万全の態勢だ
俺たちの陣容を整理すると、まずは俺の鉄槌、それからザグは槍、イザリルは手ぶら、エニスはなんか色々薬品類、タスさんは後ろに下がってる。
しばらくしてから、ザグが低い声を出した。
「来た!」
丘の近くが盛り上がってワームが飛び出してきた。
俺はまずみんなの前に立った。
「フォーム! シールド!」
盾に強力な手ごたえがあって、俺は少し押された。だが、そこまでで、ワームの勢いは止められた。
「それでいい!」
イザリルはそう叫ぶと、腕をクロスさせた。それと同時に地面が盛り上がり、ワームの首を挟みこむような形になった。
「ザグ君! 早く解析を!」
「わかってますよ!」
ザグが見ているうちに、盾にかかる力が増してきた。イザリルも地形を変えて援護してくれていたが、それでも長くは持ちそうにない。
「見えた!」
俺が弾かれるのとほとんど同時にザグが叫んだ。
「あいつの弱点は体の中心だよ! とにかく丘に引きずりだすんだ!」
そこで俺の前の地面をイザリルが盛り上げて壁になった。ワームはそれに激突してすこし動きが止められた。
「フォーム! ガントレット!」
俺は壁を突破してきたワームの頭をつかんだ。
「ヨーイチさん!」
そこでセローアがワームの顔に小瓶を投げつけた。瓶が割れ、中身が飛び散るとワームは頭を振って力が弱まった。俺は振り回されたが、なんとか踏みとどまった。
「そのままつかんでるんだ!」
イザリルはそれからワームの側面にまわって、手を振り上げた。すると、ワームの体の下の地面が勢いよく盛り上がった。
それに押し上げられワームの力がゆるんだ。俺はそいつを引きずり出そうとしたが、滑ってうまくつかめない。
そこに後ろから槍が飛んできてワームの体に突き刺さった。
「ヨウイチ君! それを使え!」
ザグの声に閃いた! 俺は槍をつかんでそれを強く押し込んだ。
「フォーム! チェーン! 連結バージョン!」
ガントレットが光ってチェーンに変わった。俺のイメージした通り、チェーンと槍はうまいこと融合した。
俺はそのワームから離れると、背中を向けてそのチェーンを背負うようにした。そこでタイミングよく、イザリルが連続でワームの下の地面を連続で盛り上げた。
「今だ!」
「よっしゃああああああああ!」
俺は思い切りチェーンを引っ張った。下からの突き上げと俺の引っ張る力でワームは一気に引きずり出された。
宙を舞ったワームの体の真下に1本の柱が盛り上がり、ワームの体の中心を突き上げる形になった。
「一気に叩くんだ!」
イザリルに言われるまでもない!
「フォーム! 次元の鉄槌!」
チェーンを鉄槌に戻して、それを振りかぶった俺は全力で跳びあがった。狙うのは突き上げられた中心部分。
「これで終わりだぜええええええ!」
鉄槌は柱ごとワームの体の中心を打ち砕いた。緑色の体液が飛び散って異臭が漂った。
まっぷたつになったワームはまだビチビチ動いていたが、さっきまでのような勢いはなかった。
俺はとりあえず鉄槌をかついで、異臭漂うところから距離をとった。ザグとイザリルは用心深くワームを見張っていた。
もうワームの動きはほとんどなくなっていたので、俺は鉄槌を消した。
「ヨーイチさん、ワームの体液は毒ですから早く拭かないといけませんよ」
セローアはカバンから布を取り出して、俺についた緑色の体液を拭ってから、さらに透明な液体が入っている瓶を取り出して、その拭ったあとを洗ってくれた。
「ここまで順調にできるとは思ってなかったよ」
そこに槍を持ったザグが近づいてきた。
「その通り。ヨウイチ君がいなかったら、ここまではできなかったね」
イザリルも来た。まあ、みんなの力を合わせた勝利ってやつか。
「しかし、君の実力は話に聞いていた以上だ。これほどの力なら他の魔獣との戦いも楽になるだろうね」
ひょっとして、この町の近くに出てきた魔獣ってこいつだけじゃないのかな。だが、ザグがイザリルを遮った。
「今日のところはその話はやめよう。詳細は明日僕が話すよ」
ザグは町のほうに歩き出した。
「このワームの残骸はどうするんだよ」
「商人達に知らせれば、欠片も残さず売り物にするよ。まあそれは僕が話を通しておくから」
ザグはそう言うと、さっさと行ってしまった。
「さて、私達も帰ろうか。しばらくのんびりできるだろうから、楽しみにしておくといい」
イザリルも俺の肩を叩いて町に向かった。
「やあ、すごかったね」
最後にタスさんが出てきた。
「まあ、疲れましたよ」
そこにエニスが心配そうな顔で割り込んできた。
「ヨーイチさん、怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫。エニスは?」
「私は大丈夫ですよ。さあ、町に戻りましょう」
俺達3人は町に向かって歩き出した。