7th:怠惰の章
「彼女」が目を覚ますと、そこには一人の痩せた男性がいた。
「あ、やっと起きた。」
「…私を誘拐しても、身代金とか出ないよ?」
「いや、そういうのじゃなくて…」
「じゃあ拷問でもする?」
「まずは僕が犯人ってのから離れてくれないっすかねぇ…⁉︎」
頭を抱えつつ、絞り出すような声で「彼」は呟く。そんな「彼」を見た「彼女」は何かを思い出し考えこむ。
「…弁明、聞いてあげる。」
「…え?」
「頑なに信じずに後悔したことあるから。話だけでも聞こうかなって。」
どこか遠いところを見ているような視線を向ける。
「まずはお互い自己紹介から、かな。僕は土屋千春。君は?」
「私はグレイル。それで?あなたが犯人じゃないって証拠はある?」
「証拠は無いけど、情報を共有することは出来るよ。まずは、これとか。」
千春はグレイルにメモを手渡す。それを読んだ彼女は溜息をつきながら、机に置かれた本に目を向ける。
「自作自演って可能性もあるし、そうじゃないとしてもこれが私達二人を狙った罠じゃないって証拠は無いよね?」
「…まぁ、そうっすね。」
「だから、手分けしよう私は出口を探す。あなたは本を読んで待ってて。」
「…それで、良いんっすね?」
「うん。一旦は信じるてみるよ。見渡す限り壁が無いし、何故か魔法が使えない。こんな凄い芸当、あなたに出来るとは思わないから。」
「随分酷い信じ方っすね⁉︎」
そんな千春のツッコミが聞こえなかったかのように、グレイルは歩き出す。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
本を読み終えたグレイルは、本を机に置くと伸びをする。そんな彼女に、千春はからかうような視線を向ける。
「結局、最初から本を読んでた方が手っ取り早かったっすね。」
「もしメモが罠だったら、あなたが毒見役になるわけだからね。無意味じゃないよ。」
「随分な扱いっすね…」
「本を読んで分かったけど…あなた、このメモの主を分かってながら隠してたでしょう?お互い様ってやつだよ。」
「それを言ったら、きっと信用してくれなかったっすよね。」
「まぁ、それもそっか。なら、しょうがないね。」
そうは言いつつも、どこか不満気な様子を見せる。切り替えるようにため息をつく。
「じゃあ、話をしようか。似ているところと似ていないところ、だね。」
「本のタイトルは、怠惰の章でしたね。それが共通点なんすかね?」
「怠惰…という割には、そっちはしょうがない事情があるけどね。」
「だとしても、出来ることはあった。家族から目を逸らして、動かなかった。これが僕達の怠惰ってやつっすかね。」
「…耳が痛いなぁ。じゃあ、逆に違う点を考えよっか。環境的な話だと、上の子か下の子かって違いはあるよね。寄りかかれる相手がいるかって意味では、結構な違いだと思うけど。」
「あー、確かにそれはありそうっすね。あとは、疑り深さとかも違いっすかね?」
「…私が信じなかったこと、根に持ってる?」
「別に、根に持ってるわけじゃ無いっすよ?…あ、後ろ。」
千春が指差した先には、二つの扉。
「じゃ、お疲れ。」
「え⁉︎それだけ⁉︎」
他は何も言い残さず、グレイルは扉の向こうへと消えていった。
「まぁ、何でこんなことをしたのかはあっちに戻ってから聞けば良いっすかね。日向さん。」
千春はゆっくりと歩き、扉の向こうへと向かう。




