13 神域の市場(デパート)
電車を降りて建物を出た先に見えた景色は、摩天楼。しかもいくつかある、なんてものじゃなくて、摩天楼が建ち並んでる。なにこれ。
「ささささきさきききさま!」
「はーい。落ち着いてね」
「むにゅ」
サキ様が両手で私の両頬を挟んでくる。むむ、サキ様の肌の温もりが心地いい……。いやそうじゃなくて。
「な、なんですかここ! どこですかここ!」
「都会だよ。すごいでしょ」
「すごいなんてものじゃないですよ……!」
こんな建造物をいくつも作れるなんて……! どこまで、神様はわたしの想像を超えてくるんだろう……!
サキ様が言うには、こんな建物がいくつも建っている場所は神様の世界でもそこまで多くないとのこと。とのことだけど……。むしろこんな場所が他にいくつもあることの方が驚きだ。
確かにわたしの世界にも高い建物はいくつかある。いくつかあるけど、それでもここの建物よりは低いはず。
山をくりぬいた、とかでもないよね、これ。こんなにたくさんあるわけだし……。
「ふわあ……」
「あはは。お上りさんだね」
「はっ!?」
慌てて周囲を見回すと、何人かの人がなんだか微笑ましそうな視線で見ていた。ちょっと恥ずかしい。神様たちからすると、こんな場所はそこまで驚くほどのものじゃないみたい。
「ほらほら、驚いてないで次に行くよ。ハナも、迷子になったらダメだから手を繋ごうね」
「はーい!」
サキ様とハナ様が手を繋いで歩き始める。わたしもその後を追って……。
あれ、なんだかいい香りが……こっちかな……。
「おいこら待て」
「あうっ」
頭に衝撃を感じて振り返ると、サキ様が手をまっすぐに突き出していた。えっと、チョップ、というものをされたみたい。何か怒らせることを……。ついていかなかったからだね!
「どうして違う場所に行こうとしたのかな?」
「えっと……その……。いい香りが……」
「お腹減ったの?」
「いえ、そういうわけでは……」
勘違いされたことがとても恥ずかしい……! いや、本当に、お腹が減ったわけじゃないんです! ただちょっとこう、暴力的とも言えるような香りが……。
「くんくん……。なるほど。焼きそばか何かかな。ソースの焼ける香りだねこれ」
「焼きそば、ですか?」
「そ。あとはたこ焼きとか」
「たこ焼き……」
なんだろう。どれも美味しそう。た、食べてみたい……!
でもさすがにサキ様にお願いするわけには……。買ってもらうとしても、サキ様のお金になってしまうだろうし……。わたしの世界の金貨とか、使えないかな……?
「ティルエル」
「は、はい!」
「今から行く先にも同じような場所があるから、もうちょっと待ってね」
「はい!」
それはつまり、期待していいってことですか!? ことですよね! 楽しみ!
「放っておくと迷子になりそうだから、ティルエルも手を繋ごうか」
「はい!」
「うーん……。妹が二人になった気分だね」
サキ様の妹! なれるのならなりたいですね!
何故か苦笑いを浮かべるサキ様に連れられて、移動を開始。そうして歩くこと、五分ほど。到着した。すぐ側の建物だったみたい。ただどれも大きな建物で、わたしからするとどれがどれかはよく分からないけど。
「ここがデパート。この中のほとんどがお店」
「この建物のほとんどが……!?」
「すごいでしょ」
「すごいです!」
しかもサキ様の話だと、こういった建物は他にいくつもあるらしい。それだけこの世界には物が溢れていて、そしてそれを維持するだけ消費されているということ。
スケールが違いすぎる。やはり神様は、やることの全てが規格外だ。
サキ様に連れられて建物の中に入ると、そこはまたとんでもないところだった。
商品、と思われるものが大量に並んでる。一階は女性向けの服とかアクセサリーとかが置いてあるんだとか。フロア全てがそういった商品。わたしの世界の王都でもここまでじゃない。
「まずは服を見るよ」
「サキ様とハナ様のですね。どんな服なのか楽しみです」
「魔女のおねえちゃんの服だよ?」
「え」
わたしの……わたしのふく!? なんで!? どうして!?
混乱するわたしを、サキ様が引きずっていく。いや、待って。わたしに服なんか必要なくて……魔女としての服は魔法でいつも清潔に……。
「ティルエルの魔女の服、この世界で動き回るには目立ちすぎるからね」
「うぐぅ……」
正論すぎて何も反論できない! 分かってます、明らかにこの世界の人たちの服装と違いすぎますよね! 目立ちますよね! 知ってた!
というわけで、一時間近くかけて服を選んで、その上買ってもらった。サキ様への恩がどんどんと積み重なっていく……。
「もうちょっとおしゃれすればいいのに」
「わたしは……地味な方が好きです……」
「ふうん」
灰色や黒を基調として服を選んでもらった。サキ様はちょっと不満そうだけど、あちこちで歩いている神様みたいな服装はわたしには似合わないと思う。
「絶対に似合いません」
「そんなことないと思うけどなあ」
「それに目立ちたくないです!」
「ぶっちゃけ、その長い銀髪ですでに目立つけどね」
「そ、それは……!」
周りを見る。ほとんどの神様が黒髪。金髪や赤髪とかも見かけるけど、サキ様が言うにはわざわざ染めてる人がほとんどだとか。
別の国の人だと髪色が違うらしいけど、それでもこの国、日本では黒髪が普通。確かにわたしの銀髪はかなり目立つと思う。
でも……それでも! 髪が目立っても! 服装は地味なものに!
「無理強いはしないけどね。本人が気に入るのが一番だし」
「あ、ありがとうございます……。あと、お金……」
「いいから。結構余裕あるしね」
「わたしが持っている金貨とか換金できますか? 純金ですけど」
「やめて。遠慮とかそういうのじゃなくて、いろいろ問題になるから。やめて」
金の売買にはいろいろ面倒な手続きがあるってことかな? それなら、うん。やめておいた方がよさそう。ちょっと違う方法を改めて考えないといけない。
「お金を得るのって難しいですね……」
「ティルエルの見た目でそれを言うのはすさまじい違和感があるよ」
そういうものらしい。
次に来たのは、五階。ここには家具とかインテリアとか、そういうものがあるとのこと。何を買うのかなと思ったら……。
「まずは布団。さすがに毎日三人でベッドで寝るのは窮屈だからね……」
「せまいね!」
「す、すみません……」
全面的にわたしが悪いから何も言えない……! いや、でも! わたしは床で寝ても問題ないんです! 本当に!
でもやっぱりそれは認められないみたいで、布団を買うことになった。
「本当はベッドがいいけど、できれば今日持って帰りたいから。ベッドを買ったら、配送とか頼まないといけなくなるからね」
「わたしの亜空間に入れれば大丈夫ですよ?」
「うん。あのね、ティルエル。普通は亜空間とか使えないから」
「はあ……。神様は不便を楽しんでいるんですね……」
「いや、使えないって、使わないからという意味じゃ……。いや、まあ、いいか」
便利に慣れないように、という神様たちの意図は理解できるけど、それでもこういう時ぐらいは制限しなくてもいいと思う。わざわざ誰かに持ってきてもらうぐらいなら、自分で持って帰った方がいいと思うんだけど……。
いや、神様には神様の考えがあるはず。わたしには考えつかないような深謀遠慮があるはず……! それをまずは考えないと!
「おねえちゃん、魔女のおねえちゃんがまた変な顔してる」
「変な顔!?」
「あははー。ティルエル、変なこと考えてないでお布団選ぶよー」
「あ、はい!」
そう、そうだ。まずはお布団選び。サキ様のことだから、わたしに選ばせようとするはず。ちゃんと考えないと怒られてしまう。
そうして、悩んで悩んで決めたのは。
「寝袋……だと……?」
「はい!」
持ち運びができるお布団。寝袋というものらしくて、コンパクトにして持ち運びがしやすいもの。広げて包まれば温かく眠れる優れものだ。
わたしの世界にも似たようなものはあったけど、こんなに温かいものじゃなかった。これは、本当にすごい。あったかぬくぬくコンパクト。素晴らしい。
「まあ、持って帰りやすいからいいけどね」
「お布団の場合はどうするつもりだったんですか?」
「階段室まで運んで亜空間に、かな」
誰にも見られなければ使っても問題ない、ということかな? 神様のルールは難しい。
他にもいろいろ買ってもらってしまった。わたし専用のお茶碗とか、マグカップとか……。至れり尽くせりで、なんだかすごく申し訳なくて、でも嬉しくて……。
「えへへ……」
「あは。喜んでもらえたのなら、来たかいがあったよ」
うん……。うん。とても嬉しい。プレゼントなんてもらったことがなかったから、特に。
マグカップとかはハナ様に選んでもらった。黒い猫が描かれたマグカップ。わたしには似合わなそうなかわいらしいもの。ちょっと恥ずかしいけど……。なんだかぽかぽかする。
そうしてお買い物が終わったら、お昼過ぎ。そろそろ帰る時間かな?
「ちょっと遅くなったけど、お昼ご飯にするよ」
「お昼ご飯……!」
あの! 美味しそうな香りのものを! 食べられる……!
壁|w・)自分の世界でも使える寝袋になりました。




