ペット二匹目、か?
しばらくして、セローアがオーラさんを連れてきた。
「なるほど、これは大物だこと」
オーラさんはつぶやきながらドラゴンをじろじろと眺めまわした。
「確かに、これを飼い慣らせればかなり大きな戦力になりそうですね」
それからオーラさんは背負っていたでかい剣を抜いた。そして、それを引きずりながらドラゴンの正面に立った。
「ケイン、あなたの術を解いてください」
「はい」
ケインが手を上げるとドラゴンの口に施されていた封印が消えた。大丈夫なの?
「さて、私の言葉がわからないとは言わせませんよ。もちろん、わらないならわからないなりに、わからせる方法もありますけど」
穏やかな顔してるけど、でかい剣を突きつけてるし怖い。ドラゴンは低いうなり声を出したけど、オーラさんを攻撃しようとはしなかった。
「そう、いい子です」
オーラさんは剣を引いて、ドラゴンの頭に手を置いた。それから目を閉じた。ひょっとして今度こそ心を通わせるとかそういうやつ?
「グギャアアアアアアアアアアア!」
あ、ドラゴンの悲鳴だ。オーラさんの指がドラゴンの頭に食い込んでる。俺が言うのもあれだけど、すごい馬鹿力じゃないのかあの人。
「痛いでしょう。しかし、この痛みは優しさですよ。生きていることが実感できるしょうう? さて、このまま脳をえぐりだされるのがいいか、それともおとなしく従うか、わかりますね?」
怖いよこの人。ドラゴンもそれはわかったらしくて、首を縦に振った。まあ、あの剣なら首くらい切り落とせそうだし。
「わかったのなら、契約の証をもらいましょう」
オーラさんは剣を振りかぶると、それを鋭く振り下ろした。剣はドラゴンの顔をかすめ、その皮膚を切り裂いて、竜の赤い血が流れ出した。
オーラさんは一枚の布を取り出して、その血をそれに染み込ませた。そしてそれを上に向かって放り投げると、下から剣で突き刺した。
布はまるで剣に吸い込まれるようにして消えた。なにこれ?
「これで契約は完了しました。これであなたが私に逆らうようなまねはできませんよ」
ドラゴンはよくわからないといった顔をした。俺もよくわからない。
「あれは一種の呪術です」
ケインが俺に声をかけてきた。
「呪術?」
「ええ、オーラさんの意思に逆らうことができなくなるんです」
怖いな。俺もその呪いをかけられたらどうしよう。
「大丈夫よ。この呪いは人間には使えないから」
セローアは俺の表情を読んだらしかった。それなら安心か。
「さあ、何か私に逆らうことでもしてみなさい」
オーラさんはそう言ったけど、ドラゴンにその気はないらしかった。
「何もしませんか、賢い選択です。これからは我々のために働いてもらいますよ」
なんかドラゴンに同情する。
「ヨウイチさん、鎖を解いてやってもらえますか」
「ああ、はい」
俺はチェーンを鉄槌に戻した。
開放されたドラゴンは体勢を立て直して、俺達に向かい合った。こうして見るとでかいな、こいつ。全長で言うと十メートルはありそうだ。
「さて」
オーラさんは俺のほうを見た。
「なにかいい名前でもありませんか」
名前か、まああれでいいや。
「じゃあジローで」
「安易な感じのする名前ねー」
セローアの言うことは無視。
「よろしくな、ジロー」
俺が手を出して声をかけると、ドラゴンのジローは顔を俺に近づけてきた。なんとなく俺はその頭をなでてみた。
「ねえオーラさん。このジローはどこにおいておくの?」
セローアは俺とドラゴンを見ながらオーラさんに聞いた。
「タローのようにギルドの裏においておくわけにはいきませんからね、町の入口に小屋でも建てるといいでしょう」
ドラゴンが入口にいる町って、変わってるよな。
「もしこのジローに騎乗できるようになると、かなりの戦力になるでしょうね」
ケインの意見はもっともだけど、まさかその騎乗するのって?
「そうですね。ヨウイチさん、あなたにも練習してもらいますよ」
やっぱりきた。なんかどんどんやることが増えていくなあ。
「楽しそうね! 私も練習するわよ!」
セローアは張り切っていた。俺がふとケインを見ると、なぜかずいぶん白い顔をしていた。
「ケイン、顔色が悪いみたいだけど」
「ええ、これは私の魔法の副作用です」
ケインはそう言うと、ベルトにつけている小瓶をとって、それを一気に飲み干した。
「それは?」
「これはエニスさんの店の薬です。私の魔法は血を使いますからね、手放せないんです」
つまり、滋養強壮の薬?
「無駄話はそれくらいにして、そろそろ戻りましょう」
オーラさんの言葉を合図に、俺達は町に向かって歩き始めた。