新しい町です
出発から3日、俺達は何事もなく町に無事到着した。
「それじゃ、あたし達は宿をとってきますね」
エニスはタスさんと一緒に宿に向かっていった。それを見送ったザグは俺のほうに向き直った。
「さて、僕達はギルドに行こうか」
「ああ」
俺とザグは一緒に歩き出した。
「ここだよ」
おー、前の町のギルドよりもずいぶん立派な建物だ。ザグは扉を開けた。
「さあどうぞ」
俺はザグの開けた扉を通った。ここは食堂みたいじゃないな、どちらかというと高級なホテルのロビーって感じか?
「僕はちょっと行ってくるから、適当に待っててよ」
ザグは奥のほうに行った。俺は適当にソファーに座ってみた。
「いらっしゃいませ」
誰かな?
「初めまして、私はイザリル・ジャーラ。あなたが噂の人物だね」
顔を上げてみると、皮の鎧を身に着けて、黒い髪の毛をお団子状にしている、たぶん20歳くらいの女性が立っていた。
「ああ、俺は要一。よろしく」
「こちらこそよろしく。早く君の実力が見てみたいものだね」
イザリルはかすかに笑って俺の向かい側のソファーに座った。なんか期待されてるらしい。
それからイザリルが手を上げると、なんか従業員風の人が湯気のたっているカップを二つ運んできて、俺たちの前に置いた。
「さあ、冷める前にどうぞ」
イザリルはそう言ってカップを手にとって一口飲んだ。俺もカップを持ってみた。これは紅茶みたいだな。
「じゃ、いただきます」
うん、これはなかなかうまい。
「どうかな?」
「ああ、おいしいよ」
「それはよかった」
俺達はそのまま黙って紅茶みたいなのを飲んだ。そうしているうちにザグが戻ってきた。
「くつろいでるみたいだね」
手に何か紙の束を持ってるけど、なんだろう。と思ってたら、ザグはそれを持ったままソファーに座った。
「早速君に相手をしてもらう魔獣のことを説明しよう」
ザグは持ってきた紙を見ながら説明を始めた。
「まずは最初は10日ほど前。町から1日ほどある沼地に魔獣が現われたんだ。全長15メートルと推測されるワームタイプの魔獣で、動きは素早く地中に潜るので捉えるのも難しい」
それは厄介な感じだ。
「神出鬼没なうえに、いざ現われるとあれの力はかなりのもので、僕達だけでは、防ぐことはできても止めをさすのは難しいのが現状だ」
それで俺が助っ人に呼ばれたのね。
「巨大なオーガベアーを一撃で倒し、ドラゴンも引きずり降ろすことができる君なら、なんとかできるだろうね。期待してるよ」
仕方がない、任されますか。
「わかった。それで、その魔獣は今どこに現われるんだ?」
「今はこの町の近くにまで現われるようになった。今日はゆっくり休んで、明日からとりかかろうか」
「で、俺はどこに泊まればいいのかな」
「上に部屋を用意してある。ここは一日中開いてるから、夜まで自由にしているといいよ」
そういうことなら、町の見物にでも行こうかな。と思ったら、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「ヨーイチさん! 買物に付き合ってください」
エニスが来た。
「ザグさん、ヨーイチさんを借りていきますね」
「もちろんいいですよ」
「じゃ、行きましょ」
エニスは俺の腕をつかんで引っ張った。俺はされるがまま立ち上がった。
「楽しんでくるといい」
イザリルは微笑を浮かべながら俺に向かって手を振った。
そういうわけで、俺とエニスはこの町の市場に来た。確かに、この町は大きくて活気があるな。
エニスはなんだかよくわからないものとか、とても食べたくならないようなものとか、得体の知れないものを色々買っていた。
「さあ、ヨーイチさん、これを持っていてください」
エニスはかごに入ったそれを俺に押し付けてきた。俺がそれを受け取ると、エニスはまた違う店に行った。
「驚きました。こんな珍しい物が入荷してるんですね」
エニスはなんかよくわからない青い液体が入った小さな瓶を手にとって驚いていた。
「ほう、お嬢ちゃん。それを知ってるのかい?」
「ええ、これは南の島に住んでるっていう青大トカゲの血液ですよね」
「そう、正真正銘の本物だよ」
「じゃあ値段の相談なんですけど」
エニスと店のおっさんは値段の交渉に入った。聞いててもよくわからないので、俺は少し離れた場所であたりを見回していた。
「うお!」
いきなりすごい音がして思わず声が出た。音のしたほうを見ると、たぶん町のはずれのほうですごい土煙が起こっていた。
なんかすごい嫌な予感。と思っていたら、その土煙はどんどんこっちのほうに近づいてきて。
「ワームが出たぞ!」
誰かが叫んで、市場は大混乱になった。で、例のワームタイプの魔獣っていうのが出てきた。
なんというか、でかいミミズにすごい鋭い牙が並んだでかい口がついてるぞ。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
鉄槌は出したけど、こんなに人が多いんじゃここでは振り回せない。でかいものも無理だ。それなら!
「フォーム! ガントレット!」
俺は鉄槌をごついガントレットにして、ワームの正面にまわった。