15 火事と救助
転移した先は、立ち上る煙のど真ん中。転移する直前に結界を張っておいたから、煙ぐらいなら大丈夫だ。好きこのんでここにいたいわけじゃないけど。
煙の中から脱出して、眼下を見下ろす。その様子を。
燃えているのは五階建ての建物。二階から上が炎に包まれて、周りの建物も少し巻き込んでる。延焼するのは時間の問題かな。
まずは……魔法で、服を変える。この服はサキ様からいただいた服だから、汚したくない。そうしてから、私は空からゆっくりと下りていった。
「すみません」
話しかける相手は、周りで様子を見守る人たち。忙しそうにはしていないからちょうどいいかなって。
「ああ、なに……、って、ええ!?」
その人たちは、わたしの姿を認めると驚いたような声を上げた。神様のルールを無視して空を飛んでいるんだから当然の反応かな。あとでまたサキ様に怒られるかも。
「中に人が取り残されていますか?」
「え、あ、その……。二人、残されてるって……」
「分かりました」
火を消すのは簡単だけど、巻き込んで二人の神様に何かあったら後悔してもしきれない。だからまずは、救助をしよう。
建物の中から感じる生命力を調べる。えっと……。よし。二人ともまだ生きてるね。
「じゃあ、ちょっと助けてきます」
「え」
わたしはそう言うと、二階の窓から飛び込んだ。
うん。気のせいかな。サキ様の、やりかたぁ! という叫び声が聞こえたような気がする。いやきっと気のせいだね!
中は煙が充満してる。わたしは魔法でどうとでもなるけど、魔法を制限してる神様だと辛いと思う。こういう時ぐらい魔法を使ったらいいのに、ストイックというかなんというか……。
魔法で炎と煙を飛ばしながら生命力の方へと歩いて行けば、すぐに人を見つけることができた。初老の男性。話しかけても反応はないけど……。生きてはいるみたい。なら良し、ということで。
次は、三階の部屋。男性に治癒魔法をかけて、宙に浮かせて、さらに炎と煙避けの魔法もかけて……。これで運んでいこう。
廊下を歩いて階段へ向かう。火がすごいけど、少しずつ消されてはいるみたい。魔法を使わない代わりに、水をかけるという手段を取ってるみたいだね。
それでもここで帰ったら、さすがにもう一人は危ないと思う。本当に命の危機になったら魔法ぐらい使うだろうけど……。
階段を上がって、廊下に出る。すぐ側の部屋のドアを開けて……。鍵がかかってる。身体強化の魔法を使って……ドアを蹴破る。これは……さすがに、怒られない、よね?
部屋に入ると、六歳ぐらいに見える女の子がうずくまって泣いていた。
「おかああさあああん!」
すっごく泣いてる……。神様でも、やっぱり幼い神様はあんな感じみたい。なんとなく親近感、だね。
「大丈夫?」
声をかけると、女の子がこっちを見た。涙のたまった目でじっと見つめてくる。
「ひぐっ……。だれ……?」
「えっと……。魔女。あなたを助けに来た」
女の子を撫でてあげる。不敬かもしれないけど、こうされるのが一番落ち着くはずだから。
女の子がぽかんとしていたけど、わたしにぎゅっとしがみついてきた。よしよし、怖かったね。大丈夫、わたしがちゃんと助けてあげるから。
「それじゃあ、行くよ」
女の子の手を繋いで部屋から出る。階段は……崩れかけ、かな? さすがに歩いて戻るのはだめそう。
じゃあ、窓から、ということで。
「反対側の部屋の窓から出るよ」
「え? う、うん」
反対側のドアを蹴破って、窓へと向かう。窓の鍵は単純だったから、手で開けて……。それじゃあ、出よう。
「お、おねえちゃん、危ない……!」
「大丈夫大丈夫」
女の子の手をしっかり握って、窓から飛び降りた。
「うわあ!?」
「お、おい! 人! あそこ!」
「な……!?」
地上にいる人たちの声が聞こえてくる。空を飛ぶ、という前提がなかったら確かに危ない行為だ。でももうわたしは怒られることがきっと確定しちゃってるから、遠慮する必要もない。
ふわりと宙に浮かべば、わたしの腕にしがみついていた女の子がきょろきょろと周りを見回し始めた。空を飛んでいることに気がつくと、口をあんぐりと開ける。なんだろう、ちょっとかわいい。
この子と男性はどこに連れて行けばいいかな? 地上を見渡していたら、
「ヒカリ!」
そんな女の人の声。そっちを見たら、妙齢の女性が両手を上げて叫んでいた。多分、女の子の名前だ。それじゃああの人は……。
「おかあさん!」
うん。そういうこと、だね。じゃああの人の側に下りよう。
ゆっくりと地上に下りて、女の子も地上に下ろしてあげる。すると女の子はすぐにお母さんに走って行って、二人はしっかりと抱き合った。
うん……。よかった。これで、一安心。いや待って、もう一人いる。
「すみません」
呆然とこっちを見ている人に声をかける。オレンジ色の服を着た人だ。同じような服を着た人が長いホースで火の上がる建物に水をかけてるから、この人たちが消火をする人なんだと思う。
わたしが声をかけると、その人ははっと我に返ったようだった。
「この人、助けてきました。任せてもいいですか?」
「は、はい! もちろんです! ご協力ありがとうございます!」
問題ないみたい。すぐに男性が運ばれていく。
「治癒魔法をかけてあるので、すぐに気がつくと思います」
「ち、ゆ……。え……?」
何故か、信じられないものを見るような目で見られてしまった。こんな緊急事態でも、魔法はやっぱりだめらしい。
「お、おい。今魔法って……」
「うっそ……本物?」
「マジで?」
そんな声も周りから聞こえてくる。これは……あとでお叱りがあるやつだ! サキ様にいっぱい怒られるかも……!? い、今からでも目立たないように……。手遅れだね!
うん。開き直ろう!
「あと……。火は全部消しておいてもいいですか?」
「え? その……それは……魔法で?」
「はい」
オレンジの人は小さくつばを飲み込んで、ゆっくりと頷いた。これで同意は得られた、といことで。だからこれからやることに私の責任はありません。ないったらない!
それじゃあ、まずは建物を覆うように魔力の膜を張る。水が弾かれるようになったせいでオレンジの人たちが慌ててるけど、すぐに終わるから待ってほしい。
さらに魔法を構築。建物の上に巨大な水球を作る。建物を全部包める量の水だ。
次に魔力の膜の上部を解放して、幕の内側を水で満たした。
はい。これで消火完了。あとは水と魔力の膜を消してしまえば、片付けをするだけ。さすがに片付けは神様たちに任せてもいいよね?
「終わりました」
オレンジの人に声をかけると、口をあんぐりと開けたままこっちを見た。それは、どういう反応?
「いや……これは……すごいな……。本当に、魔法……?」
「聞いてもいいでしょうか」
「あ、ああ。何を……」
「どうして魔法を使わないんですか? そこまで制限しなくてもいいと思うのですが」
疑問に思ったことを聞いてみる。魔法を制限する、というそのものの意図は分かるけど、こうして命が失われようとしている時までやることじゃないと思う。
だって、神様の命だ。わたしたちみたいなものの命じゃない。とても、大切なもの。それを守る時ぐらいは使っても……。
「は……? いや、僕たちは魔法なんて使えないが……」
「え?」
魔法を……使えない? 使わないじゃなくて? 神様が? いや、でも、そんなはずは……。
ばたばたと周りが騒がしくなってきた。ぐるりと周りを見たら、なんだか大きな黒い筒のようなもの……。カメラ、だっけ。それを持った人がこっちに来ようとしているのが分かった。
オレンジの人たちが危険だからと止めてくれてるけど、きっと時間の問題だと思う。邪魔にならないうちに帰ろう。きっとサキ様が待ってるから。
「すみません。失礼しました」
目の前のオレンジの人に頭を下げて、すぐにそこから転移した。
魔法を使えない……。どういうことだろう。サキ様に聞いてみよう。
壁|w・)ひとだすけ!




