山へゴー
翌朝、俺は目を覚ましてから下に降りた。そこにはすでにイザリルとセローアがいた。
「おはよう」
「やあ、おはよう」
俺が挨拶すると、イザリルが顔を上げた。セローアはデザートの果物を小動物的にカリカリかじっていた。借りてきた猫状態?
「朝食が済んだら、出かける準備を始めよう」
そういうわけで、俺は手早く朝食を済ませてから、出かける準備を始めた。
それから俺、ザグ、イザリル、セローアでギルドを出た。まずはセローアが手伝ってる錬金術屋に向かった。
「おはようございます、ヨーイチさん」
出てきたエニスは大きなカバンを抱えていた。
「すごい荷物だね。何が入ってるのかな」
イザリルの質問にエニスは咳払いをしてから口を開いた。
「まずは傷薬が十個に、毒消しも同じだけ用意しておきました。それに爆薬を三つに、粘着剤を二つほど入れておきました」
「ありがとう」
俺はカバンを受け取った。ザグは満足気にうなずいた。
「これは助かるよ」
ま、ザグが言うなら役に立つんだろ。
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺達はエニスに見送られて出発した。
それから二日後、俺達はそろそろ例の魔獣がいるという地点に到達していた。
「ここからは用心して進むすべきだろうね」
イザリルの言葉通り、俺達は用心深く進んだ。
そうしてしばらくすると、前方に例の魔獣、ロックゴーレムとでもいうべきやつが見えてきた。
「ヨウイチ君、カバンを貸してもらうよ」
俺はエニスから預かったカバンをザグに渡した。
「まずはこれを使おうか」
ザグは爆薬を一個取り出して、ロックゴーレムに投げつけた。それはそいつの足元で爆発した。
その巨体がゆらめいたが、倒れたりはしなかった。で、当然そいつは俺達に注目して、ゆっくりと近づいてきた。
「ヨウイチ君、とりあえず時間を稼いでくれよ」
ザグの言葉に俺はうなずいた。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
さて、こいつはどう出るかな?
俺はロックゴーレムの正面に立った。一見動きが鈍そうな体だが、いきなり急激に動き出した。
まずイザリルが地面を盛り上げて壁を作ったが、奴はそれを打ち砕いて突進してきた。俺は次元の鉄槌をそいつを受け止めるように突き出した。
だが、それは見事に受け止められた。渾身の力じゃないけど、がっちり受け止めてやがるぞ、こいつ。
「ヨーイチ! そいつをそのまま止めておいて!」
セローアはそう言いながら俺のほうに走ってきた。何をするかは知らないけど、今はそれを信じよう。
俺はまずロックゴーレムを強引に突き放した。
「フォーム! チェーン!」
俺はチェーンを投げつけてロックゴーレムを縛った。
そこにセローアが走りこんできた。その手には何か危険な感じのする力が溜まっていた。
「くらいなさい!」
セローアがロックゴーレムに手をつけると同時に、そこからすごい衝撃波が出てロックゴーレムを後退させた。
「すごいなセローア」
「これくらい当然でしょ! ヨウイチもしっかりしなさいよ!」
「わかってるよ!」
俺は鉄槌をロックゴーレムに振り下ろした。それは受け止められたが、でも、まだ俺のほうが力は強い。
「おらあああああああああ!」
俺はどんどん押し込んでいった。そこでさらにイザリルがロックゴーレムの足元の地面を盛り上げてバランスを崩させた。
「もう一発!」
そこにセローアが衝撃波を叩き込むと、ロックゴーレムは今度は後方に吹き飛んだ。
「見えたよ!」
ザグが弱点を見つけたか。
「そいつの弱点は頭だよ。中心の一点を狙うんだ!」
一点か、それなら。
「フォーム! スピア!」
俺の手には一メートル半くらいある鋭い槍がおさまった。こいつをあれの頭の中心に突っ込めばいいわけだ。
「みんな、援護してくれ!」
まずはザグとイザリルが前に出た。イザリルが地面を盛り上げてロックゴーレムのバランスを崩すと同時に、ザグが槍で突きかかった。
だが、それはあっさり弾き返された。でもそこにセローアが走りこんで、跳びあがると手をロックゴーレムに向けた。
「あんたは甘いよ!」
衝撃波がロックゴーレムを仰向けに倒した。俺は渾身の力で跳び上がった。
「貫けえええええええええ!」
俺は槍をかまえて、落下の勢いで体ごと突っ込んでいった。
だが、槍が刺さる直前に、いきなり横から何かがぶつかってきた。
俺はそのまま弾き飛ばされたが、イザリルが地形を操って受け止めてくれた。
「もう一体いたなんてね」
イザリルは憮然とした感じでつぶやいた。俺も呆然。新しく現われたほうは大きさは半分程度だけど、動きは素早そうだ。
「気合を抜いちゃいけないよ」
そこでザグの言葉が響いて、俺達は気を取り直した。
「ザグ! あいつの弱点は一緒なのか?」
「まだわからないよ。とにかくでかいのから片付けよう」
ザグはそう言って、カバンから粘着剤の入った瓶を小さいほうの足元に投げつけた。
瓶が割れると、すぐに中身はなにかねばねばした感じの黄色いものに変化した。
よし、うまいこと小さいほうの動きが鈍った。それじゃあ、でかいのをさっさと片付けようか。