08 神様と同衾(一緒に寝るだけの意味で)
お風呂の後は、サキ様が着替えを用意してくれた……のだけど。
「なるほど狸」
「にゃー!」
「そしてハナ様は黒猫、と」
これは……着ぐるみ、というやつだっけ。わたしの世界にもそれはあったから分かる。神様たちは着ぐるみを着て寝るみたい。
これはきっと、世の中の動物の気持ちを忘れないように、ということなんだ……!
「……って、あれ? サキ様は普通の衣服ですね……?」
「え? うん。私のサイズの着ぐるみパジャマはないから」
うん……。えっと……。ああ、そっか! ハナ様はまだ神様としては若いみたいだから、きっとこれからのために動物の気持ちを理解する訓練をしているんだ! さすがは神様だ!
「今もなんだか無理矢理な解釈をされた気がする……!」
「そうですか?」
「それはそれとして……。うん。やっぱり、かわいい!」
サキ様はわたしとハナ様を並べてご満悦だ。なんだか小さな板みたいな道具をわたしとハナ様に向けて、ぱしゃぱしゃと音を鳴らしてる。あれはなんだろう?
「あれね、スマホだよ。おねえちゃんはこうして写真を撮るのが好きなの」
「しゃしん、ですか」
「うん。おねえちゃん、見せてー」
「いいよー」
サキ様が板……スマホをわたしたちに見せてくれた。そこには、わたしとハナ様の姿があった。両手を繋いで並ぶわたしとハナ様。
「え……。なんですかこれ!?」
「写真だよ。パシャっとしたものをこうして保存できるんだよ」
「すごい……!」
あんな一瞬で絵を作って保存してしまうなんて……! 写真! これもまたすごい!
「スマホにはいろんな機能があるんだよ。離れた人と電話で会話したりとか、文字のやりとりをしたりとか、あのテレビをこのスマホで見たりとか、ね」
「な、なんてすごい魔道具なんですか……!? 本当に、素晴らしい……!」
一体どんな複雑な魔方陣を使ってるんだろう……! ああ、気になる! 中を見せてもらえることはできないかな。魔方陣を見てみたい。
「だめですか!?」
「だめです」
だめだった。当然かな。こんなすごい魔方陣、見せてもらえるわけがないよね。残念だ。
「いや、魔方陣とかじゃなくて……。うーん……。ティルエルには機械とか電気を教えてあげないとだめだな……」
「きかい、ですか?」
「うん……。まあ、時間がある時にゆっくり教えてあげるよ」
いずれこのすごい魔道具について教えてもらえるみたい。それを楽しみにしておこう。
お風呂の後は、のんびりと。サキ様は勉強をするみたいで、ハナ様は絵本を読むのだとか。サキ様はすごくしっかりしていたから神様の中でも上位なのかなと思っていたけど、実はまだまだ勉強中とのこと。
神様。わたしでは想像もできない次元になってる。サキ様でも勉強中だなんて……。上位の神様はどんな権能を持っているのかな。楽しみなような、怖いような。
わたしは……テレビを見ていた。いや、だって、ずっと見ていても飽きないから……。
その後は、就寝の時間。わたしは少しぐらい寝なくても大丈夫だけど、サキ様からちゃんと寝るようにきつく言われたから寝ようと思う。
思う、のだけど……。
「どうしようかなあ……」
サキ様とハナ様の部屋。サキ様は少し悩んでる。
お二人の部屋は、入ってすぐの奥に大きなテーブルが置かれていた。勉強机、というものらしい。それが並んで二つ。その反対側の壁際にはベッドも二つだ。
そして、その真ん中ぐらいに大きな道具があった。なんだろう。そう、カプセル、と言えばいいのかな。そんな半透明のもの。人一人が入れるサイズのものがあった。
これも機械というものかな。これは、どんなことができるんだろう。
「サキ様。これは、これはなんでしょう……!?」
「え? フルダイブ……いや、正式名称はいいかな。んー……。ゲーム、という娯楽を遊ぶためのものだよ」
「娯楽のための機械……!」
さすがは神様、遊ぶのも全力なんだ……! これは、わたしも見習わないといけない姿勢かもしれない。わたしはただ神域に行きたい、ウンエイ様に会ってお話ししたい、という欲望だけで魔法を研究して、楽しむということを忘れていた気がするから。
わたしも、最初は魔法を覚えること、使うことを楽しんでいたはずなのに、いつからこうなっていたんだろう。分からない。
「おねえちゃん、ベッド二つだよ?」
「うーん……」
「いっしょに、ねる?」
ハナ様がそう言ってくれた。お気遣いはとても……とっても嬉しいけど、サキ様とハナ様に迷惑をかけるわけにはいかない。だから。
「わたしは床でいいです」
「そんなことされたらこっちが気になるから」
「あ、はい」
そんな気にしなくてもいいのに、と思ったけど……。確かに、わたしも自分がベッドで寝てお二人のどちらかが床で寝ていたらすごく気になる。
神様が優先でいいとわたしは思うけどね。わたしは、ただの侵入者だろうし。
「うん。よし」
そしてサキ様がわたしへと振り返った。
「私と一緒に寝ようか」
「え」
それは。それは、つまり、サキ様と一緒のベッドで寝る、という……?
「だだだだめですそれはだめですぜったいだめですそんな恐れ多いことできるわけが」
「はーい連行―」
「あー」
サキ様にずるずると引きずられてベッドに投げ捨てられてしまった。そのまま上布団をかけられ、サキ様も入ってくる。サキ様の逆側は壁だから、逃げ場がない……!
「あー! だめ!」
ハナ様がそう叫んだ。ありがとう、サキ様! わたしもこれはだめだと思うから、是非とも助けて……。
「ハナも! ハナもいっしょに寝る!」
え、とわたしが思う間もなく、ハナ様がベッドに入ってきた。サキ様をのりこえ、わたしもこえて、わたしの向こう側へ。つまりわたしはサキ様とハナ様に挟まれる形になってしまった。
えっと……。なにこれ。どうしたらいいの? お二人に! 神様二人に! 挟まれてる!
「ハナ。狭くない?」
「せまくない!」
「ええ……。えっと、ティルエル。大丈夫?」
「あばばばば」
「よし大丈夫だね!」
お二人が……神様お二人が両隣に……側に……あ、とてもいい匂いが……。サキ様の……匂い……? なんだか、ふろーらる……。
「きゅう……」
「あ、寝ちゃった。それじゃ、電気消すよー」
「はーい」
そうして、わたしの神域での一日が終わりました。お二人のぬくもりがあわわわわ。
壁|w・)みんなで寝れば怖くない。