19 神様がたくさん集まるイベント(即売会)
そんなことより、次の場所だ。電車にまたしばらく揺られて、サキ様に案内されて電車を降りて。そのまま連れられていった先は、大きな建物。三階建てと高さはこの国の建物にしては低いかもしれないけど、横にとても大きい。いつかのデパートぐらいはある。
「この二階だよ」
「はあ……」
もしかして、お父さんに会う前に買い物をする、ということかな。やはりお父さんというすごい神様に会うためには、もう少し衣服とかをどうにかしないといけない、とか……。
そんな予想は見事に裏切られた。
「な、なんですかこれ……」
「即売会って言えばいいのかな? まあ……お祭りみたいなものだよ」
とても広い部屋に、たくさんのテーブルが並んでいた。これは……買い物をしてるみたい。ほとんどが本を売ってるみたいだけど、本ではない何かを売ってる人もいる。
「みんな自分が作った本を売ってるんだよ」
「自分で……!? 作る!?」
なにそれ!? 本って自分で作れるの!? すごい……! そんなこと、考えもしなかった! わ、わたしも作れるのかな!? 魔法の本を作ったら、この世界の人たちに読んでもらえたりとか……!
「どうですか!?」
「大混乱になるからやめようか」
「ええ……?」
どういうことだろう? 魔法を封じてるだけなら、わたしの魔法の理解ぐらいは簡単だと思うけど。むしろ添削してほしいぐらいに。
「ここで一番多いのは漫画かな」
「漫画ですか」
「うん」
サキ様がテーブルの一つに近づく。そこでも神様たちがやっぱり本を売っていて、サキ様はそこで本を一冊買っていた。それをわたしに渡してくる。
「こういうのだよ」
「おー……」
なるほど。サキ様の家にも漫画はあったけど、これを自分で作って……。いや、待って。魔法の本なんかよりすごくない? だって、全部絵だよ?
わたしははっきり言って、絵は描けない。絵を描けるのはそれだけで才能だと思う。それなのに、ここの人たちはみんな絵を描いて本にしてる……? なにそれすごい。
「す、すごいです! 皆さんすごいです! とてもすごい!」
「だよね。私もすごいと思う」
「この漫画も……絵が綺麗です! すごい!」
「あははー」
だそうです、とサキ様が振り返る。ちなみに本を渡された直後だったせいで、この本を売っていた人たちはすぐ側にいた。二人いて、二人ともどことなく照れ臭そうだった。
わたしの……適当すぎる評価を聞かれてしまった……? それはそれで恥ずかしい! もっと、こう、言葉を尽くして、美麗な言葉を……。
わたしがそんなこと言えるわけがない! とにかくすごい、綺麗、ただそれだけ!
「すごいです! 綺麗です!」
ストレートにそう叫ぶと、本を売っていた二人は恥ずかしそうに頬をかいて、ありがとう、と言った。ありがとうはむしろわたしのセリフだ。
だって、こんなに綺麗に……わたしの世界を……。…………。あれ?
「あの。サキ様」
サキ様を呼ぶ。わたしの表情で察したのか、サキ様はいたずらっぽく微笑んだ。
「うん。この辺りの本は、全部ティルエルがいる世界に関わることを描いてるよ」
「それは……!」
知っていたつもりだった。わたしの世界には、たくさんの神様が来てる。サキ様だけじゃない。いろんな神様だ。それは、分かっていたつもりだったのに。
まさかこんなにたくさんの人が、わたしの世界について本にしてくれているなんて思わなかった。予想以上だ。
「だから、ティルエル」
「はい」
「帽子、取らないでね」
「え? あ、はい。分かりました……?」
今日、わたしは帽子を被ってる。黒いキャップ帽というもの。サキ様から、今日は目深に被っておいてねと言われていて、新幹線から降りてからはずっと被ってる。
間違っても、わたしの姿を見られるわけにはかないのだとか。
うーん……。どうしてだろう? よく分からない。
他の人の本も見たいと言うと、サキ様と一緒に回ることになった。サキ様のお父さんを待たせることになる、と思ったんだけど、サキ様が言うには約束の時間までもうちょっとあるのだとか。
だからもう少し見ていい、ということで、いろいろと見て回ることになった。
「あ、でも、注意が一つ。あそこの場所は行かないでね」
サキ様が指で指し示した場所は、この部屋の隅。あそこは若い人では買えない本があるのだとか。もしかして、危険な魔導書とか……?
「いや、違くて。えっと……。えっちな本、とか?」
「見てみたいです」
「だめだからね?」
だめらしい。どんな本か想像もできなかったから見てみたかったけど、諦めよう。
他の本は……。あれ、これって。
「サキ様。これは……」
「お。ティルエルが主人公だね。ティルエルも結構人気だからねえ」
「わたしが……主人公……」
それは……それはいいの? わたしなんかを主人公にして。正直わたしは魔法の研究しかしてなかったよ?
それを言うとサキ様は、少し考える素振りを見せて、
「主人公といっても、題材にした、みたいな感じかな?」
「題材、ですか?」
「そうそう。例えば、ティルエルが仲間にいたら、とか」
「はあ……」
なんだろう。よく分からない。
読んでみたい、と言ったら、これもサキ様が買ってくれた。それじゃあ、早速……。
わたしが、勇者パーティと巡り会って、一緒に冒険する話。そんな内容だけど……。なるほど。わたしをモデルにしただけで、本当にあった話を書いてるわけじゃないってことだね。
でも……。どうしてわたしなんだろう? 自分で言うのもなんだけど、わたしは自分の部屋に引き籠もっていただけなのに。
「いやあ、ティルエルは人気あったから」
「はあ……?」
「ちっちゃい。かわいい。その上ぶっちぎりで強い。まあ、みんな、いろいろ描きたくなるよね!」
そういうものらしい。わたしには分からない感覚だ。
さらに読み進めようとして、
「あっ!」
そんな声。振り返ると、見知らぬ神様がいて、持っている紙袋の底が抜けていた。本が散乱してしまってる。その神様が慌てて本をかき集めてる。
「手伝います」
ここは神様のお役に立つ場面! おやくだちです!
「あ、いや! だめだ! いいから!」
そんな神様の声に手を止めようとしたところで。
その本を、手に取ってしまった。
「え……」
表紙は……わたし。間違いなく、わたし。
でも……。なんだろう。わたしが……変な蔓みたいなものに、襲われていて……。えっと、その、変な表情をしていて……。
「はいこっちに来てね!」
サキ様がわたしの体を抱き上げた。
「お兄さん! もうちょっと注意してね!」
「ご、ごめん! 本当にごめん!」
サキ様と駆け足でその場から離れる。そうして向かった先は、階段。ちょっとした休憩所になってるみたいで、わたしたちの他にも何人か人の姿があった。
階段に座らされる。わたしは……されるがまま。
「えっと……。大丈夫?」
「は、はひ……。大丈夫、れす」
「重症だね!」
あれは……。あれが、えっちな本……? いや、でも……。わたしで? だって、わたしは実年齢はともかく、わりとこんなで……。えっと……。その……。
「うわあ……。ゆでだこみたい。真っ赤だね」
「あ、の……。その……。さっきのって……」
「うん。落ち着こうか。はい、ジュース」
「つめたいっ」
頬に押しつけられたのは、缶ジュース。買ったところなのか、とても冷たい。今はその冷たさが心地良かった。
その冷たさを頬で感じて、一息つく。とりあえず……。ちょっと落ち着いてきた、かも。
「サキ様……。さっきのって……」
「ティルエルの想像通りだよ。まあ、ティルエルは結構人気だから……」
「はあ……」
「特に最近のいろいろもね」
「あー……」
目立ってしまっていること、だよね。まさかこんな影響があるとは、さすがに思ってもみなかった。本当に……。びっくり、だね。
よし……。よし。ちょっと落ち着いてきた、かな? まだちょっと顔が赤いと自分でも分かるけど。
「落ち着いてきたらそろそろ次に行きたいけど……。もうちょっと休憩する?」
「いえ! 大丈夫です!」
「そっか。じゃあ、次に行こう」
サキ様に手を引かれて、階段室を後にする。次はどこに行くんだろう? そろそろ、ウンエイ様に会いたいなとも思うんだけど。
いやでも、こうして神様の娯楽について学ぶのも楽しい……。わたしは、どっちを優先するべきなんだ?
「ティルエル?」
「サキ様に……委ねます……」
「なにを!?」
後回しにしたからといって、ウンエイ様に会えなくなるわけではなさそうだし、このままサキ様についていこうと思う。
壁|w・)えっちぃものに耐性がない年齢不詳魔女さん。




