14 神域の飲食店(フードコート)
向かった先は、七階。七階の半分はテラスになっていて、そこで休憩できるらしい。フードコートというものになっているのだとか。
「エスカレーターで上がろうか」
「えすかれーたー?」
「見れば分かるよ」
サキ様に連れられて向かった先で見たものは。
動く階段だった。
「ななななんですかこれ階段が動いてるううう!?」
「いい反応するなあ」
「魔女のおねえちゃんおもしろい!」
いやだって! 階段が動いて……! え、これどうなってるの!? どうして下から階段が出てきてるの? こういうところで亜空間の魔法を使ってるということ?
「ほらほら、乗って乗って」
「は、はい……!」
ちょっと怖かったので、ハナ様に手を繋いで並んで乗ってもらった。いやだって、この先が分からなくて怖いから……。
動く階段、エスカレーターの先。階段が終わるということは、この階段もまた亜空間に入っていっているということなのでは? もしも失敗して亜空間に入ってしまったら……。
ど、どうしよう。すごく怖い。平然と乗れる神様はやはり神様なんだ……!
そうして、すぐに階段の終わりが見えてきた。階段は勝手に折り畳まれて、床の中に消えていってる。やっぱり亜空間の魔法だ……!
いやでも、魔力は感じない。つまりこれは、亜空間の魔法に似た別の何か……! すごい! 気になる! 調べたいけどその前に怖い! これ巻き込まれたら死んじゃうのでは!?
「魔女のおねえちゃん、おりるよ?」
「は、はい!」
ハナ様と一緒に、エスカレーターを降りる。最後は小さくジャンプして、エスカレーターから離れた。
サキ様は平然と歩いて降りていたけど、怖くないのかな……。それとも、神様は亜空間に巻き込まれた程度じゃどうにもならない……?
「おーい、ティルエル、戻っておいでー」
「は!?」
サキ様に声をかけられて我に返った。今考えることじゃないよね。それよりも、ご飯だ。
七階に到着して、その部屋を見回す。とても広い部屋で、壁際にたくさんのお店が並んでる。部屋の真ん中あたりは飲食スペースみたいで、たくさんのテーブルが並んでいて、いろんな人が食事を取っていた。
お店のない壁には外への出入り口もある。テラス、だね。たくさんの草花が植えられているのがここからでも分かる。木まであるけど、どうやって植えたんだろう。分からない。
「ティルエル。ごはんは?」
「そうでした!」
まずはご飯! 食事! あの暴力的な香りの料理を食べたい!
サキ様に連れられて向かったお店は他の神様も並んでいたけど、わりとすぐにわたしたちの順番になった。
「焼きそば並を二人、小を一人、あとたこ焼きの十個入りをお願いします」
「ありがとうございます! 少々お待ちを!」
麺が熱された鉄板の上に盛られて、店員さんをしている神様が手際よくほぐしていく。そのほぐされた麺にソースを投入。ソースの焦げた香りが鼻をくすぐってくる……。
これが! わたしの感じた香りの正体……! 食欲をそそるいい香りだね……!
ささっと作り終えたみたいで、使い捨てというパックに入れられて渡された。
ああ……。手元に渡されると、さらに香りが強くなった気がする……。こんなに美味しそうな料理があったなんて……! 神様! 感謝します! つまりサキ様に感謝します!
「なんか寒気がした……! ほ、ほら! 外に行こう!」
「うん!」
「はい!」
サキ様に手を引かれて、外に続くドアから外へ。
「わあ……」
他の摩天楼に囲まれているから景色がいいとは言わないけれど……。それでも、すごい景色だ。魔法で空を飛んでいるわけでもないのに、こんなに高い場所から世界を見渡せるなんて……。
驚くべきところは、この建物が一番高いというわけじゃないこと。むしろ周りの建物の方が高いものが多い。サキ様が言うには、この国の首都にはもっともっと高い建造物があるのだとか。
もう想像もできない……。一度見てみたいなあ。
わたしたちは空いているテーブルについた。ここでお昼ご飯だ。他の神様も多いけど、室内よりは落ち着いて食べられる気がする。
それじゃあ……。早速。
パックを開けると、あの香りが一気に噴出してきた。ソースの香りが鼻に直撃して、これはもうたまらない……! フォークを手に取って、一口食べてみる。
「……っ! 美味しい!」
すごく濃厚な味! 食べたことのない味だけど、これはとても好きな味だ! これが、ソースの味! そんなソースがたっぷりかかったこの麺は、それだけで最高の料理に思える。
「こっちも美味しいよ。たこ焼き」
「たこ焼き……」
たこ、というのは分からないけど、食べてみよう。これは、爪楊枝、というものを刺して食べるみたい。それじゃあ、早速。
「あっふ……! あふい! ふぁ、あふ……!」
「あっは………! あはは……!」
サキ様にものすごく笑われてる……! さては、わざと……!?
そういういたずらに使う食べ物なんだ、と一瞬思ったけど、サキ様は笑いながらもたこ焼きを食べた。はふはふ、と口の中で少し冷まして食べてるみたい。なるほど、そうやって食べるんだ……。
同じようにやってみる。はふはふ……はふはふ……。わあ、これもなかなか、美味しい! ソースをたっぷりかけてくれていて、幸せの味だ!
丸いたこ焼きは、外が少しだけカリッとしていて、中はとろとろ。こんな食感は初めてで、それがちょっと楽しい。さらに中には、不思議な弾力の食べ物。これが、たこ……?
「サキ様。たことは何ですか?」
「んー?」
サキ様がスマホを取り出して、ささっと操作する。あの小さな道具でいろんなことが調べられるというのは、やっぱりとてもすごい道具だと思う。
少しして、サキ様がスマホの画面を見せてくれた。
たくさんの足を持つ、化け物がいた。
「な……!? 魔獣、ですか!?」
「いや、普通の生き物だよ。ティルエルはこれを食べたというわけ」
「そんな……!」
こんな気持ち悪いものを食べてしまっていたなんて……! 自分で自分が信じられなく……。あ、いやでも、結構美味しかったよね……。うん。いっか。
「一瞬で立ち直ったね……」
「おいしければいいやと思いました」
「あはは。ティルエルは日本で暮らしていけると思うよ」
どういうことだろう? よく分からないけど、今はこの美味しい料理を堪能したいと思います。ソース最高……!
料理を食べて、のんびり一息。今日はもう他に用事もないらしくて、のんびりしていっていいとのこと。
「さらにここはフリースペース! 持ち込んだお菓子も自由!」
「おかし!」
「お菓子、ですか?」
そういえば、この世界に来てまだお菓子は食べてない。以前お礼で勧められたけど、結局食べてなかったから……。
サキ様がかばんから取り出したのは、色とりどりに包装されたお菓子、らしきもの。サキ様が言うには、ポテトチップスのうす塩にチョコレート、それにグミと。
ポテトチップスとチョコレートはわたしの世界にもある。だから味はなんとなく予想ができる。だからこそ、それから食べてみたい。まずは分かりやすいものから、と……。
「うすい……!」
ポテトチップスがとても薄い! わたしの世界でもできるだけ薄く切るようにはされてたけど、こんなに薄くはなかったはず。それに味も、うす塩なんて言いながら、ほどよいバランスの塩味になってる。お菓子だけでこんなにすごいなんて……。
チョコレートも、予想以上に甘い。もっと苦みのあるお菓子だと思っていたのに……。この形にするまでに、いろいろと混ぜているのかも。
最後に、グミ。果物の味を感じられるお菓子で、これの何がすごいってその食感だ。なんだろう、言葉にできない不思議な食感。固いわけじゃない、むしろ柔らかい気がする、でも簡単に噛みちぎることはできなくて……。噛んでいて、とても楽しい。
「すごい……すごいです、サキ様……!」
「あはは。喜んでもらえたのなら嬉しいよ」
本当に……こんなお菓子があるなんて……!
そうして三人でお菓子を食べていたら、その声が聞こえてきた。
「あれ、なんか煙出てない?」
「どこ? あ、ほんとだ。ちょっと遠いかな……?」
周りからの、そんな声。煙、つまりはどこかで火の気があるということ。料理程度の煙じゃないだろうし、なんだろう?
「おねえちゃん、あっちがわ」
「うん……。ちょっと見えるね」
ハナ様が指し示した方を見ると、確かに少し遠くの方で煙が上がっているのが見えた。結構な量の煙が上がってる。これは……。火事だ。
サキ様がスマホをさっと操作して、なるほどと頷いた。
「ちょっと遠いけど、結構大きな火事みたい。ここには影響なさそうだけど……」
「やはり火事ですか。神様はどうやって消すんですか?」
「え?」
「え?」
サキ様と顔を見合わせる。サキ様は一瞬言葉に詰まったようで、視線を上向かせた。そうして、戻して、言った。
「ティルエル。私たちに、火事を簡単に消す手段なんてないよ」
「え……」
それは。とても、衝撃的な言葉だった。
だって、世界すら作る神様たちだ。火事ぐらい消すことなんて簡単なはず……。ああ、そっか、別に神様は死ぬわけじゃないから、それほど重大なものとして考えては……。
「ちなみに。逃げ遅れた人がいるみたいだから、その人は死んじゃうかもしれない」
「え……」
神様が、死ぬ? いやだって、そんな……。仮に死ぬのだとしたら、どうして火を消そうとしないの? さっさと消せばそれで解決のはずなのに。
「ティルエル。私たちは、ティルエルが思っているほど万能じゃないんだよ」
「それは……」
それは……いや、でも……。世界を作った神様だよ? そんなこと……。そんなこと、あり得るはずがない。
少し考えて、なるほどと頷いた。
「以前出会ったおばあさんも、体がもう老いているのに魔法は一切使いませんでした。それと同じなんですね」
「はい?」
「例え自分の命が危なくても、魔法を使わないことを徹底する。範を示す、というものですね! さすがは、神様です……!」
何故か。何故かサキ様は、顔を歪めてしまった。どこか悲しげで、そして寂しげな顔。それを見るのは、少し辛くて。
だから。
「でも、それはわたしには関係のないことですし……。ちょっと、行ってきますね!」
そう言った。必要ないかもしれないけれど、やっぱりここは制約なんて関係のないわたしが行くべきだと思ったから。
「分かった。ここで待ってるね」
「魔女のおねえちゃん、気をつけてね」
そんな二人の言葉に、わたしはしっかりと頷いて転移した。
壁|w・)おかし!
次回は、火事の現場に乗り込みます。




