第二話 もし人形にAクラスの称号が与えられたのなら
あれから二週間ほどが経った。戦闘未経験者かつ能力に関する知識が皆無の僕ではそんな学園に通えないと思っていた。しかし、戦闘はとにかく、知識は着々と見についてきた。それはきっと、昔能力にあこがれたから。なのかもしれない。
そして迎えた試験日。能力育成学園に来た僕はその設備の規格外さに驚いた。
僕の知っている高校。悪くいってしまうと、遠目で見れば豆腐のような形をしているわけだが、この学園は違った。豆腐じゃなくて、大きな城に見えた。それほどに、インパクトが強かった。
あたりを見渡し、試験者の大まかな人数を図る。ざっと、五千人ほどだろうか。それに対して、募集定員が150人ということは、この学園に合格しただけでもエリートといえる。
そんな奴らを、僕は殺せるだろうか。少し不安になってきた。
一抹の不安を抱いていると、前方のほうでもめ事が起き始めた。あたりは騒然とし、もめ事の原因と、からまれている被害者から距離をとる。
「どれどれ」
まわりの受験者が怖がるということは、なかなかの実力者ということである。
全体のおおよその実力を知るためにも、見ておく必要があるのだ。僕は、そこそこ近くで見物をすることにした。
見ると、屈強な男が一人の男子に対して胸倉をつかんでいた。
「てめぇ、もう一度行ってみろや!!あぁんっ!?」
気迫ある大声で男子は、一瞬だが顔に恐怖の文字を浮かばせた。
しかし、彼もまた言い返した。
「実力だけ足りてても、性格が赤子以下みたいなやつがいると、この学園の質が下がるんだよ!」
「んだとゴラァ!!」
彼の正論に言い返すことができなかった男は、もう一方の腕で彼を殴ろうとした。そんな時だった。
一人の女子が、男の左腕を握った。その女子の金髪で青色の、優しそうな容姿とはかけ離れた握力だったらしく、次第に彼女は握る力を強くしていき、男は苦しみの声を上げた。それによって男子をつかんでいた手の力は弱まり、男子はしりもちをついた。
男は女子のほうを振り返り、にらみつけた。
「てめぇ何他人とのけんかにちょっかいかけてんのじゃ!?」
怒りに満ちた男の発言とは裏腹に、彼女は冷静に答えた。
「これ以上迷惑かけちゃだめだよー。しかも今日は試験日。あんまりもめ事が発展しすぎるとあなたが入学できなくなっちゃうよ?それでもいいの?」
彼女の言葉に、男は言い返す言葉が見つからなかったらしく、男はチっ。と舌打ちをしてその場を去っていった。
その光景を見ただけで、僕は理解した。あの女子が一番注意しなければならない存在なのだと。
その後の試験は簡単だった。るりに教えてもらったものをペーストしていく。僕にとっては難しくなかった。もしかしたら、知識はA判定かもしれない。
だが、技能科目だけはそううまくいかなかった。この科目では対象を自身。もの。概念。そしてその威力によって判定するわけだが、僕はるりに教えてもらって二週間程度。対象は自身のみにしか使えなかった。それに、この能力がばれてはいけない。それゆえ、僕はあえて瞬間移動能力とうそをついておいた。しかし、精度がいまいちだったのか、試験官は微妙な顔をしていたのを覚えている。
それ以外にも様々な試験を行ったが、そこそここなすことができた。
結果は、E判定だった。
そうして僕はこの能力育成学園にて、Eクラスからのスタートを切ったのだった。
初の登校日。受験日にいた人数よりもかなり減っていたためか、人がやけに少ないと感じた。
この学園では、A~Eクラスの五クラスに分かれており、一クラスで30人。在校生徒450人ほどの学園である。
僕が今回やらなければならないのは一学年の生徒150人の抹殺。三年間にわたって殺し、学園を破壊するわけだから、僕とばれないためにも、時間をかけないほうがいいだろう。
学園破壊に10日と考えて、一週間に一人は殺さなければならないのか。案外急がなければならない。
Eクラスは基本弱い。そのため、てはじめにEの生徒を殺すべきだろう。そこから順をおって目的を達成する。
そんな弱小クラスであるEクラスにて、僕たちは教師の話を聞いていた。
「初めまして。私の名前はまき。今日からEクラスの担任として君たちを先導していこうと思います」
端麗な顔つきと青色の髪と瞳のせいか、男子生徒はまきに魅せられていた。それに対して、女子は少し不満げであった。その理由は、僕にもわからない。
優しい先生の登場で、少し空気が和んでいたのだが、その先生は、ある言葉を告げることによってあたりは騒然とすることになる。
「この学園では一年にわたって4回ほど試験を行います。大体、三か月に一度試験があると考えておいてください。試験の内容は毎回異なりますが、このルールだけは変わりません。そう...」
まきが人差し指を突き立てて、あくまで冷静に言った。
「負けたか勝ったのかでクラス移動があるということです」
あたりが騒がしくなる。特にEクラスのうちの男子生徒二名は、大きな声で先生に、どうしてですかと聞いた。それに便乗して、火のついたろうそく一つによって、ほかのろうそくの灯がついていくように、生徒たちは先生に抗議した。
「今の自分たちのクラスはEクラス。この制度はうれしいと思いますけどね。それともほかに問題がありますか?」
「ですが、必死にDクラスに上がったとしても、下がる可能性があるから。それが怖いんじゃないですか?」
先生の意見に、また一人の男子生徒が手を挙げて反論した。
彼の意見は、生徒全員が思っていたことだった。
「そういっても、私にはどうすることもできませんよ。この制度を決めたのは教員全員。私だけではありません。わかったのなら、あきらめてこの制度に従ってください」
生徒全員は反論できなかった。なにしろ、この制度が教員全員によるものだと分かったから。そしてこの制度を変えることは、不可能だと理解したからである。
「それでは、今後の特別試験に備えるように。以上です」
その後の休憩時間。一限目の前の休憩時間になった。
しかし、授業準備もあって、ほとんどの生徒が話しかける暇もなく授業準備をしていた。それは僕も同じで、着々と用意をしていた。
「あのさぁ」
背後の席から、誰かが僕に向けて言葉をかけた。
なんともないように振り返ってみせると、少し大柄な男が困ったような表情を浮かべてこっちを見ていた。
関係を築くにはちょうどいい!!
そう思った僕は、彼の抱えている問題を親身になって聞くことにした。
「どうしたんだい?」
男は教科書のある所に指をあてた。
「あらかじめ予習はしておこう。って思ってこのページを開いたんだけどさ、何言ってるのかわかんなくてよ。教えてくれないか?」
彼がさしているその個所を読んだのち、僕はその内容をかみ砕いて説明することにした。
「まずここの公式を使って、そしたらこの法則を使って解くんだ。かんたんでしょ?」
説明している間、能力以外も育成されていることが驚きだった。まるで、過去に戻った気分だった。
ちひろやりゅうとにも、こんな風に数学を教えてたっけ。
「ほんとだ。解けちまったよ。ありがとな!!俺の名前はかいと。お前は?」
難関と書かれた問題が解けてうれしかったのか、上機嫌に言うかいとを見て、僕は微笑を浮かべて名を述べた。
「僕の名前はりつ。りっちゃんと呼んでほしい」
「よろしくな。りっちゃん」
こうして転生後、僕に初めて友達ができたのだった。
久しぶりの小説なので、少し違和感を感じることがあるかもしれませんが、温かい目で見てくれると幸いです。
星をつけてくれると励みになります。よろしくお願いします