目指せドラゴンナイト!
その日の夜。夕食を食べてから部屋に戻って勉強をしていると、例によってじいさんから呼びかけがあった。
「順調にやっているらしいな」
「あー、まあ順調と言えばそうかも」
「けっこうけっこう」
「それで、今日は何の用なんだよ?」
「最近どうも次元の境界が不安定なんだが」
「次元の境界?」
「細かいことはともかく、まあ、何が起こっても不思議ではないということだ」
「まさか、これからずっとそうとか?」
「いや、せいぜい一ヶ月もあれば修復できるから安心しろ」
管理人ならもう少し早い対応をお願いしたい。
「そういうわけだから、頼んだぞ」
じいさんからの通話は終わった。何が起きるのかは知らないけど、今は勉強だ。
翌日、朝食を済ませてから、薬をとりに来たケイン、それからエニスと一緒にジローのところに向かった。
「これがドラゴンなんですね。初めてこんなに近くで見ました」
エニスは少し距離をとってドラゴンのことを観察していた。
「ヨーイチさん、この子の鱗をもらってもいいんですかね」
錬金術の材料かな?
「確かに、ドラゴンの鱗は貴重な材料ですからね」
ケインもそっちのほうにけっこう詳しいのか。まあ鱗の一枚くらいオーラさんに相談しなくてもいいよな。
「鱗の一枚くらいなら、いいんじゃないの?」
「ありがとうございます」
エニスはそう言って小物入れみたいなのを取り出した。
「まずは痛くないようにしましょうね」
エニスは小物入れから瓶と布を取り出して、瓶の中身を布に染み込ませた。それからその布で念入りに瓶の中身をジローの鱗のまわりにすりこんだ。
「それじゃあ、いきますよ」
今度は小物入れからやっとこみたいなものを取り出して、うろこをつかんだ。
「おりゃああああああ!」
エニスは気合と共に鱗を引っ張った。鱗はべりっという感じの音がして剥がれた。
さっきすりこんだ薬のおかげか、ドラゴンは何の反応もしなかった。
「やった。乾物じゃないドラゴンの鱗なんて初めてです! あたしは先に戻ってますね」
エニスは嬉しそうに鱗を抱きしめて走り出した。俺とケインはその後姿を見送った。
「うれしそうだな」
「それはそうです。ドラゴンの鱗は買ったら高価なものですから」
「賑やかなことですね」
そこにオーラさんとセローアがやってきた。
「まったく、エニスはしょうがないわね」
セローアは相変わらずない胸を突き出してる。
「さて、今日はこのジローに乗る訓練をしましょう」
オーラさんはセローアの言ったことを適当に流した。その手には馬に乗るためのような道具の大きいやつ一式があった。
オーラさんはそれを手早くジローに装着していった。
「ヨウイチさん、どうぞ」
俺が乗るの? ケインとセローアからも無言の圧力を感じる。乗らないと駄目な雰囲気だよ、これ。
俺は仕方なくジローにまたがって手綱を握った。
「さあ、飛びなさい」
オーラさんがジローの体を叩くと同時に、俺は空に飛び上がっていた。
「ちょっと待てえええええええええええ!」
俺はジローの体を必死で足で挟み、腕を振り回してバランスをとった。
「ヨウイチ! 例のアレを呼び出してよ!」
下からはセローアの怒鳴り声が聞こえた。こうなったらもうどうにでもなれだ。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
俺が鉄槌を手にすると、その重みでジローの速度がぐっと落ちた。
「おいジロー! 気合入れろよ!」
俺はジローの背中を軽く叩いた。俺の言葉を理解したのか、ジローはよりいっそう力強くはばたいた。
スピードと高度が上がって、俺にも余裕が出てきた。手綱をしっかり握ってなんとなく引いたりしてみた。
しばらくそうしていると、大体どうすればどうジローが反応するのかわかってきた。空を飛ぶのは気持ちいいなあ。
「ヨウイチー! そろそろ降りてきなさいよ!」
セローアが下から大声で怒鳴っていた。俺は仕方なく鉄槌を消してからジローに声をかけてみた。
「着陸してくれ」
ジローは俺の言ったことを理解したようで、ゆっくりと降下していった。地面に降りるとセローアが駆け寄ってきた。
俺はジローの背中から飛び降りた。
「今度は私が乗るわよ」
セローアはそう言ってジローに乗ろうとしたが、低身長の悲しさでジタバタしているだけで、またがることができなかった。
俺は後ろからセローアの脇に手を入れて持ち上げた。
「なによ! 放しなさいって!」
セローアの文句は無視して鞍の上に乗っけた。セローアは頬をふくらませていたが、ジローに乗れて満足らしかった。
「さあ飛べ! ジロー!」
ジローは勢いよく飛び立った。これはちょっと勢いよすぎなんじゃないか?
「止まれ! 止まってー!」
セローアはスリルを楽しんでるみたい、なわけはないな。