ペット獲得
俺はオーガベアーを連れて帰ることにした。まあおとなしくしてるし、ケインに対しても卑屈なくらい従順だったしな。
町の近くまで到着すると、ケインは先に町に行き、頑丈なロープを調達してきた。この熊をどっかに結んでおくためだ。町の中に連れてくわけにはいかないだろ。
それからケインはオーラさんと一緒に戻ってきた。
「まさかオーガベアーを手なずけるとは思いませんでしたよ」
褒められてるのか呆れられてるのか微妙な気がする。
「しかし、本当に手なずけたのなら、これは戦力になるでしょうね」
オーラさんは熊に近づいていき、その顔をじっと見た。熊はおびえたような表情を見せるだけだった。
「なるほど、これなら使えるかもしれませんね。調教しだいでしょうが」
その目がキラリと光った。ちょっと怖い。熊もびびってる。それから、オーラさんは表情をやわらげて、俺に向かって軽く頭を下げた。
「ヨウイチさんは素晴らしい実力ですね。これからも我々に協力してもらえるとありがたいのですが」
表情はともかく、目が笑ってないよ! まあ、俺としてもそのほうが問題を早く解決できるだろうから別にいいんだけど。というわけで、俺はうなずいた。
「もちろんです」
オーラさんは俺の返事を聞いて満足気にうなずいた。
「では、ここは我々に任せて、ヨウイチさんはもう休んではどうです? お疲れになったでしょう」
「そうですね、そうさせてもらいます」
まあ、体力的にはそれほど疲れてはないけど、精神的にはけっこう疲れたな。
そういうわけで俺は1人で町に戻り、エニスの錬金術店に向かった。ドアを開けると、いきなりでっかいおっさんの姿が目に飛び込んできた。
「いらっしゃい!」
俺は深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「あの、俺はヨウイチっていう者ですが」
「そうか!」
おっさんは俺に近づいてきて、いきなり肩に両手を置いた。
「君が娘を助けてくれたヨウイチ君だね! ありがとう!」
一言で言うとむさい感じの大柄な髭面のおっさんである。そんなおっさんにこう近づかれると、暑苦しい。
それを知ってか知らずか、おっさんはちょっと慌てた感じで手を放した。
「ああ、すまん。私はタス、タス・スラナン。君が助けてくれたエニスの父親だ」
似てない。というのは心の中にしまっておく。
「そうですか。あの、それで泊めてもらえるということなので」
「それはもちろんだ、ささ、上がりたまえ」
俺はお言葉に甘えて店の奥の自宅に上がりこんだ。
「君の部屋は2階に用意させてもらったよ。とりあえずベッドくらいしか用意できてないが、かまわないかな?」
「いえ、それで十分です」
「そうか、私は店番があるから、適当にくつろいでいてくれ」
俺を部屋に案内すると、タスさんは下に降りて行った。俺は案内された部屋を見回した。
慌てて掃除したのか、すこしほこりっぽい感じで、ベッドだけが置かれている部屋は殺風景だが広々とした感じはあった。
俺はブーツを脱いでベッドに仰向けに倒れこんだ。そうして天井をぼんやりと見上げていると、頭の中に声が聞こえてきた。
「うまくやってるな。上出来上出来」
驚きを表現するために跳びあがろうかとも思ったがやめた。
「あのじいさんか? おい、これってどんな仕組みだよ」
「細かいことは気にするな。元の世界に戻ることで話があってな」
「そういえば聞いてなかったっけ。でも、この世界の問題を解決すれば帰れるんだろ?」
「そうだ。もうすぐその世界には次元の歪みから生じた強大な魔獣が現われる。それまでにちゃんと修行しておかないと、君は死ぬぞ」
「こんな馬鹿力があるってのに?」
「それだけじゃどうにもならない相手だ。だから仲間をちゃんと作っておかないと駄目だぞ。じゃ、頑張ってくれ」
「ちょっと待った! その魔獣っていうのを倒せば、俺が受験に間に合うように元の世界に帰れるんだよな?」
「それは君次第だ」
それっきり、じいさんの声は聞こえなくなった。俺は少し体勢を変えて、ちょっと昼寝をすることにした。