訓練とその後
まずはケインから模擬戦とやらが始まった。
相手はでかい斧を持った、まあそこそこの鎧を着た兵士。ケインより体格はいいし、武器もごっつかった。
でも、ケインは斧の攻撃を軽く捌いているように見えた。けっこうやるじゃん。
そのままケインは相手を転がすと、剣を突きつけた。
まあ、一本ていうやつね。次は私の番か。
私が訓練場の真ん中に立つと、なぜか四人が私を囲んだ。
「これはフェアじゃないと思うんだけど」
「いや、見たところこれでもフェアとは言えないですよ」
エセーナさん、というかエセーナは笑いながらそう言った。性格悪いぞ。
そっちがそういうつもりなら、こっちの実力を見せてやりましょうか。
そう思っているうちに後ろのほうの兵士が切りかかってきたのが後方のカメラに移った。無視したところで大した影響はないけど。
「よっと!」
私は振り返ると同時にその兵士の頭をつかんで、とりあえず放り投げた。
あと三人。と思ってたら今度は残り同時に来た。
これくらいならかわせるかな。私はパワードスーツを操って、後ろに下がりながらその攻撃をかわした。
運動性能は問題なし。
それから私は正面から振り下ろされたハンマーをつかんで、そのまま握りつぶした。
パワーも問題なし。
それから両腕で左右からの攻撃を防いだ。まあこれで終わりにしよう。
「はい終わり」
軽く腕を振り回して残り三人をまとめて弾き飛ばした。
ま、こんなもんかな。
「なるほど。次は私が出ます」
エセーナは腰の二本の短めの湾曲した剣を抜いた。
あれじゃあこのパワードスーツは傷つけられないと思うけど。
「行きますよ」
エセーナがにやりと笑うと、その姿が消えた。
私はセンサーを確認したが、動きが早すぎるせいか捕捉しきれない。
そうしている間に後ろから衝撃が来た。急いで振り返ってみても、エセーナの姿を捉えることはできない。
これはちょっと厄介。実戦なら火炎放射器で攻撃方向を限定できるんだけど、ここでそれを使うわけにもいかないし。
「ほらほら! 反撃はどうしました!?」
考えている間にも攻撃は続いた。まあ決定的なダメージを受けるようなものじゃないけど、これはうざい。
とにかく私はセンサーと目視でエセーナの動きをじっくりと観察した。
確かに速いけど、動きのパターンは読める。
そして、私は左斜め前方に腕を伸ばした。
「くそ!」
はい、つかまえた。
私は暴れるエセーナをがっしりつかんでしばらくそのままにして、それから地面に下ろした。
で、これ以上誰もかかってこないことを確認してから、私はハッチを開けてパワードスーツから離脱した。
「マモルさんの実力はよくわかりました」
そう言いながらエセーナは剣を腰に戻した。
「姉さんがなんであなたを寄越したのかわかりましたよ。ケインも相変わらずいい腕でけっこう」
あれがテストなの。ずいぶん過激だこと。
「気はすすまないけど、あなた達が滞在する間はここで面倒を見ます」
「では、今日は宿をとっているので、明日からよろしくお願いします」
「そうですか。ではこれから一ヶ月、仲良くやりましょう」
あんまり気持ちがこもってないね。
それはそうと、あの手紙はどんな内容だったんだろう。
兵舎から出てから、私はケインに聞くことにしてみた。
「あの手紙は何が書いてあったの?」
「私は見てませんが、おそらく主にマモルさんの実戦訓練と、滞在中は私達を一時的に騎士団に編入するように、とでも書いてあったのだと思います」
「それだけ?」
「たぶんそれだけではないと思いますけど。後は姉妹の問題ですから」
そういうことか。
「なんか仲が悪そうな気がするんだけど」
「オーラさんは特に何も気にしてませんが、エセーナさんのほうにはわだかまりがあるんです」
「わだかまりって?」
「オーラさんは元々剣士として地位も名声もあったのですが、それを全部捨ててギルドを作って、自ら最前線に立っているんです」
「なるほど、妹にしたら裏切られた感じなわけか。一緒にやればよかったのにね」
「色々あったんでしょうね」
ケインは関心なさそうだった。まあ私としてもどうでもいいけど。
「それで、明日からはどうするの?」
「宿は引き払って、あの兵舎に泊まることになります。あと何をやるかはエセーナさんと相談ですね」
あの人に任せるのはちょっと心配な気がするけど。
「今日はこれからどうしますか?」
ケインは話を切り替えてきた。まあ宿とギルドと兵舎しか行ってないし、町の見物もいいか。
「町を案内してもらいたいんだけど」
「わかりました。ついでにマモルさんの装備も揃えましょう」
「装備? でも私にはパワードスーツがあるし」
「それでも万一に備えて、装備はしっかりしておいたほうがいいですよ」
それもそうかもね。