第六環「雨が降る」
「スゥ悪い。今まではリードして貰っていたが今後は俺がどっちに水たまりを跨いだ移動をするか指し示すからそのルートを予め潰しておいてくれないか」
「ほいほいオーケー。で、どっちに進む? 大分入り組んでるね、水たまりを踏む訳にはいかないニノの視点だと」
「そうだな。左はかなり回り込む事になりそうだから、ちょっとジャンプ幅が必要になりそうだが右かな」
「りょーかい。尻もちでも付いたら両手から草が生えちゃって相当のタイムロスだろうから慎重にね。そうなったら草刈り専念で実質もう負けみたいなもんだ」
「こ、怖い事言わないでくれよ…と言っても緊張感を保つ為には聞いておくべき事か」
「そういう事、では参ろうか」
念入りに水たまりの上を舞う様にスゥは進む。水たまりの何処を跳んでも私が鉄の雨を被らない様にとの配慮だろう。それが功を奏してボトボトとナイフや針が複数水たまりに沈んで行く。その飛沫を浴びぬ様一歩下がっていた私は、また前に出て屈むと一思いに、跳ぶ。水たまりの向こう側に着地出来たまでは良かったが、尻もちを是が非でもつくまいとした勢いで頭が若干前に出てしまったその一瞬の隙を見逃さず、鼻先をハンマーが掠めた。その反動で正に尻もちをつく自分が頭の片隅に浮かんだが実際はそうはならなかった、あと一歩の所で踏み留まる事が出来た。光の球までの距離と言うか、ステップしなくてはならない予測数はまだまだ有る。こんな所で足踏みしては居られない、また跳ぶにしてももう少しは自分なりでいいからスマートさが必要だ。
「ヒュー危ない所だったね。頭をしこたま叩かれた挙句お手付きエンドのニノが垣間見えた気ィがしたわ」
「スゥの茶化しを聞ける位には合格点だった、って事だな。それはそうと、次も頼む」
「アイアイサー。私の読みの甘さがさっきの状況を生んだ面もあるからもっと念入りにしなきゃね」
スゥは空中で敬礼をした後、次はこっち次はあっちと指示を飛ばす私に的確に応じてくれる。阿吽の呼吸とまでは行かないが二人に慣れが出て来た所で、不意に右腕に痛みが走った。正確には水気を一瞬感じた後に痛みが襲った。見ると、見覚えのある草が生えている。水たまりと比べれば極々微量の水だったので草もそれ相応の物でしか無かったが、だからと言って無視できる程の感覚でも無い。私は右腕を押さえようとしたが、今度は左耳に似た様な痛みが走った、これはつまり、レース終盤の究極の障害物として雨が降り始めたのだ。
「これが緑化の雨か…。あと5m位なのに、いやそれだからか」
「これを遮る手段は流石に私も持たないね…後はニノの根性頼みだ」
勿論降って来る鉄方面の雨は逃すまいと私の進路の先で念入りな事前チェックをしてくれながら、スゥは祈る様な口調でそう告げた。後は、私がどれだけ痛みを我慢して光の球にいち早く接触出来るか、そこに全てが懸かって居る。




