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カメの新次郎

作者: 近藤良英
掲載日:2025/12/20

このお話は、ゆっくりと歩く一匹のカメが、ただ荷物を届けるために出かける一日を描いた童話です。まわりを見渡せば、犬や自転車や子どもたちが、あっという間に追いぬいていきます。それでも新次郎は、あせらず、自分の速さで「のっしのっし」と前へ進みます。遠回りに見える道のりの中にこそ、大切な時間や出会いがあるのかもしれません。速さではなく、確かさを大切にする新次郎の姿を、どうぞあたたかい気持ちで見守ってください

 カメの新次郎は、あさからいそがしい。

 きょうは、おとなりの町まで 荷物をとどけなければなりません。

 おかあさんが、笹につつんだ「おにぎり」を持たせてくれました。

 せなかの甲羅に、ちょこんと背負っています。

 おとなりの町には、おかあさんの妹――おばさんがひとりですんでいます。

 新次郎は、まだくらいうちに家を出発しました。

 なぜって?

 それは、とてもとても遠い道のりだからです。

 行って帰ってくると、もう夜になってしまうのです。

 田んぼのあぜ道を、のっしのっし。

 さんぽ中のしば犬のけん太に追いぬかれました。

「上から見下ろされると、なんだかいばってるみたいだな」

 新次郎はちょっぴりむっとします。

 やがて夜が明けて、新聞配達の自転車がさっと追いぬいていきました。

 つぎに、小学生の集団もかけ足で追いぬきます。

「新次郎はあいかわらず慎重だね」

 そう声をかけてきたのは、正雄くん。

 実は「新次郎」という名前は、正雄くんがつけてくれたのです。

「新ちゃん、気をつけてね」

 めぐちゃんも笑顔で声をかけてくれました。

 おひるちかくになると、じりじり太陽のひざしが甲羅にしみこんで、

 息がくるしくなってきます。

 新次郎は、あぜ道のかたすみに身をよせてひとやすみ。

 おかあさんが持たせてくれた、笹の茎の水筒に口をつけます。

 家のうらの清水が、ひんやりとおいしい。

「さて、もうひといきだ」

 そのとき、遠くからサイレンの音。

 うーうーうー。

 おひるの12時をつげています。

 お百姓さんたちはあぜ道でお弁当をひろげ、

 工場の人たちは定食屋にむかいます。

 あぜ道は、人でいっぱい。

 でも新次郎は、のっしのっし。

 みんな器用によけて歩いてくれます。

 やがて、お昼やすみが終わるころ。

 ようやく、おばさんの家にとうちゃくしました。

「今日は暑いのに、よく来たね」

 おばさんが笑顔で出むかえてくれました。

 新次郎は、せなかの荷物をおろします。

 笹の包みをひらくと――中から、おにぎりが出てきました。

「あら? たくあんが入ってないわね」

 新次郎が困った顔をしていると、

 あぜ道のむこうから声がしました。

「新次郎~、たくあんを忘れたね。戻ってきて!」

 それは、おかあさんの声でした。

 目をこらすと、家の前で手をふっているおかあさんのすがたが見えます。

 そう、新次郎の家は――

 さっきのあぜ道の、もうひとつのはしっこにあったのです。

 人間なら、たった1分で歩ける道。

 でも、カメの新次郎にとっては……半日がかりの大ぼうけんなのでした。

 おしまい


カメの新次郎の旅は、決して特別な冒険ではありません。けれど、その半日がかりの道のりには、家族の思いやりや、町の人たちのやさしさ、そして自分の歩幅を信じる強さがつまっています。人間なら一分で終わる道も、見方を変えれば大きな冒険になります。ゆっくりでも、立ち止まっても、前へ進んでいればちゃんと目的地にたどり着ける――この物語が、読んだ人それぞれの「自分の速さ」を大切にするきっかけになれば幸いです。

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