31 神様は魔女たらし
日本時間の、夜。わたしはとても豪華な部屋にいた。部屋には、初老の男が何人か。この国のトップを含む、偉い人たちだ。
サキ様にはああ言ったけど……。当然、わたしは許すつもりなんてない。命令を出しただろうやつらにしっかりと制裁を与えたいと思う。
女の記憶から読み取った国名から、世界地図で場所を調べて、さらに首都というものを調べていって……。サキ様とハナ様が眠ってから始めたけど、ここにたどり着いたのはもう深夜も深夜だ。
この国も日本に近いからやっぱり深夜なわけだけど、この人たちは起きて集まってくれていた。急に連絡が取れなくなった部隊があるとかで、緊急で集まってるみたい。
まあ、つまり……。あの女の部隊、だね。
「まだか……。まだ連絡はないのか」
「はい……。申し訳ありません、総統。未だ何の連絡も……」
「むう……」
何か言葉を発してるけど、残念ながら日本語じゃないから言葉が分からない。口での話し合いはだめ、ということだね。
でも大丈夫。ちゃんと方法はあるから。
「こんばんは」
わたしがそう口に出すと、その場にいる全員が勢いよく振り返った。
何か、わたしに向かって叫んでる。意味は分からないけど。
「えっと……。とりあえず、黙ってください」
近くの本棚を風の魔法で真っ二つにする。すぐに男たちは静かになった。言葉は分からなくても、わたしの求めることは伝わったみたい。これなら大丈夫、だね。
でも総統? という人以外は正直どうでもいい。とりあえず、重力魔法。必要ない人を全員床に縛り付けておいた。
「がぁ!?」
おお……。苦しそう。大丈夫、死なない程度に加減してあるから。
ゆっくりと総統に近づく。白髪頭の、結構な年の人。すっかり顔色が土気色になったその人の頭に手を置いた。
「わたしと、わたしの大切な人に手を出したね?」
思念を直接伝えているから、意味も伝わるはず。総統は嘘をついても無駄だと思ったのか、小さく頷いた。
「まず前提として。わたしはいつでも、お前たちを殺せる。その上で、要求を伝える」
わたしが求めるのは、そこまで多くない。
わたしとわたしの知り合いに関わるな。二度とあの国の不利益になることをするな。ただ、それだけ。後者の方は、この男にとって一番辛いものになるだろうから。
この国、日本ととっても仲が悪いみたい。そんな国の総統が日本に対してとっても甘くなったら……。国民がきっと文句を言うと思う。
国民を取るか、自分の命を取るか……。じっくり、考えてね?
そう総統に伝えて、わたしは転移でその場を後にした。まあ、これで十分、かな?
翌朝。ウンエイ様がサキ様の家に駆け込んできた。
「サキ!」
「うわ……!? お父さん!?」
朝一番の新幹線で駆けつけたらしい。やっぱり心配だったみたい。
「ティルエル……。本当に、本当にありがとう……!」
「いえ……。わたしが原因ですし……」
この件について、お礼を言われるとちょっとこう、もにょもにょっとする。だって、今回のことって間違い無くわたしが発端だから。
わたしがこの世界に来なければ。わたしがこの家に滞在しなければ。わたしがテレビとかで目立たなければ。きっと今回のことはなかったと思うから。
「ご迷惑をおかけしました……。わたしは、自分の世界に帰ろうと思います」
「え」
これは、昨日から考えていたこと。わたしのせいで今回のようなことが起こるなら、わたしはもうこの世界にいるべきじゃない。
「いや、でも……。だって、あの世界、いずれ消えるんだよ……?」
「はい……。それは、受け入れるべきかなって」
ウンエイ様が言うには、わたしという存在はどのように生まれたのかよく分からないらしいけど……。それでもわたしは、あの世界で生まれて、育ってきた。だからあの世界が終わるなら、わたしも一緒に終わるべきだと思う。
それに。
「この魔法のない世界は、わたしがいるべきじゃないですから……」
「あー……。魔法がないこと、ようやく分かってくれたんだ……」
「その節は本当にご迷惑を……」
今から考えると、サキ様、かなりちゃんと魔法がないって言ってくれてたんだよね。それを変な勘違いで神様はすごい魔法が使えると思い込み続けて……。サキ様には本当に迷惑をかけてしまったと思う。
「だから、わたしはあの世界で……」
「うるさい黙れ」
「あう」
ほ、ほっぺたが! ほっぺたがむぎゅうっと! サキ様に握られて……!
「確かに日本で魔法を使えるティルエルは異端だし、理論もよく分からないし、科学的に見て不思議とか不気味とか通り越して笑えるぐらいだけど」
「むむー」
「でも、いいよそれぐらい。誰かに迷惑をかけてるわけでもないし、むしろ人助けしてるぐらいなんだから」
そう言って、サキ様はわたしの頭を撫でてきた。いつもの、優しい撫で方で、なんだかとっても温かくなる。
「ティルエルが本当に自分の世界に帰りたいなら止めないけどさ。ティルエルはどうしたいの? ちなみにわたしは、ティルエルに一緒にいてほしいかな」
それは。それは……。ちょっと、ずるいと思う。
「サキ様って、人たらしですね」
「え」
「むしろ魔女たらし?」
「どういう意味だこら」
「むむむー!」
わたしのほっぺたはのびません! だから両端をつまんで引っ張らないで!
サキ様に頬を引っ張られて、わたしがふがふがと抵抗して……。そうしていると、ウンエイ様が苦笑いしながら言った。
「ティルエル。相談なんだけどね」
「ふむむ……。ふぁい?」
「以前言った新しい世界についてなんだけどね。近々、話をさせてほしいと思っているんだ。だからせめて、もう少し待ってもらえないかな?」
「はあ……。分かりました……?」
新しい世界。なんだっけ、続編? みたいなことだったと思う。
世界を作る、というのが結局わたしにはよく分かってない。魔法がないというのは理解できたけど、でもやっぱり世界を作っている事実はあるわけで。ゲーム、というのも教えてもらったけど、やっぱりわたしには理解が及ばない部分だ。
それでも。とりあえずは、ウンエイ様の言葉を待ちたいと思う。
それに……。
「魔女のおねえちゃん、どこかに行ったらだめだよ?」
「う……。はい……」
ハナ様にも服の裾を掴まれてそう言われて……。とてもじゃないけど、拒否はできなかった。
うーん……。わたしが言うのもなんだけど、この姉妹はやっぱり魔女たらしだと思います。
壁|w・)次回、エピローグです。




