、いつ会っても失礼な人ね」
それからセローアは俺に顔を向けた。
「初めまして、あたしはセローア・エルディン。このギルドの魔法使いよ」
「俺は宮崎要一。要一って呼んでくれ」
「ふふん」
セローアは俺の軽い自己紹介を聞いてわざとらしく笑った。なんか嫌な予感がする。
「別に知ってると思うけど、この辺りではファミリーネームを後に言うのよ」
「それはわかってるけど。俺の生まれたところではこうなんだ」
「うっふふー」
なんか満面の笑顔だ。あー、なんか言うことの想像がつくぞ。
「ずばり、あなたはどこか違う世界から来た人なんでしょ」
そのものずばり。
「どうしてわかった、とか思ってるでしょ。実はそういう伝説があるの」
いや、いずればれるんじゃないかなーと思ってました。別に隠してたわけでもないから別にいいけど。
「世界が危機に陥る時、この世ならざる者が現われてこの世界を救う」
なんか仰々しい雰囲気でセローアは胸を張った。まあないけど。
「おほんっ! つまり色々話を聞いた限り、あなたがそのこの世ならざる者っていうのでたぶん間違いないと思うの」
ここまで言われたならしょうがないか。
「そうだよ」
エニスは俺の返事を聞いて驚いた顔をした。
「違う世界って、ヨーイチさんはどれくらい遠くから来たんですか?」
「いや、どれくらい遠くからはわからないけど。普通は無理な距離だと思う」
俺の答えにエニスは感心したような顔になった。
「それはすごいですね」
「そう、すごいことなんです!」
セローアは力強く叫んだ。ギルド内の人は全員こっちを見た。
「今あたしは伝説を目にしてます! すごい! 素晴らしいことです! まさかこんな場面に出会えるとは思ってもなかった!」
セローアは興奮して俺のほうに近づこうとしたけど、俺はそのおでこを指で押さえてみた。
「なにをするんですかー」
セローアは手足をじたばたさせた。面白いなこいつ。俺が指を離すと、セローアはちょこんと椅子に座った。
「ま、とにかく今のことはオーラさんにも話してありますからね」
なんというか、思ったよりも早く身元がばれた感じだな。別にいいけど。で、そこにオーラさんがケインを伴って戻ってきた。オーラさんは俺たちのことを見回した。
「セローア、あのことは話したの?」
「はい、今どーんと宣言しました」
「そう。ヨウイチさん、このことはギルドのメンバーには言っておきますから、ここでは気楽にしてもらっていいですよ」
このことっていうのは俺が違う世界から来たってことか。
「さて、それではこれからのことの相談を始めましょうか」
一同は席に着いた。で、オーラさんが中心になって相談っていうのが始まった。
「この町は今まで様々な魔獣の脅威にさらされてきた。それはなんとか撃退してきたわけだけど、やっと守るだけでなく、攻撃にでることができる目処がたった」
そこでオーラさんは俺の顔を見た。
「ヨウイチさんほどの実力があれば、攻めるのも守るのも安心して任せられるでしょうから、よろしくお願いしますよ」
俺はとりあえずうなずいた。
「では、スケジュールを決めましょうか」
オーラさんはカレンダーのようなものをテーブルの上に置いた。俺が知ってるカレンダーとは違うけど、それほど違うものでもない。
「とりあえず一日単位で私とヨウイチさんが交代して、町の外に出て行くことにしましょうか。一緒にパーティーを組むメンバーは適当に決めることにすればいいでしょう」
あー、なんか俺が関われないところで色んなことが決まっていくぞ。でもいいか、楽ちんだし。
「はい! 今日はあたしが同行しますよ!」
セローアが元気よく手を上げた。オーラさんはそれにうなずいた。
「では、今日はセローアとヨウイチさん、あとタローに任せましょうか」
熊連れて行くのか。まあいいけど。で、セローアは俺に向かって敬礼をした。
「よろしく、ヨウイチさん!」