2nd:傲慢の章
少年は目の前の情報を整理する。椅子に座って眠る20代の女性。二冊の本。1枚のメモ用紙。メモ用紙には、「本を読んで。二人の共通点と違う点を言い合って。」というメッセージ。どうしたものかと考えていると、目の前の女性が起きる。
「これは…誘拐…?」
その反応を見て、少年は頭の片隅にあった目の前の女性が誘拐犯であるという可能性を完全に捨てる。
「そうじゃねぇ…って言っても信用出来ねぇか。とりあえずその紙見ろ。」
少年はメモ用紙を指差す。その用紙を読んで、女性はため息をつく。
「俺には身に覚えがねぇ。そっちは?」
「…きっと、こちらの眠り姫の仕業でしょうね。」
そう言いながら、彼女は本を手に取る。そして、片方を少年に差し出す。
「メモの指示に従うわよ。」
「理由も分かんねぇのにか?」
「えぇ。メモを書いた人物に心当たりがあるのだけど、何の意味も無く動く人物じゃない。あなたのことも巻き込んだだけかもしれないけれど、今は協力してちょうだい。」
「へいへい。指示される側ってのも久しぶりだな。」
少年は差し出された本を受け取る。そして、二人はそれぞれページをめくる。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
少年が本を閉じると、一足先に読み終えていた女性と目が合う。
「悪い。待たせたな。」
「それほど待っていないわ。」
「で?共通点と違う点、だったか?」
「共通点に関しては…傲慢、でしょうね。」
「章のタイトルにもなってたな。」
本の表紙を開き、傲慢の章と書かれたページを見る。
「私も、あなたも。人の上に立つという一種の傲慢さがあるのでしょうね。」
「こっちは早くやめたいんだけどな…」
苦笑いしつつ、少年は言葉を続ける。
「それと、最初はちゃんとした自分の素性を知らなかったってのも共通点かもな。」
「私は知らなかったというよりかは間違った情報を与えられていたと言った方が正しいかもしれないけれど…そうね。そこも似ているかもしれないわね。違う点は…大事なものを離さない為に生きる私と、失った大事なものに恥ない為に生きる。そこが違う点かしら?」
「別に、大事ってほどじゃ…けど、そうだな。俺はアイツに託された。その分だけはやることをやるさ。」
二つの扉が現れる。女性は白い扉へ向かい、ドアノブを握る。
「それじゃあ…また会いましょう。ナナシ。」
「…ハッ。懐かしい呼び方だな。ありがとよ。ツキミ。」