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招かれちゃった家

 俺はエニスに連れられて町に到着した。町はいかにもファンタジー風で、けっこう賑わっていた。


 しばらく歩くと、看板がかかったいかにも何かの店という雰囲気の前に着いた。看板には乳鉢の絵が描かれていた。


「ここです」

「へえ、なにかの店なんだ」

「そうです、さあどうぞ」


 エニスは扉を開けて俺を中に入れた。


 店内はそれほど広くなかったが、様々なビンや色々な道具、よくわからないなにかまで、所狭しと棚に並べられていた。


「ちょっと待っててくださいね、お母さんを呼んできます」


 エニスは店の奥に入っていった。俺は店内に残ってそこに置かれているものをてきとうにみていた。


 文字は元の世界のどんなものとも似ていなかったが、なぜか俺には何が書いてあるのかわかった。たぶん言葉とこれは両方ともあのじいさんの言ってた力を貸すってやつだな。


 しばらくすると、店内に客が入ってきた。見たところ金属の胸当てとガントレット、なんかひらひらした服という軽装な感じの白い長髪の男で、腰には剣を下げていた。ちなみにけっこう美形だ。


 男は俺を見て怪訝な表情をした。


「店主は?」


 俺に聞いてるらしかった。でもそんなことはもちろん知らない。


「いや、俺も客だから知らないよ。でも店主っていう人はいるみたいだけど」

「そうか、それでは待たせてもらおう」


 男はさっきまで俺がやっていたみたいに棚に置かれた商品を見始めた。でも、俺のことが気になるらしく、ちらちらとこっちを見ていた。


 俺はそれが気になってどうにも落ち着かなかった。男はどうやら耐え切れずに俺のほうを向いた。


「失礼だが、君のその格好は? いささか変わった服装だが」


 やっぱりきたよ。本当に失礼だ。


「あー、これはまあ事情があって」


 そこに奥から誰か人のくる気配があった。やれやれ、助かった、かな?


「いらっしゃーい!」


 なんか派手なおばさんが出てきた。後ろにはエニスもいるから、たぶんこの人がお母さんっていうことなんだろう。


 おばさんは俺と男を交互に見た。


「君がヨーイチ君ね。ああ、ケインさんも来てたの。どうせなら2人とも奥にはいってちょうだい」


 おばさんは背中を向けて奥に入った。ケインって呼ばれた男はよくわからないといった感じの顔をしたが、それについていった。


 エニスは俺に向かってちょっと困ったような顔をした。


「今のがお母さん?」

「はい、そうです」

「じゃあ、あのケインっていう人は?」

「ケインさんは店の常連さんで、いつもお世話になっている人です。信頼できるいい人ですから、きっとヨーイチさんの力になってくれると思います」


 それならうれしいね。俺はエニスと一緒に店の奥に入っていった。おばさんとケインはすでにテーブルについていた。俺とエニスも椅子に座った。


 おばさんは全員の顔を見回してから口を開いた。


「さて、自己紹介からしましょうか。あたしはエリン・スラナン。錬金術師というか、まあ大体なんでも作るけどね。それでこっちが」

「ケイン・カリアです。よろしく」

「俺は宮崎要一。要一でよろしく」

「まずは娘を助けてくれてありがとうね、ヨウイチさん。何か事情があるなら、できれば話してもらいたいのだけど」


 事情は大いにあるけど話すようなものでもないな。とは言ってもどう言えばいいのか、さっぱりわからない。ここは一つ、謎多き路線でいってみよう。


「実は事情があって、今この世界で起こっている問題を解決するために旅をしてるんです。詳しいことは話せないんですけど」

「この世界の問題というと、魔獣のことでしょうか?」


 ナイスだケイン。さらにそれにエニスが応えた。


「ヨーイチさんは私がオーガベアーに襲われたのを助けてくれたんですよ」

「オーガベアー? まさか、あいつを素手で?」

「そうです、すごかったんですよ。あれを簡単に投げ飛ばして追い払ってしまったんです」


 俺が何もしなくても話が進んでいくのはありがたい。ケインの俺を見る目もさっきまでとはずいぶん違う。


 でもこのパジャマのことはどうしよう。と思ったけど、エリンさんが察してくれたらしかった。


「なにか重要な事情はあるみたいだけど、あたしはヨウイチさんを信じるよ。とりあえず、その服は動きまわるのに向いてなさそうだから、これ」


 エリンさんはたたんだ服をテーブルの上に置いた。


「うちの人のだから合うかどうかわからないけど」


 俺はそれを受け取った。それでもエリンさんはさらに話し続けた。


「それと、その様子じゃ宿も決まってないんでしょ、よかったら家に泊まっていく?」


 願ってもないことだ。なにしろ無一文だしな。


「それがいいですよ、ヨーイチさんはお金も持って無さそうですし」


 あ、ちょっと傷ついた。でも本当のことだから仕方ない。


「そういうことなら、ありがたくそうさせてもらいます」


 俺の言葉を聞いたエリンさんは手を叩いた。


「よし決まり! それじゃ着替えたらケインさんに町を案内してもらうといいわよ。ケインさん、よろしくね」

「わかりました。ではヨウイチさん、私は外で待っています」


 俺の今日の予定は決まったらしかった。色々うまくいってラッキーだけど、ひょっとしてこれもあのじいさんのおかげかな?

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