苦悩糸
生徒のざわめきの中
私は、放課後の放送を、聞き流しながら
なんとなく、告白されていた
「それで、今日は、いつ帰る」
昼休みの短い時間
そんな中で、私は、数分にも、満たない短い時間の中で
今日いつ、帰るかを、話し合っていた
夏服が、良く似合うような、短いショートカットと
健全な張りのある筋肉質な肌が、わずかに、褐色に、赤く、色を付けている
そんな大きな瞳は、つい最近まで、していなかった
わずかな、黒い化粧が、目じりに、アイラインが、引かれ、ただでさえ、特徴的な瞳が
より私に、大きく、見せつけられているようであった
これほど、魅力的な、彼女の意識が、私に向かっているのを、感じて、私は、どこか、上の空だった
彼女と、初体験したのは、強引な流れで、彼女の家であった
彼女は、毎年、家族で、海外旅行に、行っていたらしいのであろうが
その年は、両親に、部活が忙しいから、いけないと、言って居たと言う
私は、部活帰り
彼女に、今日あたりで、そろそろ、半袖に、衣替えを、しようとしていた
長袖を、掴まれて、振り返った
誰だろうと、その相手を見ると
彼女は、わずかに、私の方へと、袖を、手繰り寄せるように、引っ張ると
声を、私にだけに、聞こえるように、ひそめ
私の顔を、見て言うのである
「今夜、私の家に、来て」
帰り道、私は、一連の話を、彼女から聞いた
本当に、彼女は、自分でいいのだろうか
私は、数あるうちの一人になるだけなのではないだろうか
いや、家族を、振ってまで、彼女は、私に、何を、望んでいるのだろうか
私たちは、つつがなく、全てを終わらせた
彼女は、はじめは、痛がったが
しかし、体育会系のせいなのか、それとも、ある程度、予想が、ついていたのか
そのうち、恥ずかしさからくるのか
どうかは、分からないが
その体のこわばった、緊張は、ゆるみ
次第に、私に、その体を、預けてくれた
結果として、私も、逝くことは出来た
彼女が、買っておいてくれた
あの小さなコンドームの箱は、私が、結局
初めて、買うことなく、彼女のおぜん立ての中で、使う事になった
学校の授業で、配られたことはあったが
私の財布の中身を、妹が、面白半分にあけたとき
風船として、私の元から、巣立ってしまっていた
考えてみれば、彼女が出来たと言う事は、こういう事になる可能性も、考えて、買っていて、不味いはずはなかったのであろうが、私は、実に、ふがいなく
ただ、流れに、濁流に、押し流されるように
この行為は、終わりを告げた
彼女の中から、何かが、抜けたように、私の体の上に、体重が、存在した
そんなものは、生まれてこの方、それこそ、小さいときに、誰かから、抱きつかれたりするような
そんな、子供を作るような、行為とは別の
そんなものを、連想させたが
しかし、現に、私の上に、自分一物の入った
別の誰かが
良いボディーソープなのだろうか
匂いをさせて、安心して、そこにいる
私は、彼女に
「大丈夫だった」
そう聞くと
彼女は、頷くと、軽く、頭を、私の胸に、隠すように、こすりつけると
わずかな、吐息が、胸から聞こえてきた
その恥ずかしがるような行為を見ながら
私は、一度も、来たことのない
他人の家の
それも、女性の
いや、彼女の部屋の
それも、彼女のベッドの上に、両者
寝ている
その目は、彼女でも、性的興奮でもなければ
ただ、天井を、見ていた
私は、どうして、ここにいるのだろう
これが、男に、大人になったと言う事なのだろうか
私は、いきなり、紙コップが、そこが抜けて、水が、落ちていくような
奇妙な驚愕するような、感覚に、陥っていた
何が、不満なのだろうか
奇妙だ
気持ちい
しかし、それだけなのである
何一つ満たされない
それどころか、自分が、酷く場違いで、そして、彼女に対して、ものすごく、申し訳ないような気がしてくる、彼女に見合うように、彼女よりも、勉強も、部活も、頑張ったほうが、良いのかもしれない
しかし、彼女は、私の、何処が好きで、自分を、そこまで、犠牲にして、私に時間を、使ってくれているのであろうか
私は、悩みの中で、それでも、彼女の中にいた
こすりつけるように、何かを、探すように
もちろん、慎重に、相手に、重みにならないように
触る部分は、出来るだけ、一物のみ
体重も、かけないように、慎重にしているのは、まるで、訓練か、筋トレの様だ
しかし、彼女も、何度か逝ってくれるし
私も、その間に、何度も逝けるし
そして、彼女に合わせられるように、努力した
彼女はいつも、笑って、良かったと言って、私に、猫のように
すり寄ってきてくれた
でも、どうしてだろう、別に、性格的に、そして、一緒にいてつまらないというわけではない
これは、何の不満であろうか
何が、何かが、何が、一体足りないと言うのだろうか
この欲望は、何だ
それは決して、健全な願望ではない
もっとそう、いや、これはエロだ
エロの願望だ
ただ、私が、それに、気が付いた時には、
彼女も、私の葛藤に、気が付いていたらしかった
どうやら、私は、自分の快楽について
全く興味が無いように、思えていた
最近、彼氏の様子が、おかしいと感じる
一緒にいる時
手を握った瞬間
目線の動き
何かを、食べているとき
私と一緒に抱き合って居ているとき
何か、妙な、胸騒ぎを、私は、覚えていた
どこか、私の手に届かない
何かを、抱きしめているような
砂の城を、掴んでいるような
そんな、不安感
私は、彼と付き合い始めて、半年が、経とうとしていたが
その日、彼は、何か、用事があると言って、一ヶ月ほど前から、私に、前もっての連絡をしていた
それについて、特に私は、特に、不審に思う事もなかった
それこそ、人間と言うものは、生きていれば、様々な用事が、絡んでくる
私だって、祭りの用意や、受験勉強
彼と一緒にいる以外にも、様々な行為を、行わなければならないし
それを、彼に話すこともあれば、話さないこともある
私は、その程度のことと考えていたが
しかし、むくりと、起き上がった、その奇妙な、疑惑は、
私を、彼の行動の心理は、一体何なのかと、考えさせた
とりあえず、私は、彼が、予約があると言う
放課後に、集点を当てて、探りを、入れてみることにした
しかし、一週間ほど前から、彼の好きな本の発売日や
予約を入れそうな、場所を考えてみたが
ここになって、彼が、一体どこに行きたいのかを、全く知らないことに、気が付き始めた
二人でいる時は、なんとなく、二人で、無理のない方向か、私が、やりたいことを、決めていたが
彼がそれに対して、何か、嫌だと言った記憶はない
それを、肯定だと、私は、考えていたが、もし、それが、違っていて
彼に無理をさせていたのだとしたら
彼は、一体、私に黙って、いや、断って、何処に行こうとでも言うのだろうか
外枠から、埋めて言った、そのクロスワードパズルは
結局、そのワードを、私の脳内で、完結させる事が出来ず
学校での、行事を、習慣を、調べているうちに、彼が、ついている
図書員会が、如何やら、その日は、文化祭の展示に出す用意で、放課後も残るのだと知り
私はそこで、ようやく、落ち着く運びとなった
しかし、なぜだろうか、私は、部活を、その日は、早くやめ
図書室に、制服に、着替えると、廊下を、歩いていた
それは、軽く、スキップに、似たような、早歩きであり
途中、吹奏楽部の連中に、ぶつかりそうになりながら
暗い校舎の廊下を抜けて、一人、図書室の
見える位置まで、来ていた
外は、ミゾレ交じりの雨が、ぼたぼたと中庭に降り注ぎ
その灰色の光を、わずかながらに、浴びながら
黒い背中が見えた
その黒い制服を着た大きな姿は、何度も、見て、忘れることもない、彼であった
しかし、何かに引っ張られるように、明かりの漏れる、図書室に入ると、彼は一人で、その後ろ手に、ドアを閉めた
私は、暖かな空気が漏れ出したような
それを、追うように、図書室の前に行くと
私の髪とは、対照的に、お臍辺りまで、伸ばしたような長い黒髪を
前髪を、一直線に、両断したような、線の細い女が、彼の横に、仲良く座っていた
別段楽しそうに、喋っているわけではなかったが
その目は、明らかに、物言わぬその動作とは対照的に、楽しそうな雰囲気を、語っている
あいつは、気が付いているのだろうか
一応、分別は、付いてはいるとは、思ってはいるが
しかし、誰構わず、行くようなやつだと、私が、気が付いていないだけなのだろうか
不意に、彼女が、何か、喋って、彼の肩をつかんだ
私は、扉の入り口で、ただ、銀色の引き戸の金属のへこみを、温度が常温になるほどに、掴んだまま動けずにいた
「先輩、私、縛られても、良いですよ」
曇り空であったが、彼は、晴天の霹靂のような表情を、向けて、私を見ていた
私は、彼の視線を、受けながら
掴んだ肩を、離さないように、続ける
先輩が、最近借りている本の中に、何処にも、みな縄で、縛る物が、出てきます
はじめは、偶然かと思いましたが
しかし、以前一度読んだものもあれば、先輩が借りたその日のうちに、読んだものもありました
こういうのは何ですが、みな、そんな、そう、℠の雰囲気を、私は、感じました
それでも、また、偶然だとも、思いましたが
失礼ながら、先輩の鞄を、以前、一度、みてしまったことがあったんです
その時「緊縛初級編誰でもマスター」
と言う本を見てしまって
先輩が、彼女さんと、仲良くやって居る事は、知って居ますが
でも、彼女さんは、そう言う行為を、認めてらっしゃるんでしょうか
もし、先輩が、その願望を、一人で、抑えているのでしたら
私は、付き合えますよ
私も、練習しましたし、通信教室にも入りました
先輩、私を、縛りませんか」
私は、彼の方から手を放す
そこには、何かに、縛られたような、目線が、私の方を、向いていた
私は別段、彼の愛がほしいわけじゃない
私は、彼の興味が、欲しいだけ