12 神様の乗合馬車(電車)
翌日以降は、わたしはちゃんと部屋で大人しくしていた。テレビを見ながら、いくつかの本を読む毎日。とっても充実してる。
テレビでは毎日のようにわたしの映像が流れていたけど、三日もすれば落ち着いてくれた。サキ様が言うには、ほとんど目撃されなくなったから、らしい。いずれ誰も気にしなくなると思う、だって。
それなら安心。何度も恥ずかしい場面をテレビで届けられて、本当に居たたまれなかったから……。
そうして、週末。土曜日。サキ様もハナ様もお休みらしくて、今日はお二人と出かけることになった。わたしは、この黒いローブが目立つから、それさえどうにかして帽子を被れば案外大丈夫だろうとのこと。
「その黒いローブって着ておかないとだめっていうことはないよね?」
「はい。大丈夫です。結界のようなものなので」
「結界?」
このローブはわたしの自信作の魔道具だ。このローブに魔力を流せば、わたしを傷つける類いのものは全て弾かれる。これがあるから、わたしは安心して出歩けると言ってもいい。
でも。この世界ではわりと過剰なものかなと今は思ってる。だって誰もそんな魔道具は身につけていないから。
もちろん神様なんだから、魔道具に頼ることなく瞬時に結界を構築できるのかもしれないけど……。少なくても、そういった場面を見たことがない。
テレビを見ていると、危険なことは稀にあるらしいけど……。そこまで気にしなくてもよさそう、かな。
「じゃあ、これ着てもらえる? 私の子共の時の服だけど」
「サキ様の……!?」
神様が着ていた、服!? それは、なんて恐れ多い……!
「い、いけません! そんな大事なもの……!」
「着なさい」
「はい」
命令だった。ちゃんと着ます……。
神様から受け取った服は、とても動きやすいもの。黒いシャツに灰色のパーカー、それに赤いスカートだ。本音を言えばサキ様が今はいているジーンズというものの方がいいけど、贅沢はだめ、だよね。
ハナ様は薄いピンクのワンピース。とてもかわいい。
そうして、わたしは久しぶりにこの建物から出ることになった。
服を変えるだけで、本当に注目されなくなった。二回目に出歩いた時はわりとちらちらと見られていたのに、今はもう見向きもされない。さすがはサキ様だ……!
「な、なんだかむずがゆい……!」
「大丈夫ですかサキ様!?」
「絶対にティルエルが元凶だと思うなあ……!」
「何もしてませんよ!?」
隣を歩いているだけのはずなのに……!
今回の目的地は、デパート、というものらしい。とても大きなお店なんだとか。どんなお店なのか、今からとても楽しみだ。
そのデパートに向かうためには、電車に乗る必要があるとのことで。
「まずは切符を買います」
「はい!」
「はーい!」
券売機、というもので切符を買う。サキ様に言われるままにお金を入れて、ボタンを押して……。すると小さな紙が出てきた。折れ曲がりにくい不思議な紙には、文字や数字が書かれてる。
地名と、金額かな? これを見せるというわけか。わたしの世界の乗合馬車みたいなものだと思う。こういうところは変わらないんだなって……。
サキ様に言われるままに紙を大きな箱みたいなものに入れると、カシュッと吸い込まれて反対側から出てきた。
「なにこれ!?」
「はーい、いいから通ってね。ちゃんと切符も忘れずに取ってね」
「は、はい……!」
す、すごい! 自動だ! どういう仕組みか分からないけど、この箱が紙の文字を認識してるのかな……! なんて魔法なんだ! 調べたい! すごく! 調べたい!
「はーい、行くよー」
「ま、待ってくださいサキ様! もうちょっと、仕組みを調べて……!」
「数百人を乗せて動く乗り物、見たくない?」
「なんですかそれ!?」
見たい! すごく見たい! 是非とも見たい! ハナ様にすごく笑われてるけど、そんなこと気にしていられない!
ホーム、という場所に連れてこられた。乗り物なんてないけど、どこに……。
そう思っていたら、この空間に声が響いてきた。なんとかが通過するので気をつけて、みたいな内容だったと思う。
その少し後に、ホームの横の広い空間を、大きな箱のようなものがすごい勢いで走り抜けていった。
「な、な、な……!」
速かったから詳しい大きさは分からない。分からなかったけど……。想像以上の大きさなのは分かった。あの大きさのものが、あのスピードで運ばれていくなんて……。これが、電車……!
「神様……想像以上です……!」
「神様言うな。さっきのは特急電車だから止まらなかったけど、次に来る電車は止まってくれるからね。それに乗るよ」
「はい!」
三分ほど待つと、その電車がホームに入ってきた。
ようやく全体像を見ることができたけど……。やっぱり大きい。そして広い。箱一つ一つに動力があるのかなと思っていたけど、そういうわけではないみたい。あの箱のほとんどに人が入ることができるみたいだ。
ドアが勝手に開いて、大勢の人が降りて、そしてまたわたしたちが乗って……。これが、神様の世界の、乗合馬車……!
「馬とかは使ってないから馬車ではないけどね」
「さすがに馬では無理なスピードですね……。もっと違う、特殊な動物が……」
「動物じゃないね」
「動物じゃ……ない……!?」
じゃあどうやって走ってるのこの乗り物!? 意味が分からない! しかもやっぱり魔力を感じない! 本当に意味不明すぎる!
これが……電車! 神様の乗り物! 素晴らしいなんてそんなレベルじゃない!
窓の外を見ていたら、電車が走り始めた。スピードが上がっていき、すぐに景色が目で追えなくなる。すごいスピードだ。速さもやはりすごい……!
それに何よりも! 乗り心地! がたがた揺れる馬車と比べると、ほとんど揺れてない! 速さ、乗り心地、これらを両立させるなんて……! 神様は、すごい!
「いやあ……。ティルエルを連れてきてよかった。おもしろい」
「魔女のおねえちゃん、かわいいね!」
ああ……本当に……来てよかった……!
壁|w・)ティルエルは気づいていませんが、サキはICカードで通っています。
切符の興奮で気づかない魔女。




