出張になるかも
結局、セローアはジローに振り回されていたけど、あとの二人は問題なくジローを乗りこなせた。
「これは大いに戦力になりますね」
オーラさんはそう言いながらジローから降りた。
「陸はオーガベアー、空はドラゴン。完璧ってやつじゃないの?」
セローアはずいぶんと満足そうだった。オーラさんはそんなセローアと俺を見た。
「ヨウイチさんとセローアはギルドに戻ってもらいましょう」
俺はなんとなく休みたい気分だったし、それには大賛成だった。セローアを抱え上げてギルドに向かった。
「ちょっと、放しなさいってば!」
文句は無視。
で、ギルドに到着してみると、なんかいつもと雰囲気が違った。それもそのはず、なんか見たことない人がいた。
「あんたは!」
セローアがそう言うと、背中を見せていたその男は振り返った。
「やあ、久しぶりだね小さいセローア」
坊主頭にチェインメイルを着込んで男、精悍な感じだな。背はそんなに高くない。そいつは俺のほうを見た。
「君がヨウイチ君か、噂は聞いてるよ。僕はザグ・グシャーノ、ここよりも大きな町のギルドに所属しているんだ」
「大きいけど暇で実力もないのよね」
少し離れた場所に座ったセローアはなぜかふくれっ面をしていた。仲が悪いのか、セローアが一方的に嫌ってるだけなのか、どっちかな? ザグはそれをスルーした。
とりあえず俺とザグは手近な場所に向かい合って座った。
「さて、僕がここに来たのは君に会うためなんだ」
「俺に?」
「そう、ここのギルドに不思議な人物が入ったって聞いたんでね。その確認だよ」
噂が伝わるのは早いもんだな。まあそれほど遠くの町じゃないんだろうけど。
「確認っていうと?」
「その人物が不審でないかどうか。ギルドには敵もいるからね」
なんとなく俺のことを見る目が冷たいような気がする。顔は笑顔なんだけどな。
「まあでも、大丈夫だっていうのはわかったよ。オーラさんにも話を聞いたし、こうして君とも直接会えたからね」
会っただけでわかるもんなのか?
「そいつは見ただけでけっこう色んなことがわかんのよ。嫌なのぞき屋でしょ」
セローアはなにか知られたくないことでも知られたのか?
「僕は人間に関してはそんなに大したことはわからないよ。魔獣なら別だけどね」
でも俺が怪しい人間じゃないってことくらいはわかるわけか。でも用ってそれだけじゃない予感。
「それじゃもう一つの用事なんだけど」
ほらきた。
「僕のいる町の近くにちょっとやっかいな魔獣が出てきたんだ。あいにく、あっちのギルドはあんまり人がいなくてね、オーラさんか、それとも噂のすごい人物っていうのに力を借りようと思ってきたんだよ」
俺が出張するってことか。
「実はオーラさんにはもう話はして、了解もとってあるんだ。あとは君がうなずいてくれればいいだけだよ」
まあ、色んな場所に行くのは必要かな。
「わかった、いつ出発するんだ?」
「早めに、明日にでも出発しよう」
「ちょっと、本気?」
セローアは意外そうな顔をしたけど、特に問題があるとも思えない。
「ああ、セローアも一緒に行くか?」
「私はいいわよ」
「それじゃ、明日の朝、ここで会いましょう」
ザグはギルドから出て行った。セローアも舌打ちをしてからどこかに行ってしまった。残された俺は小声で参考書を呼び出して勉強を始めた。
でその日の夕食の時、俺はエニスの一家にそのことを話した。
「ザグさんってことは隣の町ですね」
エニスはそう言って腕を組んで何かを考え込んだ。それからエリンさんに顔を向けた。
「お母さん、あたしもヨーイチさんについていっていいかな?」
え?
「そうだねえ、ちょうど仕入れもしたいと思ってたし、ヨウイチさんと一緒なら安全だろうし」
エリンさんは乗り気みたいだ。で、タスさんのほうをみた。
「あなたもついていったらどう?」
「そうだな、最近あっちのほうには行ってなかったし、ちょうどいい」
どんどん話がまとまっていくぞ。
「そういうわけだから、二人をよろしくね、ヨウイチさん」
こうなったら、俺が言うことは一つしかなさそうだ。
「はい、任せてください」
その後は、俺は自分の部屋にこもって勉強をした。今日はじいさんからの横槍は入らなかったので、けっこうはかどった。
翌朝、早めに目を覚まして朝食を済ませた俺は、タスさん、エニスと一緒にギルドに向かった。
ギルドの前には槍を持ったザグとオーラさんが立っていた。
「おや、おもったより人数が多いみたいだね」
そう言ったザグに、エニスは笑顔で軽く頭を下げた。
「私とお父さんも同行することになったので、よろしくお願いします」
「そういうことなら、こちらこそよろしく」
そういうわけで、いよいよ出発。ロバみたいだけど微妙に違う生き物に荷物を乗せて、俺達は町の外れに来た。
「では道中気をつけて」
オーラさんに見送られて、俺達は町を出た。