怪異とおまじない
前作、怪異探検~花子さんと心深ちゃん~の裏側の話
「今日で三人目ですね」
「まーたおまじないやったのね…アレに勝てるわけないのに…」
おかっぱ頭に赤いスカートを穿いた花子は、読んでいた雑誌を閉じて放り投げると、近くにあった鏡で中の様子を見ていた
そんな花子の側にいた男は、花子の投げた雑誌を拾うと表紙の題名に目を瞬かせた
「月刊地獄便所、今流行りの花子さんファッション特集…何ですかこれ?」
「知らないの?トイレの花子さん達が必ずと言って良いほど読んでるバイブルみたいなもんよ。今回はファッション特集の他に、最近人間の間で流行ってるおまじないが載ってたわ」
(そもそも花子さんって赤いスカート以外履くんですか?)
男は不思議に思いながらパラパラとページを捲ると、あるページに目を止めた
それは流行りのおまじないのページであり、最近、中高生の間でこっくりさんよりも効果的で直ぐできると噂になっているおまじないと書いてあった
しかし、注釈にはアレとのかくれんぼに勝てればと書いてあった
「なるほど、SNSとかの普及で広がり易いんですね…誰がこれを広めたんだか…」
「天邪鬼が最近SNSデビューしたって言ってたからそれかな?あの子凄いみたいよー、加工で別人になれるし便利って言ってた」
どうして天邪鬼がSNSデビューできたのか、どうして花子がそれを知っているのか色々聞きたいことがあったが、全ての疑問を飲み込んだ
男は人間がアレに襲われているのを花子の鏡で見ながら呆れていた
「っ!?こ、これは!!」
男は花子が廃墟の入り口の方へ向かった後、気になって鏡で様子を見ていた
花子が一人の女性と何か話しており、説明が終わったのか二人で手を繋いで仲睦まじく歩いていた
実際は花子が脅して言うことを聞かざるを得なかっただけだが、男は珍しい行動に驚いていた
しかし、男が一番驚いたのは、いつもの愚かな人間ではなく男好みの穢れなき真っ白な魂を持った人間だったことだ
見た目は怪異の影響があるのか少しブレていたが、可愛らしい顔を恐怖で歪めていた
花子に言われた通り叫ばないよう頑張っている姿がいじらしく、男は自身の顔にかかっている布を捲り上げた
晒された顔は人外特有の美しさを持っており、その顔から発せられる熱く色っぽい吐息は目の前に映る心深に向けられていた
「心深…なんて美しい魂なんでしょう。貴女のその顔が魂が色付いた時には一体どんな快楽があるのでしょうか」
「え…キモッ、アンタそういう性癖だったの?」
花子に用があったメリーさんは口裂け女と共に花子が普段いる神社にやってきたが、偶然男の呟きを聞いてしまい、「人形なのに鳥肌がたった」と言って口裂け女と共に冷たい視線を向けていた
「まぁ、趣味嗜好はそれぞれだから…あら?この子…」
「知り合い?もしかしていつものをやった相手とか?」
「突然どしゃ降りになった時に使ってたビニール傘くれたのよ…お家が近いから大丈夫って言ってたけど、あの後大丈夫だったのかしら?」
「貴女、口裂け女なのにどんくさい方ですね」
「それがこの子の可愛い所じゃない」
呆れ顔の男にメリーが胸を張って言うと、口裂け女は困ったように眉を下げた
暫くすると花子が戻ってきた
花子にメリーと口裂け女が幾つか質問した後、次回の女子会の予定日と場所を伝えた
「時間はいつも通りで良いみたい。濡れ女が水羊羹持って行くって」
「産女さんは新しいおべべを作ったと仰ってましたよ」
「じゃあ次は私が着せ替え人形になるのね」
二人を見送った後、花子は男にニヤニヤした顔で近付いた
男は布を被り直すと、何事もなかったかのように詳細を聞いた
「原因は分からないけど、ココはいつの間にか迷い込んだみたい…女狐から根付けを貰ってるから大丈夫だと思うけど、今他の子達と一緒にアレと勝負中」
「可哀想に…私が代われるなら代わりたいほどです」
「……本物よね?狐達の悪戯じゃないわよね?」
ギョッとした顔で男を見た花子は、鏡に熱い視線を向けている男に本物なのか尋ねたが、男は上の空だった
「ん?流石ココ!偉いじゃん♪じゃあ、迎えに行ってくるわね~♪」
鼻歌を歌いそうな勢いで花子が部屋に向かうと、男は何処からか取り出した水晶玉で心深の泣き顔を記録した
花子達がこっちに向かってくるのに気が付くと、急いで自身の服の乱れや何処からか取り出した香で香りを纏い声のする方に足を進めた
障子を開け、自身の声をフル活用して心深の動きが止まった隙に、心深の目元に手を近付け泣く前の状態に戻した
驚きながらもお礼を言う心深に布で隠された目は妖しく笑っていた
心深が帰った後花子と他愛もない話をしたが、男は心深のことしか考えていなかった
「ココに手を出しちゃダメよ」
「心深様から求められればよろしいですよね」
疑問符を付けず念押しするかのように花子に言うと、花子は小声で「あいつに頼んどこ…」と呟いた
普段なら聞き取れる呟きも、男は心深のことを考えていた為聞いていなかった
『…………っ…ご、ごわ゛がっだあ゛あ゛あ゛ぁ。はな゛こ゛さん゛、ごわ゛がった゛よ゛ぉ゛ぉ゛』
「!?!?アンタ…まさか、ココのこと録画してたの!?」
「はぁ…貴女の名前なのが癪ですが、心深様が可愛らしいので良いでしょう」
「聞きなさいよこの変態野郎!」
水晶で記録した心深の泣き顔を何度も再生した男は、花子にドン引きされていることも視界に入らないのか、自身の昂りを静めていた
それを見てしまった花子は、かつてないほどの男の変態的行動に急いで伏見へ向かった
「ふ、伏見!!あ、全員伏見だわ…末っ子女狐!どこにいるの!!」
「あら、花子さんじゃない。ウチの妹に何かご用?」
「あいつ!あの男が変態で、ココが犯されそう、兎に角ヤバイ!」
支離滅裂になりながらも説明しようとした花子に、狐達は末っ子を呼ぶ為に一鳴きした
直ぐに来た末っ子に、花子は順に全てを話した
「あらまー。彼、そうは見えなかったけど、やっぱり獣なのね~」
「花子さんがいうクソデカヤンデレ愛はその人間に受け止められるのかしら?」
「姉さん、同種であっても無理だと思います…彼のことは先程メリーさん達からも話を聞いてるので…」
女子会メンバーの一人である末っ子は、先程メリー達から日程等を聞いていたのと同時に男の趣向も聞いていた
末っ子も見た目から想像つかない男の行動に引いていたが、花子からの話で納得した
「でもぉ、ココちゃんは根付け持ってるんでしょ~?大丈夫じゃなぁい?」
「……ココから求めれば問題ないって言ってた男よ?」
花子の言葉に全員が黙ると、末っ子が「できる限りの努力はする」と一言言った
姉達は、「たまーに、私達が邪魔しましょうね」と楽しそうに言っていたが、末っ子は内心厄介が増えるから辞めてくれと思っていた
花子が伏見から帰ると、男は普段通りに戻っていた
室内の異臭に気が付かないフリをしながら、花子はいつものように自身の役割を果たした
「ホントに捕まんないでよココ…」
花子さん:都市伝説でお馴染みのトイレの花子さん。現在はちょっと特殊な位置にいるが、おかっぱ頭に赤いスカートは健在
怪異の中では古参に入る
メリーさん達と仲が良く、女子会をよくする
偶然迷い込んだ心深を帰してあげたら、側付の男が魂の一目惚れしちゃって大変なことになった
性格悪めの素直になれない系だが、それなりに良心はある
男:花子の側付してる口元以外布で隠すイケメンボイス持ちの怪異
見た目は人外特有の美しさを持ってるが、花子より達が悪い
心深に対する執着が凄く、自身含め心深ごと壊しそうな勢いの愛を秘めている
録画した心深の泣き顔だけで何度も妄想と欲をぶつけたが、遂には花子に許可とって専用の部屋を二つ作った
一つは心深の写真や映像、手製のぬいぐるみなどを飾り欲望をぶつける部屋
もう一つはいずれ拐う心深を閉じ込める愛の巣
花子には別の理由で許可を貰ったが、花子に気付かれるのはまだ先の話
伏見:狐達。末っ子が偶然心深に根付けをお守り代わりに出会った際渡していた
花子とは長い付き合いだが、男のことはメリー達から聞いて今回危険と判断した
姉達に振り回されながらも花子に頼まれた通り心深を脅威から守っているが、男が本気出してきたらかなりヤバイと思っている
姉達は「ココちゃん可愛い~」と言って度々会ってるらしいが、心深本人は「?(綺麗なお姉さんに凄い声かけられる)」位しか思ってない
メリーさん、口裂け女:「今○○にいるの」でお馴染みメリーさんと「私、綺麗?」でお馴染み口裂け女
メリーさんは可愛らしい金髪碧眼で水色のドレスを着たお人形だが、言葉使いは花子さんに似てちょっと乱暴
口裂け女は長い髪とコート、大きなマスクとお馴染みのスタイルだが、他の口裂け女と違って少し抜けてる。育ちが良いのかお嬢様みたいな感性の持ち主で、時々「ホントに口裂け女?」と皆に確認される
メリーさんはそれを可愛い個性と見ている
女子会メンバー:濡れ女、産女、鬼女等の女性怪異がいる。新人の頃の花子さんに月刊地獄便所のことを教えたのもここのメンバー
後に話題に出てくるココという人間の話に何匹かの怪異のレーダーがピピッと反応している