3rd:強欲の章
パンッと、手を鳴らす音が響いた。その甲高く響く音で、「彼女」は目覚める。
「久々の目覚めだよ…それで、君は?」
「私は谷川美波。」
「谷川美波…もしかして君、日本人?」
「ってことは、あなたは日本人じゃないの?」
「まぁ、ね。」
そう言いながら、彼女は机の上を見る。二冊の本と、「本を読んで。二人の共通点と違う点を言い合って。」と書かれたメモ用紙。
「これは美波が書いたの?」
「いーや?私じゃないよ?多分うちの眠れる女神様がやったことだろうねぇ…」
それを聞いた彼女は、考え込むようにメモ帳を見る。そして、メモ帳を置くと次は本を手に取る。
「…ってか、分厚さ違いすぎない?こっちの辞書みたいな分厚さなんだけど…」
「当然だよ。こう見えて長生きしてるからね。多少飛ばし飛ばしで読んでも良いんじゃないかな。」
「出来るだけしっかり読みたいけど…」
そう言いながら、二人は1ページ目を開いた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「あぁ…疲れた…」
「お疲れ様。大変だったね。」
目頭を軽く押さえながら上を見る美波。そんな美波を見ながら、彼女は楽しげに微笑む。
「あなたが動けなかった2000年ぐらいの話はだいぶ端折ってくれてたから良かったものの…長過ぎるよ…‼︎」
「見た目と年齢が離れていることについては言及しないんだね?」
「あー、それはさっきあなたが言ってたから覚悟してたよ。あと、もう可愛い可愛い銀髪美少女でもう慣れっこだから。」
「言われてみれば、そっか。」
手に持った本を弄りながら、どこかからかうような視線を向ける。
「じゃあ、本題に移ろうか。僕らの共通点と、違う点。違う点の方が思いつくよね。君は大切なものを永遠にしようとしたりはしない。ミハクと永遠を過ごそうとした僕とは大違いだ。」
「永遠で苦しんでる相手と戦ってきたからね。自然とそーいうのが怖くなって…」
「それも当然と言えば当然か。」
「で、次は似てるところかぁ…ある?」
「タイトルが強欲の章ってなってるし、他人への執着が似てるって話じゃないかな?」
「むぅ…認めるけど…シスコンは認めるけど…そんなに私強欲かなぁ⁉︎」
天井を見上げ、この空間を作ったであろう誰かに向けて抗議する。そんな美波の姿を見て呆れたのか、彼女はいつの間にか現れていた緑の扉へと向かう。
「って‼︎ジェルゴさん⁉︎いつの間に‼︎」
「僕はここいらで失礼するよ。」
「ちょっと‼︎」
美波の抗議の声を無視して、彼女は…ジェルゴは扉の先に消えていった。
「みのり〜ん‼︎あとでじっくり聞くからね〜‼︎」
美波は、大きな足音を立てながら赤い扉へと向かった。