28 最高神様の神託(ただの提案)
描く魔法は、転移の魔法。わたしの世界と神域を行き来するための魔法だ。これなら興味を持ってくれるかも……!
そして、わたしの転移魔法の魔法陣を見た首相さんの反応は、
「これは……!」
目を見開いて凝視する、というものだった。
よかった。今も少しずつ改良しているから、今回こそはと思ったんだ。最高神様に興味を持ってもらえて、とっても嬉しい。まさに天にも昇るような気持ちだ。
首相さんはじっと魔法陣を見て、そしてわたしに視線を戻した。
「これは……。例えば、紙に書いたら、誰でも使えるのかな?」
「え? それは……魔力さえ流せば、使えると思います」
相応に魔力は必要になるけど、神様たちなら問題ないはず。わたしが頷いて答えると、首相さんは何故かとても残念そうだった。
「そうか……。使えない、か……」
「え? いや、あの、魔力……」
「ああ、すまない。お菓子とジュースを持ってこさせるよ」
あ、あれ? 魔力について完全に無視されてしまっているような……。もしかして、制限をやめて魔力を使えば、というのは言っちゃだめなこと、なのかな?
あわよくば神様の魔法を見たいと思っていたのがばれてしまっているのかも。ちょっと気をつけよう。
それよりも。何よりも。お菓子!
首相さんがスマホで電話をすると、すぐにドアがノックされて、黒いスーツの人たちが入ってきた。お盆にジュースが載せられている。他にも、クッキーとかお菓子がたくさん入ったバスケットも。
それをテーブルに置いて、黒いスーツの人たちは出ていってしまった。
「どうぞ。自由に食べてくれていいよ」
「ありがとうございます!」
最高神様が用意してくれたお菓子! これはきっと美味しい!
早速手を伸ばして……。あ、でも、やっぱり先にサキ様やウンエイ様が食べるのを待たないといけないかも……。まずは上位の人から……。いや、毒味役と思ったらわたしが食べても……。いや最高神様が用意したお菓子を毒味ってそれはそれで失礼な……。
「えっと……。彼女、手を伸ばしたまま固まってしまったけれど……」
「ああ、すみません。多分とってもくだらないことを考え始めただけです。クッキーもらいますね」
最高神様は信用してもいいかもだけど、でもやっぱりわたしにとってはサキ様の方が大事だし、ここは毒味がとても……ふが。
「もぐもぐもぐ」
考え事をしていたら何かを口に突っ込まれたのが分かった。これは……クッキーだ! とってもふわふわでさくさくとしたクッキー。ほんのり甘くて、何枚でも食べられそうな味だ。
「しあわせ……」
「はいこれも食べようね」
「んぐ」
これは……チョコレート! サキ様からもらったこともあるけど、明らかに食感が違う。しっとり濃厚なチョコレートだ。これはとてもいいもの……!
「…………。はっ!? サキ様!?」
「お、帰ってきた。お菓子はどうだった?」
「とっても美味しかったです!」
「うんうん。気にせず食べていいらしいからね」
「はい!」
もう食べちゃったし、気にしても仕方がない、というやつだよね! じゃあ、食べる! こんなに美味しいお菓子、残してしまう方がもったいない!
クッキーをぽりぽりしていたら、サキ様も食べ始めた。うっま、なんて声を漏らしてる。本当に美味しいお菓子ばかりだ。
「はは……。気に入ってもらえて良かったよ。よければお土産に持って帰るといい。用意させるから」
「いいんですか!?」
「もちろん」
こんなに美味しいお菓子を譲ってもらえるなんて……! やっぱり最高神様はとってもいい人だ!
ジュースも飲む。これも、すごく美味しい……! 濃厚なブドウジュース! こ、こんなにいいものばかりもらってもいいのかな……!?
「それじゃあ、食べながらでもいいから話の続きをしてもいいかな?」
「は、はい……!」
食べながらでもいいと言われたけど……。さすがに失礼すぎる気がする。クッキーを呑み込んで、食べるのを中断して……。た、たまに食べるぐらいなら、いいかな……?
「まずは、お礼を言いたいんだ」
「お礼、ですか?」
「ああ。火事の件もそうだけど、いろんな事件の解決に手を貸してくれたことについて。多くの人が救われた。ありがとう」
「い、いえ……。そんな……」
魔力を制限している神様たちの代わりに、ちょっと手を出してしまっただけ。わたしがやったのは、きっと余計なことだったと思う。
でもこうしてお礼を言ってもらえると……。やってよかったな、と素直に思えた。最高神様に褒めてもらえるなんて、とても誇らしい。
「お礼をさせてほしいのだけど……。何か欲しいものはあるかな?」
「お菓子で満足です!」
「ええ……」
いやだって、これ以上を求めるべきじゃないと思う。今まで食べたどのお菓子よりも美味しいお菓子ばかりだ。きっと、高級品、というものだと思う。
でも。それでも、何かを求めていいのなら。
「わたしの魔法を、見てもらいたいです」
「え?」
「改善点とかあったら……。是非、教えてほしくて……!」
わたしの魔法は、神様からすればきっとお遊びもいいところだ。でも、だからこそ、神様から見てどんな改善点があるのか、せめてヒントだけでも欲しいと思う。
じっと首相さんを見てそう言うと、首相さんは困ったような笑顔になって視線を逸らした。首相さんの視線の先は、サキ様だ。
「あー……。ティルエル。それは後にしよっか」
「はい、分かりました!」
サキ様が言うなら後にしよう。きっと何か理由があるはずだから。
「うん……。助かるよ。それじゃあ……そうだね。回りくどいことはなしにしよう。ティルエル。君は何のためにこの世界に来たのかな?」
それは。それは、いつかの女の人にも聞かれたことだ。首相さんにはとても失礼かもしれない。がっかりさせるかもしれない。でも、わたしの答えは変わらない。
「神域が見たかったんです。神様たちと会って、話してみたかったんです。それだけ、です」
「…………。そうか」
首相さんはこんな答えに納得してくれたのかな。わたしには分からないけど、首相さんの目は少し優しいものになっていた。
「ティルエル。よければ君を、正式な客人として招きたいと思っている」
「えっと……。どういうことですか?」
「関係各所に連絡して、ちょっとマスコミにも伝えて……。君が、気兼ねなくこの世界で過ごせるように、魔法を使えるようにさせてもらいたいかな、と」
「え……」
それは。それは、つまり……。もう気にせずに魔法を使っても怒られない、ということかな……?
「あとは、そうだね……。君が望むのなら、我が国のために働いてほしいとも思っている。その魔法を有効活用してほしいし、魔道具というのも作ってくれるとありがたい」
働く。お仕事。つまり……。この世界で、暮らし続けてもいい、ということだよね……? しかも、最高神様のお墨付きだ。
どうしよう。すごく嬉しい。このまま神域で暮らす許可をもらえるなんて……!
「もちろん、住む場所も提供できる。給与も君が望む額を用意しよう。どうかな?」
これは……これ以上無い条件だと思う。わたしの魔法は神様のものとは劣るものだと思うけど、もしかすると、だからこそ雇ってくれるのかも。
神様の魔法は制限があるけど、わたし程度の魔法なら……みたいな感じかな?
「ありがとうございます! 是非とも……」
そう、わたしが言って。
「そっか……」
何故か、サキ様のそんな小さな声が、はっきりと聞こえてしまった。
「え? あの、サキ様?」
「うん。どうしたの?」
「いえ、その……。サキ様は反対、ですか?」
「いやまさか。自分でお金を稼げるならそれが一番だと思うよ」
サキ様はそう言ってくれるけど……。どこか、少しだけ悲しそうで。
いや、違う気がする。寂しそう、かな。
「あの……違ってたら、恥ずかしいんですけど……」
「うん?」
「寂しいと……思ってくれてたり……します……?」
サキ様、ハナ様と暮らしたのは決して長い時間じゃなかったけど……。でも、わたしはとっても楽しかった。もしサキ様が同じように思ってくれているのなら、すごく嬉しい。
サキ様は呆れたような視線をわたしに向けてきた。あ、やっぱり、自惚れだったかも……。
「当たり前でしょ」
「え」
「私、ティルエルのこと、気に入ってるからね? もっともっと仲良くなりたいと思ってたんだよ。それなのに……。いや、ごめん。気にしなくていいから」
どうしよう。とても、とっても嬉しい。
わたしが神域に来れたのは、サキ様のおかげだ。わたしにこの世界のことを教えてくれたのは、サキ様。わたしも、サキ様と一緒がいい。
首相さんに向き直って、言った。
「お手伝いはします。でも、暮らす場所はサキ様と一緒がいいです」
「ティルエル……」
「わたしも、サキ様と、ハナ様と、もっと仲良くなりたいですから」
一緒にご飯を食べるあの時間が、一番楽しいかもしれないから、ね。
我が儘を言っていることは自覚してる。これでだめなら、諦めようと思う。
首相さんの顔を見ると、とても難しい顔をしていた。
「だめ……ですか?」
「いや……。だめではない。だめではないんだけど……」
そこまで言って、首相さんは黙り込んでしまった。
サキ様を見る。サキ様も少し不安そう。ウンエイ様も何とも言えない表情だ。少し困惑の色が見えるぐらい。
やがて首相さんが言った。
「できれば……こちらで用意した家に住んでもらいたいんだ。ご家族にも」
「え」
これに驚いたのはわたしじゃなくてサキ様。もちろんわたしも驚いたけど。一緒に暮らしてもいいけど、サキ様たちに引っ越してほしい、となるなんて思わなかった。
「それは……どうしてですか?」
「危険だからだよ」
「危険……?」
何が危険なのか分からない。だって、今まで何も問題なく暮らしていたのに。
「今すぐ決める必要はない。ゆっくり考えてほしい」
とりあえず、わたしのお仕事とお引っ越しについては、また後日相談ということになった。
その後、夕方まで首相さんと話をしてから、わたしたちは新幹線に乗って帰ってきた。
あの後の話は特に重要な話はなかった。日本のことはどう思うか、とか、最近何をしているのか、とか、そんな雑談ばかり。
サキ様の家に帰ってきてからは、またのんびりとした生活だ。首相さんから言われたことは、また改めて考えようと思う。
今はそれよりも、急がないといけないことがあるから。
「ティルエル、荷物の置き場所とか大丈夫?」
「そこまで多いわけではないので大丈夫です!」
お引っ越しの最中。サキ様の家から引っ越すわけじゃなくて、あっちの世界の荷物を回収してる。ウンエイ様が言うには、もうすぐ消してしまうとのことだから。
あの世界で生まれて、魔法の研究をして……。そんな思い出のある世界だから、消えてしまうことに何も思わないわけじゃないけど……。でも同時に、そこまで愛着があるかと言われると困るところなんだよね。
だって、誰とも会話できない世界だから。プレイヤーの神様たちと戦うことぐらいしかできなかった。それも、今となっては必要ないことだし……。
ウンエイ様が言うには新しい世界を作っているところらしいし、できれば新しい世界にも家が欲しいな。ウンエイ様に会ったらお願いしてみようかな。さすがに失礼かな……?
その前にまずは転移魔法を作り直さないといけない、という問題もあるけど。今の転移魔法は、わたしの世界と繋ぐための魔法だから。
でも、それはまだ先の話。今はとりあえず、荷物の回収だ。
もう一度わたしの世界に転移しようとしたところで、サキ様が声をかけてきた。
「ティルエル、晩ご飯の買い物に行くけど、何がいい?」
「なんでもいいです! サキ様のご飯はどれも美味しいですから!」
「うーん、嬉しい言葉なんだけど、作る側からすると困るやつ……」
トンカツでもしようかな、なんて言いながらサキ様は出かけていった。トンカツ、とても楽しみだ。さくさくの衣にお肉……。ああ、早く食べたいなあ!
そして、サキ様は。日が沈んでも帰ってこなかった。
壁|w・)どこかの最高神様が余計なことを言うから……。




