21 ウンエイ様との会話
そうして、一通りの発表が終わって。わたしはサキ様に連れられて、関係者以外立ち入り禁止の札がかけられたドアの前に来ていた。
ドアの前に立っていた神様にサキ様が声をかけると、すぐにその神様がドアの中に入っていく。そして戻ってきたら、そのままサキ様と一緒に中に案内された。
そうして、案内された先にいたのは、
「ようこそ。待っていたよ」
ステージの上で話をしていた男の神様だった。
「遅くなってごめん、お父さん」
「構わないよ。いろいろ見て回っていたんだろう? あまりない機会だからね」
「あはは……」
お父さん。サキ様の、お父さん。つまりこの人が、
「ウンエイ様!」
わたしがその場で膝を突くと、ウンエイ様が慌てたように立ち上がった。
「ま、待ってほしい! そんなことされる立場じゃないから!」
「何を仰います! あの世界を作られた神様のお一人に会えるなんて……! ああ、本当に、生きててよかった……!」
「さ、サキ! どうすればいい!?」
「あははー」
ああ、本当に……。わたしは今、とても感動している!
「落ち着けー」
「あうっ」
サキ様にチョップされてしまった。ちょっと痛い。
改めて、お話だ。
案内された部屋は結構狭い部屋で、テーブルに椅子とノートパソコンというものがあるだけの部屋。準備のための部屋とかは別にあるらしくて、ここは誰かとゆっくり話すために作っておいた部屋とのことだった。
「す、すみません! お客様が来るということですよね……! わたしはウンエイ様と会えて満足なので、そちらを優先して……」
「うん。いや、君のことだよ」
「え」
なんと。ウンエイ様はわたしとお話しするためにこの部屋を用意したとのこと。なんと恐れ多いことか。感動で震えそうです。
「ティルエル。もう一発いる?」
「大丈夫です!」
落ち着いてます。いや本当に。
「改めてだけど……。君は本当に、あのゲームの世界から来て、魔法が使える、でいいのかい?」
「はい。こんな感じで空も飛べます」
実際に少し浮いてみる。するとウンエイ様も納得してくれたみたいで、そうか、とどこか疲れたように頷いていた。
「あの、それでですね……。ウンエイ様に謝罪しないといけないことが……」
「え? なんだい?」
「カタストロフドラゴン……。わたしが、倒しちゃいました。出現しないのはそれが理由かなって」
「ええ……。いや、言っている意味は分かるけど……。それが反映されてる? でもプログラムは……。なんだこれ?」
やっぱり勝手に倒したのはまずかったのか、ウンエイ様が頭を抱えてしまった。本当に申し訳ないと思っています。知っていたら倒さずに封印したんだけどな……。
いやでも、それだとあの部屋を使えなかったかな? むむ……。ちょっと困る。
「正直なことを言うと」
ウンエイ様がゆっくりと話し始めた。
「私は未だに信じられないんだ。ゲームのキャラがこうしてリアルに来て、交流してる。しかも、ゲームの中で行ったことがプログラムにも干渉して原因不明のバグになる……。本当に、信じるには荒唐無稽すぎる」
「はあ……」
「でも……。君が魔法を使っていろいろとしているのもまた事実だ。最近のニュースで君のことが取り上げられない日はないからね。いろんな場所から問い合わせの連絡もきたよ」
「す、すみません……」
「いや、怒ってはないとも」
でも、わたしのせいでウンエイ様に手間をかけさせてしまったのは事実じゃないかな。ウンエイ様にはとても手間を取らせてしまって……。
わたしはどうすればよかったんだろう。この世界に来なかった方が良かった、と言われてしまえばそうなんだけど……。でも、やっぱりどうしても気になって……。
「とりあえず、私も君のことを、ティルエルのことを信じる前提で話を進めるよ」
ウンエイ様のその言葉に、わたしは居住まいを正した。
「ティルエル。君はこの世界に、何をしに来たのかな?」
何を。それはもちろん。
「知りたかったから」
「え?」
「わたしは、ずっと一人でした」
わたしがわたしという存在を確立してから。ずっと孤独を感じていた。誰に話しかけても、まともな会話にならなくて……。でも不思議と、あの世界の知識は頭に叩き込まれていて。
わたし自身はあの世界での生活なんて覚えていないのに、でもあの世界でどんな生活をしていたかの記憶がある。そんな矛盾した状態だった。
だから。ちゃんと会話できる人と出会えた時は感動した。それがサキ様だったわけだけど、この世界を作った神様、ウンエイ様というものも知って、神様たちが住んでいる世界に興味があって……。
だから、来たかった。興味本位。ただそれだけ。
こんな理由だと、やっぱり怒られるかな?
「サキ。知っていたのかな?」
「ううん。初めて聞いた。そんな理由だったんだね」
サキ様は何度も頷いて、そして言った。
「ティルエルは、寂しかったんだね」
「え?」
「まともに会話できる相手はいなくて。だから、ちゃんとお話しできる相手を求めて、こっちに来た。そんな感じじゃない?」
そう……。そう、なのかな? 寂しかった、のかな? 確かに言われてみると……。サキ様と最初に話したあの時のことを、いつも思い出していたと思う。
「そう……かもしれません」
わたしが頷くと、サキ様はなんだか優しい笑顔で頭を撫でてきた。気持ちいいのでもっと撫でてほしいです。
「しかし、困ったなあ……」
ウンエイ様は頭をかきながらそう言った。
「お困り事ですか? わたしでよければお手伝いします! お役立ちです!」
せっかくこうしてこの世界に来たんだから、少しでも力になりたいと思ってしまう。わたしの魔法は神様の魔法に比べると児戯のようなものだと思うけど、それでも何かできるはず。
でも、何故かまたサキ様に頭を撫でられてしまった。
「サキ様?」
「うん。ティルエル。ちょっと黙ってようか」
「あれ……?」
なんだか、何かを失敗したみたい。よく分からない。
「正直、もう少し注目される前に来てほしかったかな……」
ウンエイ様がそう言って、それにサキ様が少し強めに答えた。
「真っ先に連絡したのに気づかなかったのはどこの誰ですかね?」
「うぐ……。そう言われると、その……。辛いものが……」
「異常事態だって最初から気づいてるの。分かってるの。だからお父さんを真っ先に頼ったのに……。忙しいからってスマホを見ないってどういうことなの? 見ないスマホに何の価値があるの? 捨ててしまえ馬鹿野郎」
「ひどくない……?」
あ、これ、サキ様わりと本気で怒ってるやつだ。なんだかんだと一ヶ月の付き合い、サキ様の性格とかもなんとなく理解してる。
そしてこの感じのサキ様は、静かに、けれどわりと本気で怒ってるやつ。言葉の端々に棘を感じる。ちょっと怖い。
こほん、とウンエイ様が咳払いをして、その場で頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「反省しろ。本気で」
「はい」
とりあえずはこれで解決……なのかな? 解決とはまたちょっと違うのかな。
改めて話を戻して、ウンエイ様が言った。
「結構あちこちで調べられているみたいでね。いろんな場所から問い合わせが来てる。それこそ、政府からも」
「ええ……。そんなことになってるの?」
「少し調べれば、このゲームに関連していること、というのは分かるからね。政府には外国からの問い合わせも数多くあったみたいだし、当然かな」
「うわあ……。ティルエル、注目の的だね。世界中の偉い人が気にしてるみたいだよ」
「そんなに悪いことをしましたか……?」
確かに、使ってはいけない魔法を今も使い続けているのはだめだと思う。でもさすがに、いろんな神様、しかも偉い神様たちが気にするほどでもないと思ったのに。
いろんな神様とお話ししてみたいとは思うけど、偉い神様と会いたいかと聞かれれば、さすがにちょっと悩むところだから。
だって、絶対にそんな神様だと、わたしを一瞬で消してしまうことだってできるはずだ。しかもウンエイ様はわたしの世界を作ったから躊躇ぐらいしてくれるだろうけど、その上の神様ならきっと躊躇なんてしない。よし消そうと消されてしまうかも。
消されたら……死んだらどうなるんだろう? それがとても、怖い。
「よしよし。大丈夫だよティルエル。そこまで悪いことにはならないはずだから」
「そう……ですか?」
「うん。逆にティルエルはどんな想像をしたの?」
「人体実験とか……? 異世界の人は珍しいから、とか」
「日本で人体実験はないはずだから……」
それなら安心、なのかな? 何かあっても転移魔法で逃げようと思えば……。あ、でも、神様に捕まったら、転移魔法なんて封じられてしまいそう。うぅ、神様の世界も怖いところだ。
「サキが言う通り、心配しなくても大丈夫だよ。みんなティルエルの話を聞きたいだけさ。君も言った通り、異世界の人が来ることなんて珍しい……どころか、初めてだから」
「そうなんですか? でも、神様はたくさんの世界を作っているんですよね? だったらわたしみたいに、興味を持つ人はいると思います」
「あー……。なんて言えばいいのかな……」
ウンエイ様がサキ様と視線を合わせた。サキ様が首を振って、ウンエイ様がため息をついてる。なんだろう、話しても無駄、みたいな雰囲気だった。
「うーん……。そう、だね……。確かに、僕たちはいろんな世界を作ってる。ゲームとして」
「はい! すごいです!」
「う、、うん……。でもね。君みたいに、自分で考えてこっちの世界に来る、なんて考えられなかったんだよ」
「え……?」
それは、どうしてだろう。そう思って、すぐに思い当たるものがあった。
あっちの世界での、わたし以外の住人。生きているのかすらよく分からない人たち。もしかしたら、本来わたしたち作られた命は、あの状態が普通なのかもしれない。
つまり、わたしがおかしい。
「わたし、やっぱり捕まって解剖とかされたりしませんか!?」
「落ち着こう? どうしてその発想になったのかはよく分からないけど、ないからね。はいなでなで」
「えへへ……」
サキ様に落ち着くように言われて撫でられる。このなでなでがとても好きです。
「本当に……仲がいいね……」
「一ヶ月も一緒に暮らしてたらね。この子がすごくいい子というのはよく分かるし」
「一ヶ月……か……」
「どこかの誰かが音信不通だった期間だね」
「すみませんでした」
たっぷり撫でてもらって、満足した。サキ様はとってもいい神様だ。わたしもサキ様は一番信頼してる。サキ様と一緒にいたら、きっと安心だ。
壁|w・)サキのお父さんは開発の室長みたいなポジション……になる……のかな……?




