集落が襲撃されたらしい
それから大体一ヶ月は特に何事もなかった。でも今日、俺はギルドの中でオーラさんと向かい合っていた。セローアも一緒だった。
「さて、五日前の話しなんですが、ここから一日の距離にある集落から、ある報せがありました」
「何があったのよ」
「魔獣の群れが近くに出没したらしいのですよ。住民は避難は完了しているので、人的な損害の心配はありませんが、このままでは集落は荒らされてしまうでしょう」
それは大変だな。
「今はケインとタローに他数名が現地に入っています。まだ魔獣の本格的な襲撃はないようですが、小競り合いはあるようですね」
ああ、それで最近見かけなかったのか。なんか物騒な話しだなあ。
「セローア、あなたにはここに残ってもらいます。集落には私とヨウイチさんで向かいます」
「はいはーい。留守番は私がやりますよ」
「頼みましたよ。さて、ヨウイチさん、私達は明日出発する予定ですが、大丈夫ですか?」
まあ、大丈夫かな。
「じゃあ、明日の朝でいいんですか」
「そうですね。それまではゆっくりと休んでいてください」
そんなわけで、俺はそれからエニスの店に戻ってゆっくりとすごした。勉強もけっこうはかどった。
で、翌日。俺がギルドに向かうと、例のでかい剣をかついだオーラさんがいた。
「では出発しましょうか」
オーラさんは俺の前を歩き出した。俺もその後を追った。
そして翌日。俺達は集落に到着して、ケインが俺達を迎えてくれた。
「状況はどうなっていますか」
「特に動きはありません」
「そうですか。それなら、あなた以外は帰ってもらいましょう」
「わかりました。すぐに準備をさせます」
ケインはそう言って姿を消した。それからオーラさんは俺のほうに向き直った。
「さて、それではこの辺りの地形をしっかりと見ておいてもらいますよ」
なるほどね。
集落を見てまわってみると、当然だけど人はいなくて、所々魔獣の襲撃の跡みたいなものがあった。
「ここに現われた魔獣は全長で言えば、大体人と同じサイズの大型のトカゲです。一体一体は大した強さでもありませんし、通常はそれほどの群れで行動するわけでもありません。ですが、今回はかなりの規模の群れです」
なんか物騒な感じの話しだな。
それからは特に話しはなく、集落を見てまわるだけで終わった。
俺とオーラさんは集落の家の一つでケインと向かい合って座っていた。
「集落を見た印象はどうです?」
「思ったより荒れてないね」
俺はケインの質問に見たまんま答えた。
「せいぜい小競り合いでしたから。でも昨日あたりから少し様子が変わってきました」
「様子がかわったというのは、どういうことですか?」
オーラさんの目つきが少し変わった気がする。
「これまでは散発的な襲撃があったのですが、昨日は遠くからこちらを観察するような動きをしていました」
「なるほど。あのトカゲ達には多少の知恵がありますから、おそらく一気に押し寄せてくるつもりでしょう」
トカゲの大洪水か?
そこでオーラさんは立ち上がった。
「ケイン、あなたは援護に専念。私とヨウイチさんであれを迎え撃ちます」
そう言ってから、オーラさんは俺の顔を見た。
「あなたがどれだけ成長したか、見せてもらいますよ」
なんか怖い笑顔だな。
それから、集落を見まわったりしてすごしているうちに夜になった。
オーラさんが外で見張りに立ち、俺とケインはさっきの家の中にいた。
「なあケイン。例のトカゲってどれくらい強いんだよ」
「ギルドに所属するだけの腕前があるなら、一対一では負けることはありませんね。ただ、集団で来られたら、全力で立ち向かわなければ危ないです」
なるほど。
「ヨウイチやオーラさんなら、かなりの数が来ても、それほど心配することはないでしょうね」
「でも不安だな」
「大丈夫ですよ」
その後、俺は見張りをオーラさんとケインに任せて眠った。
「ヨウイチさん。命が惜しいなら起きたほうがいいですよ」
いきなり物騒な言葉でオーラさんに起こされた。
「そろそろあのトカゲの襲撃が始まります」
俺がオーラさんと外に出てみると、確かに雰囲気が違った。
「これはなんかやばそうな感じですね」
「そう、すぐにでも来ますよ」
そこにケインもやってきた。腕を切ってる、ということは魔法を使ったのか。
「集落の周囲に結界を張ってきました。侵入ルートはこの道だけです」
オーラさんはうなずいてから、前に数歩進んだ。
「ではヨウイチさん。私はこちら、あなたはそちらです。できるだけ周囲を破壊しないように戦いましょうか」
あんまり暴れるなってことね。試したいこともあるし、ちょうどいい。
「では行きましょうか」
オーラさんの言葉を合図に、俺は前に歩き出した。
顔を上げて遠くを見てみると、トカゲ達がどんどん集まってきていた。