30 救出
わたしの世界では想像もできないほどに大きな船。そんな船がたくさんある港という場所の上空にわたしは来ていた。サキ様は、どうやら船の一つに閉じ込められているみたい。
わりと大きな船だ。でも他の船と違って、とても静か。そんな船はいくつかあるから、これだけで怪しいとは言えないけど……。わたしはサキ様がここにいると分かってる。
船の上にゆっくりと下りる。見つからないように助けるべきかと思ったけど、ウンエイ様の言葉を信じるなら、きっと問題ないから。
それよりも、むしろ。誰にケンカを売ったのかを、思い知らせてやる。
わたしを見つけた男の人が、こっちに走ってきた。何か叫んでるけど……。意味は、分からない。外国語というやつだね。日本語ではない、別の国の言葉。
言語ではあるんだし少しぐらい意味は分かるんじゃないかなと思っていたけど、これは全然分からない。不思議だね。言葉って、こんなに違うものなんだ。
わたしがじっと観察していると、男はしびれを切らしたのか何かを前に突き出してきた。黒い筒のようなものがついたもの。銃。これもアニメで見た。
これも、不思議な道具だと思う。とても大きな音というデメリットはあるけど、魔力がなくても生き物を殺すことができる武器。殺傷力も結構なもの。
しかもあれは……さいれんさー、だっけ? 音を小さくするものだったはず
せっかくだし、一個ぐらいもらってもばれないかな?
ぱすっという音がして、わたしの結界に何かが当たった。
「わあ……。これが、弾丸」
なるほど……。なるほど。仕組みはよく分からないけど、これを相手にぶつける、と。しかも目にも留まらぬ速さで。確かにこれを当てられると、とっても痛い。当たり所が悪いと死んでしまうかもしれない。
まあ、もっとも。相手が魔法使いでなければ、だけど。
男の人が何か叫んでる。連続で銃というものを使っているみたいで、結界に弾丸がぺしぺしと当たってる。魔力のこもっていない攻撃なんて、何の意味もないのに。
せっかくだし、弾丸ももらっておこう。あとで調べて……、あ、いや、しょうこ? というやつです。
アイテムボックスに弾丸をしまうと、男が口をあんぐりと開けたのが分かった。
とりあえず……。小さな雷を走らせて、男に当てておく。それだけで男は倒れて気を失ってしまった。
うーん……。思っていたよりも、脆いというか、弱いというか……。この程度なんだ……。
いや、まあいいか。どんどんいこう。
ドアを開けて、中に入る。
「サキ様―! ティルエルです! ティルエルが来ましたー!」
とりあえず叫んでみた。サキ様に聞こえたら、安心してくれるかなって。
あれ? 安心させるなら、サキ様がいる部屋に直接転移してもよかったかも……? 追跡魔法で場所も正確に分かっているんだし……。
いや、でも。わたしの友達に手を出したらどうなるか。それは分からせる必要があるかな。今後、こういうことが起きないようにするために。
わたしの大声が聞こえたのか、たくさんの人が集まってくる。みんな殺気立っていて、雰囲気はちょっと怖い。持っているものがみんな銃だから、何の心配もないんだけど。
結界で攻撃を防ぎながら、雷を走らせて倒していく。こんな弱い魔法で簡単に倒してしまえると……なんだろう。これはこれで、ちょっと楽しいかもしれない。
なんだっけ。えっと、ゲームでこういうのがあった。んー……。無双系、だっけ。そういうやつ。
せっかくだし、いくつか銃ももらっておこう。分解して調べて……いや、そうじゃなくて。証拠品です。証拠品はいっぱいあった方がいいのです。多分。
そうしてしばらく進むと、いつの間にか襲われなくなった。誰もこっちに来なくなって、いきなり静かになる。全員倒したわけでもなく、船室に隠れている人が多いらしい。
指示か何かでも受けたのかな。それがいい。だって、向かってきたところで、わたしの敵じゃないから。殺しはしていないけど、わざわざ痛い思いをする必要はないよ。
もっとも。ただで逃がすつもりもないんだけど。
そうしてしばらく歩いて、ちょっと奥の部屋にたどり着いた。サキ様がいる部屋だ。サキ様以外にも、三人ほど人がいる。
ドアを開けて中に入ると、人以外は何もない部屋だった。
中にいたのは、四人。椅子に座らされたらしいサキ様と、銃を持つ男が二人に、女が一人。サキ様以外は見覚えのない人だね。
以前喫茶店でお話しした人がいるかも、なんて思ったけど……。無関係だったみたい。疑っていたことを内心で謝っておこう。ごめんなさい。
女がサキ様に銃を向けて言った。
「止まりなさい。この子がどうなってもいいの?」
「はあ……」
無駄なんだけど……。立ち止まっておこう。話を聞きたいから。
「んー! んー!」
サキ様が必死に何かを言ってる。なんだろう、青ざめて何かを言おうとしてるけど……。ごめんなさい、ちょっと分からないです。
「ダマレ!」
男の一人がサキ様を殴りつけた。ので、報復に雷を走らせて倒しておいた。まったく、油断も隙もない。
女が、倒れた男を一瞥して、小さく喉を鳴らした。
「なるほど、これがあなたの魔法というやつなのね……」
「すごいでしょう!」
「え、ええ。とってもすごいわ」
やった! 褒められた! ちょっと嬉しい!
あ、いや、今はそういうのはどうでもよくて。
「サキ様、返して下さい。ハナ様が寂しくて泣いてしまいそうなんです」
「そうね。でも、もう遅いわよ。すでにこちらの者があの場所に……」
「ああ、それなら……無駄、ですね」
サキ様がこうして襲われたのだから、当然わたしが離れるあの家にも何かされる懸念はあった。だから、結界を張っている。考えなくても当たり前だ。
「どこから入ろうとしても、結界で入れません。テレビでアニメを見ているハナ様には、音の一つも聞こえていないですよ」
そして外には音は聞こえるようになっているわけで。多分ご近所さんが、警察だっけ、そういった場所に連絡してくれると思う。
そう説明すると、女の頬が引きつった。
「こ、この子がどうなってもいいの!?」
女が銃の引き金に指を掛ける。あれを引くと弾丸が出る、という仕組みのはず。さっきまで何度も見たから。
「無駄ですよ?」
「は?」
「サキ様を見つけてすぐに結界、張っておきました。その銃程度のものでは衝撃すら感じられないと思います。さっきの男の人が殴ってましたけど、サキ様は無事でしょう?」
まあ、わたしを見ていたみたいだから気付かなくても仕方ないけど。
というより、だ。部屋に転移せずにこうして乗り込んでみたり、大声で呼んでみたりしたんだから、何か対策しているぐらいは思ってほしい。
それとも、あれかな。わたしみたいなやつは、そんなことまで思い浮かばないバカだと思ってるのかな。否定しきれないけど、バカにバカと思われるのはちょっと不愉快だ。
「あなたには、いろいろ聞きたいことがあります」
一歩近づく。女たちが一歩下がる。んー……。二人もいらない。一人でいい。多分この女の方がいろいろ知ってそうだ。男には雷をプレゼント。
「あがっ」
男が倒れて、女が顔を真っ白にした。おもしろい。
「ご、拷問したところで、何も話さないわよ!」
拷問。そんなことを真っ先に考えるなんて、この世界はちょっと危ないと思う。
「安心してください。拷問なんてしません」
だって、必要ないから。
「あなたの記憶をのぞき見るだけです」
「は……?」
心配しなくても、痛くはない。痛くはないけど……。すごく気持ち悪いと思う。わたしは経験がないけど、確か、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる、そんな感覚らしいから。
「そろそろ鬱陶しいので動かないでください」
女の足を凍らせて動けなくする。女はその場で尻餅をついて、怯えたような目でこっちを見てきた。
「こ、こんなことをして、我が国が黙っていないと……!」
「安心してください。あなたの国も、許すつもりはありませんから」
サキ様に手を出した以上、この人も、この人の国も、絶対に許さない。絶対にだ。
女の頭に手を置いて、魔法を使う。記憶を読み取る魔法。実はこの魔法、わたしの世界のドラゴンの記憶を読み取るための魔法だったりする。いろんな知識を持ってるかなと思って作った魔法だった。
人間に使うのは初めてだけど、まあきっと問題なんてない……。
「いぎいぃぃぃ!?」
「うわ」
女がなんだかすごい悲鳴を上げ始めた。いや、えっと……。え、そんなに痛かった? やばかった? 本当に?
「んー!? んー! んー!」
「さ、サキ様!? え、えと、その……。大丈夫だと思います!」
「んんんんーんんんん!」
「ごめんなさい!」
せめて言い切れバカ、だと思う! 怒られた! この女のせいだ! もう……!
一気に記憶を読み取る。んー……。国の名前は、これ、かな?
手を放すと女が倒れた。用済みだからこのまま放置でいいかな。ああ、でも……。しっかりと、仕返しはしておこう。
でもその前に。
「サキ様、縄切りますね」
「ん」
サキ様を縛っている縄を切って、口のガムテープをはがす。痛くないように魔法をかけて、ぺりっと。
ガムテープをはがすと、ぷは、とサキ様が息を吐いた。
「ありがとう、ティルエル。本当に、ありがとう……」
「いえ……。こちらこそ、ごめんなさい。わたしのせいでご迷惑をかけて……」
「あはは……。大丈夫。ちょっと怖かったけどね」
そう言うサキ様の体は、ちょっと震えていた。ちょっと、なんて言ってるけど、きっとすごく怖かったんだと思う。本当に、サキ様には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「それで、ティルエル。どうするの?」
「はい……。とりあえず、ここにいる連中と、わたしがいない間に家に来たバカに仕返しします」
「わあ……。怒ってるね?」
「怒ってます」
当たり前だ。これでも、わりと本気で怒ってる。サキ様に手を出したんだ。絶対に許さない。殺したらいろいろありそうだからさすがに避けるけど、でもきっちり仕返しはする。
まずはこの船にいる連中から。一人ずつ、引きずってこのこの部屋に集める。何人か意識を取り戻していたけど、全員もう一度気絶してもらった。
そうしてから、部屋の中央に魔法陣を描いた。実用性のない魔法だと思っていたものだったけど、今の状況にまさにぴったりの魔法だ。
サキ様と一緒に部屋を出て、魔法を起動。魔法陣から煙が吹き出し始めた。
「サキ様。ドアをしっかりと閉めておいてください」
「あ、うん。これ、どうなるの?」
「幻覚の魔法です」
「幻覚?」
幻を見せる魔法。その程度か、と重いそうになるけど……。
「な、なによこれ!?」
「うわああああ!?」
目を覚ました連中の悲鳴が聞こえてきた。うん。いい気味だ。
「えっと……。あいつら、何見てるの……?」
「さあ……? 多分、今まで殺した人の幻とか、見ていると思います」
実際のところは分からないけど……。あの人たちが怖いと感じるものに襲われる、という魔法だから。じっくり味わってほしい。
あとは家の方を襲った犯人たちだけど……。何も連絡がなければ、この船に戻ってくるはず。そのままこの魔法に囚われるはずだ。関係ない人が入ってくるかもしれないけど……。その時は、解除しにこよう。
「それじゃあ、サキ様。帰りましょう」
「ああ、うん……。国がどうとかは?」
「ただの脅しですから」
そう言うと、サキ様は安堵したように微笑んだ。優しいサキ様なら、きっと心配すると思ったから。今は、何もしないよ。今はね。
サキ様の手をしっかりと握って、サキ様の家へと転移した。
「おねえちゃん!」
「ハナ!」
家に帰り着くと、すぐにハナ様がサキ様に抱きついた。泣きじゃくるハナ様と、同じように泣きそうになりながらハナ様の頭を撫でるサキ様。
うん……。ちょっと頑張って良かったと思う。ウンエイ様にも報告を……。
「ねえ、ティルエル」
サキ様の声が、聞こえた。さっきまでの優しい声じゃなくて、なぜかとっても冷えた声。思わず背筋が震えた。
ど、どうしよう……! なんだか、怒ってる……気がする!
「あれ……。なに?」
サキ様が指差したのは、サキ様を探す時に使った追跡魔法、その魔法陣。追跡魔法は魔法陣の中に探す相手の私物を入れておかないといけなくて……。
その時に使ったのは、サキ様の……。パンツ。
「あ」
いや、待って。待って。違うんです。本当に違うんです。あの時はちょっと慌てていたんです。慌てていて、とりあえずすぐに見つけられたものを使っただけで……。
「それで、あれ?」
リビングのど真ん中に浮かぶ魔法陣と、中央のパンツ。うーん……。これはないね!
「すみませんでしたあああ!」
その場で必死に謝りました。青筋を浮かべるサキ様はとっても怖かったです……。
壁|w・)さくっとね。




