第一環「パパの一声」
始まりは唐突だった。もはや看過出来ない領分まで雷鳴の頻度が上がったのを受け、私はもはやこれがデスゲーム開始の狼煙として機能する事になるのは予期していたのだが、しかし焦らされると言うかそれが確定的に何時なのかは全く以って断定は不可能だった。そんな時だった。
<パパの声だ…>
パパ? 今までのサンディの取り澄ました感じの人格からは発せられると予期出来なかった幼い響きを追求する間もなく、雷は我々の施設を襲った。その後私達は施設の様子がどうなったのかを知る事は無く、全く別次元の平原に緊急移動させられていた。雷がここへ誘導したのか、人間で言う夢を見ている状態か。そして夢らしく私は人の姿を取り戻していた。人編に夢と書き、儚いと読む。鉄の身体で見ている夢と言う幻での人の身に宿る私が背負う数多の無念。人の在り様とは、なんと儚い事になってしまったのだろうか。
「おいすーニノ。人の姿もいいね、なかなかイケてる。思い描いてた通りの凡庸さだよ」
人類の黄昏に浸っていたら唐突に女性に罵声を浴びせ掛けられた。まず間違いなくこれはサンディの正体からの声なのだろうが、嫌な予感ほど的中するのだなと私は溜息を付いた。奴は、詰まる所女性だったのだ…。
「悪かったな凡人で。そう言うのが選ばれるんだからあんま悪く言わないでくれよ。しかしサンディお前本当に女の子だったんだな…はぁ」
「はっきりは言われなかったけど、ニノずっとそうであって欲しいって感じでフランクに接して来てたから今日この日まで口調もクールな男の人を演じていたんだよね結構。容赦はするな、侵入者は全員駆逐ッてなもんで。だってサンディだよサンディ? どっからどう聞いたって逃げ場無しで女の子じゃん、しかも美少女。あー可笑しい。ん? 共存する脳内微生物だって表現が合ってる気がするから微少女? それともニノの中傷を不敵に口角を上げて躱していたクール系微笑女?」
「言うほどクールだったか? 悪戯はするし映画だって無駄にノリノリだったじゃないか。加えてそれを言うなら奇異少女だな、なんか黄色いしな…」
「あははバレてた? それにしてもいいキーワード出すじゃない。はいはーい、本来ニノみたいなノーマルの極みの人じゃ逆立ちしても接する事の出来ない、黄金の衣に身を包んだパツキィン美少女でーす。そこ、もっと喜ぶ! ほらほら」
「…両親が死んじまったのがなあ」
と悔し紛れで抑えていた言葉が飛び出てしまう。
「あっ…」
一瞬身じろぎするサンディ。