怪しげな影というかなんというか
それから二週間くらい経った。
俺は相変わらず特訓。まもるさんはたまにそれに参加する以外はパトロール。ポクーラはエニスの店に入り浸って錬金術を勉強していた。
「この世界の錬金術というのは非常に興味深いですね。この技術体系は非常に進んでいますし、僕の世界には存在したことがないものです」
ギルドで俺と向かい合ってるポクーラはたぶん満足そうな表情を浮かべていた。
「ところで、ポクーラの世界はどんな感じなんだよ」
「どんな感じ、と言いますと?」
「まあ、進んでるとかそういうこと」
「そうですね、技術的にはおおむね進んでいると思います。ただ、基本的に僕の世界は平和で、武器なんかはこの世界よりも発展していませんね」
「でもこの世界の錬金術みたいなのはないんだ」
「もちろん薬とかはありますけど、この世界のものとはかなり違いますね」
「じゃあ、役に立つ情報が持ち帰れるといいな」
「ええ、そのためにも勉強はしっかりしていきます」
そう言ってポクーラは立ち上がった。
「では、これからエリンさんの手伝いがあるので失礼します」
「ああ」
ちなみにポクーラが帰れる前提なのは、俺がじいさんに話を通しておいたからだ。
でもなぜか俺の目的が達成されたらという条件だけど。
まだしばらくここでぼんやりしていたかったけど、オーラさんが入ってきた。
「ヨウイチさん、そろそろ始めますよ」
今日もオーラさんの特訓が始まるな。
俺はもうこれにも慣れてきたので、そんなに憂鬱な気分にもならずに、機械的に立ち上がった。
いつも通り、ギルドの裏に来た俺は、オーラさんに指導されながら剣の特訓を始めた。
やるのは基本的な動作が中心で、使っているのは俺が以前自分で買った剣。
「だいぶよくなってきましたね。その調子で力に頼りすぎないで振れれば、もっとうまく戦えるようになりますよ」
「はい」
その後も俺は基本動作を繰り返していたが、そこにギルドに所属しているおっさんが駆けつけてきた。
「オーラさん、森でおかしいことが起こっているようです」
「どういうことですか」
「キラービーが大量に発生しています。今はケイン達がなんとかしていますが、何しろ数が多くて」
「わかりました。すぐに向かいますから、町の守りを固めておいてください」
「はい!」
おっさんは勢いよく返事をして走って行った。それからオーラさんは微笑を浮かべて俺のことを見た。
「練習にはちょうどいい相手です。全部片付けられる前に行きましょうか」
「了解」
そういうわけで俺とオーラさんは町の近くの森に急いだ。
そこではケインとまもるさんがでかいハチ、まあ大体三十センチくらいのを次々に片付けていた。
でも数が多すぎてけっこう面倒くさそうだ。
「二人とも下がってください! 後はヨウイチさんがやります」
いや、あと五十匹くらいはいますけど。
「あれを全部一人でやるんですか」
「そうです。ああ、使うのはその剣と斧だけにしてください。それから、あのハチは毒を持ってるので、鎧は着けるべきですね」
こうなったらやってやろうじゃないか。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
まずは剣と斧を抜いてから、次元の鉄槌を呼び出した。
「フォーム! アーマー!」
フォームチェンジして鎧に変化させて、俺はハチに向かって突っ込んでいった。
「おりゃああああああ!」
気合を入れるために叫びながら、力を入れすぎないようにして、しかし鋭く剣を振るった。
そのせいか、うまいことハチの胴体を横方向に切断できた。思ったよりも手応えはない感じだな。
俺はその調子で剣と斧を交互に振るってハチを片付けていった。
害虫駆除作業はけっこうさくさく進んで、たくさんいたハチもあらかた片付いた。
「そのあたりでいいですよ。後は私がやります」
オーラさんがそう言ったので、俺は下がって後は任せることにした。
オーラさんは残ったハチを剣で瞬く間に両断していった。やっぱこの人強いわ。
「しかし妙ですね」
「ええ、確かに」
オーラさんとケインは何か深刻そうな顔をしている。
「どういうことなんです?」
まもるさんがそう聞いてみると、ケインが俺達のほうに顔を向けた。
「これだけのキラービーが人里の近くに出現するというのは、普通は考えられないことなんですよ」
なるほど。
「どうもこれは何か怪しいですね」
オーラさんは難しい顔をした。
「怪しいっていうのは、どういうことなんですか?」
俺が聞いてみると、オーラさんは剣を地面に刺してから腕を組んだ。
「いえ、実は魔獣を保護しようというカルトがあるんですが、それが関わっているのかもしれません」
カルト? それはまた大変だ。
「そのカルトっていうのは危険なんですか?」
まもるさんの疑問にオーラさんはうなずいた。
「ええ、かなり危険な思想を持っています。正直言って潰したいんですが、実体がはっきりしないので、まだ手を出せないんです」
もしかして、魔獣だけじゃなくて人間も相手にしないといけないのかな?