10 魔女の人助け(おばあさん)
「あれ?」
歩いていたら、大きな買い物袋を側において休んでいる老人を見かけた。神様の一人、みたい。神様にも老いはあるみたいで、歩くのも辛そう。
こういう時まで魔法を使わないなんて……。本当に徹底してる。きっと、若い世代の手本になるようになんだ。神様はみんなかっこいいなあ……!
でも。さすがにちょっとかわいそうだと思う。神様に対してかわいそうなんて恐れ多いけど、わたしが勝手に魔法を使う分には構わないはず。怒られるのはわたしだけのはずだから。
「すみません」
その老人、おばあさんに声をかけると、おばあさんは少しだけ驚いたように顔を上げた。わたしを見て、なんだか柔和な笑顔を浮かべる。優しそうな神様だね。
「はいはい。どうかされました?」
「いえ、あの……。荷物、重たそうだなって。代わりに運びます」
「あらあら……。いいの?」
「はい」
おばあさんの荷物を杖で軽く叩く。するとその荷物はふわりと浮かび上がった。わたしのとなりにふわふわと滞空してる。わたしについてくるから、このままおばあさんと一緒に向かえば大丈夫。
物を飛ばしてしまっているけど……。わたし自身は飛んでないから、大丈夫……だよね?
おばあさんを見る。目をまん丸にしてわたしと荷物を見ていた。これはだめなやつ……?
「あ、あの……」
声をかける。おばあさんは何も言わず、わたしをじっと見つめてくる。
「この荷物……わたしについてくるので、おばあさんの家まで一緒に行きます」
そう言うと、おばあさんは優しく微笑んでくれた。よかった、怒られないみたい。
「そうなの? 最近は本当に便利になったわねえ……。じゃあ、一緒に来てくれる?」
「はい!」
というわけで、おばあさんと一緒に歩く。本当はおばあさんも浮かせてあげたいところだけど……。さすがにそれはだめだと思う。おばあさんも飛ぼうとしないし。
いや待って。そう思うと、荷物を浮かせるのもだめだったのでは? おばあさん、もしかして、仕方ない子ねえ、みたいな感じで呆れていたのでは!? どうしようすごく恥ずかしい。
「あらあら。どうしたの? 顔が真っ赤よ」
「な、なんでも……ないです……」
「そう?」
ちょっと自分の考えなしの行動に恥ずかしくなってるだけです。気づけば周りの人も、昨日みたいにスマホをこちらに向けてきてる。サキ様から聞いた。あれは写真を撮ってるんだ。
つまり、証拠の確保! 逃げ場が……ない……!
「あ、あらあら。今度は真っ青になっているわよ?」
「だ、大丈夫です……」
「本当に……?」
本当に大丈夫です。サキ様から怒られる未来が見えて落ち込んでるだけです。
そのまま十分ほど歩いて、おばあさんの家にたどり着いた。ちょっと古いけど大きな家。やはりこの神様は高位の神様なのかもしれない。
荷物を玄関に置いてから、おばあさんに言った。
「それじゃあ、わたしはそろそろ行きますね」
「あら。よければお菓子でも食べていかない? お礼になるかは分からないけれど」
「うぐ……。魅力的な提案ですけど、急ぐので……」
「あらあら。じゃあ、また何かあればいらっしゃい。あたしにできることがあれば力になってあげるからね」
「ありがとうございます……!」
おばあさんにしっかりと頭を下げて、わたしはその家を後にした。
さて……。もう完全にやらかしてしまったことだし、気にしても仕方ない、よね。空を飛んでしまおう。そろそろ急がないと、サキ様の食事に間に合わないかもしれないから。
その場で空を飛んで、サキ様のいる建物にまっすぐ向かう。地上にいる人にやっぱり写真を撮られるけど、もう気にしないことにする。サキ様には後で全力で謝ろう。
開き直って移動を続け、すぐにサキ様のいる建物……。中学校にたどり着いた。
ここは、わたしが最初に転移してきた場所だ。あの場にいた皆さんが勉強中の神様で、男の大きな人が指導役だったのかも。神域もわりと人間界みたいなものだったりするのかな?
サキ様は……校舎、だね。四階の部屋で勉強してるみたい。窓際にいるみたいで、ここから少し見える。
どうやって行こう? 門は閉まってるけど……。勝手に入ったら、自動で迎撃する魔法とか発動したりしない? するよね?
わたしが門の前でどうしようかと悩んでいたら、学校の方から大きな音が鳴り始めた。鐘みたいな、でもちょっと違うような、不思議な音。
その音と同時に、学校の人たちが一斉に動き始めた。ずっと座っていた人たちが立ち上がったりし始めてる。これは……ご飯では……?
え、え。どうしよう。本当にどうしよう。やっぱりここは入って……。
あ。サキ様と目が合った。
サキ様がわたしを見て、完全に動きを止めてる。そして勢いよく窓に張り付いてわたしをよく見ようとしてる。
えっと……。ああ、そうだ。お弁当を掲げれば、気づいてくれるかも?
亜空間からお弁当を取り出して掲げると、サキ様は体を引っ込めた。ちょっと遠視の魔法で見てみよう。
サキ様は慌てた様子で机の横にある鞄を開いて、中を確認して……。
「サキー。一緒に弁当食べよ……」
「ごめんちょっと待って!」
「え?」
そう言ってサキ様が大急ぎで部屋を飛び出して……。階段を下りて……。わたしの方に向かってきてくれてるみたい。よかった、ちゃんと気づいてくれたらしい。
少し待つと、すぐにサキ様が走ってきてくれた。
「ティルエル!」
「お疲れ様です、サキ様! お弁当を忘れていたみたいだったので、届けに来ました!」
「う、うん……。それはすごくありがたいんだけど……。目立ったことはしてない……?」
「…………」
「なんで目を逸らすの?」
心当たりしかないからです。黙秘は……だめですか……?
サキ様がポケットからスマホを取り出した。そして。
「うわあ……」
そんな声が聞こえてきてしまった。
確か、スマホはあのテレビのニュースのような内容も調べられるんだっけ。つまり、わたしがいろいろやってしまったものも見てしまったわけで……。とても、恥ずかしい。
「あの……。ごめんなさい……」
サキ様に頭を下げると、サキ様は苦笑いしてわたしの頭を撫でてきた。
「元はといえば私がお弁当を忘れたのが原因だからね。気にしなくていいよ。それに、いいことをしていたみたいだし」
「いいこと、ですか?」
「あは。ティルエルは優しいね」
サキ様がわたしの頭を撫でて、頬をぷにぷにして……。くすぐったいのでやめてほしい。あ、でも、気持ちいいから、やめてしまうのももったいない気も……。
「サキ!」
「げ」
そんな知らない声。いや、知ってる。さっきも聞こえた声だ。
「アユミ……」
「なにしてるのよ」
アユミと呼ばれた神様がこっちに歩いてくる。サキ様と同じ服だ。きっとアユミ様も勉強中の神様なんだと思う。
アユミ様はわたしを見て、目を瞠った。
「ね、ねえ。サキ。その子……」
「うん……」
「噂の魔女ちゃんじゃない!」
「あはは……」
アユミ様がわたしに駆け寄ってくる。そうして、じっと観察してくる。ちょっと恥ずかしいけど、拒否をするのも失礼、だよね?
「ねえ、サキ」
「なに?」
「厄介ごと?」
「…………。否定はしない、かな」
厄介……。やっぱり、わたしがサキ様の元にいるのはサキ様にとって迷惑なのかもしれない。やっぱり、早急に出て行かないと……。
「こら」
「あう」
そんなことを考えていたらサキ様に頭を小突かれてしまった。ちょっとだけ、痛い。
「変なこと考えてない?」
「へ、変なこと、ですか?」
「出て行った方がいいかも、とか」
「さ、さすがサキ様……! わたしの考えていることが分かるんですね……!」
読心の魔法? ああ、すごい! 魔法を使ったような感じはなかったのに……! さすがはサキ様! きっと勉強中の神様の中でも成績優秀なすごい神様なんだ……!
わたしが尊敬の眼差しを送ると、何故かとても呆れられてしまった。意味が分からない。
「あのね。ティルエル」
「はい!」
「勝手に出て行ったら怒るから」
「え」
「絶対に、許さないから」
「…………」
こわい。つまり、勝手に出て行くと、サキ様の逆鱗に触れてしまう。それは……それは嫌だ。神罰とかとても怖いから絶対に嫌だ。
「わ、わかりました……」
「よろしい」
満足そうにサキ様が頷いて。
そしてアユミ様が言った。
「つまりこの子はサキの家に住んでいるというわけね」
「あ」
サキ様がしまった、といった顔をするけど、隠そうとしていたのかな。そうなら、悪いことをしてしまった。わたしのせいだ。反省しないと。
「まあ……。うん。そんなところ」
「ずるい」
「え」
「ずるい! 私もこの子と仲良くなりたい! 今日サキの家に遊びに行くから!」
「ええ……」
なんだか……。よく分からないけど、アユミ様がサキ様の家に来るらしい。何か準備をしないといけないかも。必要なものとかあれば買い物も……。
「ティルエル」
「はい」
「家に帰ってじっとしておこうか」
「はい……」
ちょっと強めにそう言われたので、わたしはまっすぐ家に帰ることになった。怒られなかっただけ良しとしないとね……。
壁|w・)なんだかんだと放っておけないティルエルでした。




